夢の中でトレーニングすると、現実の自己効力感が向上しパフォーマンスもアップする?
若年のアスリートと非アスリートを対象に、明晰夢(夢であると理解しながら見続ける夢)を見る頻度などを調査した結果が報告された。全体としてアスリートか否かで顕著な違いは認められないという結果だが、アスリート群において夢の中でスポーツをした場合に、そのことがパフォーマンス向上につながると考えている割合が5割近くで、自己効力感(self-efficacy)が高まると考えている割合は6割に上ることなどが報告されている。オーストラリアの研究者の論文。
自己効力感(self-efficacy)とは
自己効力感(Wikipedia)夢の中で夢を変えられることもある明晰夢
一般人口の55%が生涯で一度は明晰夢を見て、23%は頻繁にみるというデータが報告されている。明晰夢をたびたび見る人は、意図的にそれを見たり、夢の展開を自分の好みに変えたりできることがある。そのような意図的な明晰夢の誘導が、睡眠の質の低下と弱い関連があるとする報告があり、またその関連を否定する報告もある。ただ、いずれにしてもこれらの研究の大半は、例えば睡眠時無呼吸が問題となることの多い中年期以降の人を対象にしたものであり、若年者での知見はほとんどない。
若年者の場合、睡眠の質の低下は学業成績の低下につながりやすく、またアスリートの場合は怪我のリスク増大、回復の遅延、パフォーマンスの低下も来すことがある。これらを背景として、今回紹介する論文の著者らは、10代から20歳前後の若年者を対象に、アスリートまたはダンサーと非アスリートにおける明晰夢を見る頻度や、その内容を意識的に変えようと試みる割合、明晰夢を見ることの覚醒時への影響、睡眠習慣などに関する調査を行った。
アスリートの6割強が明晰夢を見た経験があり、その約3割が夢の中でスキルを磨く
この調査はオンラインで行われ、ソーシャルメディアやスポーツクラブを通じて回答を呼びかけた。解析対象者数は193人で、年齢は17.40±2.09(範囲14~21)歳、男子45.6%。睡眠障害や精神疾患の既往のある人、睡眠に影響を及ぼす薬剤を服用中の人、怪我や疾患のために活動が制限される状態の人などは除外されている。大半(86.5%)はオーストラリアからの回答だったが、英国、ニュージーランド、シンガポール、オランダ、中国、エジプトなどからの回答もあり、日本からの回答も0.5%と記されている。
全体の46%がアスリートまたはダンサーで、アスリートが行っている競技は、陸上、水泳、バレーボール、ロッククライミングなど多岐にわたり、ダンサーはバレエ、コンテンポラリーダンスなど、いくつかのジャンルで活動していた。アスリート/ダンサー群(以下では「アスリート群」と省略)と非アスリート群とで、年齢や性別の分布に有意差はなかった。
なお、本調査では回答者に対して、明晰夢について以下のように解説されていた。「明晰夢は、夢を見ていることを自覚する夢。その自覚は、ほんの一瞬のこともあれば、長い時間続くこともある。時には夢の内容を自発的に変えられることもある一方で、何もせずに、ただ受動的に夢の展開を観察することもできる」。
明晰夢を見る人の割合と、明晰夢を見た時の対応や生かし方
生涯で明晰夢を見たことがある人の割合は、全体で67.4%であり、アスリート群/非アスリート群に分けると、前者が63.6%、後者が70.5%で有意差はなかった。また全体の30.0%は、月に1回以上の頻度で明晰夢を見ていた。
明晰夢を見た時(見る時)にすることを、事前に設定した7種類の回答から選択してもらったところ、最多は「受動的な観察(何もせずに夢を見続ける)」で67.5%であり、次いで「楽しむ(飛ぶ、踊る、ファンタジーの世界に自分を登場させる、性的交流をもつなど)」が43.1%、「悪夢を楽しい夢に変える(登場人物を別の人に変えるなど)」が42.3%、「特定の問題を解決する(学業や他者との対立について)」が26.0%、「アイデアの創造に利用する(文章や楽曲の創作など)」が20.3%であり、次いで「スポーツ/ダンススキルのトレーニング」が17.1%だった。選択率が最も低かったのは「スポーツ/ダンス以外のスキルのトレーニング」で5.7%だった。
「スポーツ/ダンススキルのトレーニング」の選択率は、アスリート群は28.3%であり、明晰夢を見るアスリートの約3割がそれをスキル向上に役立てようとしていることがわかった。一方、非アスリート群の「スポーツ/ダンススキルのトレーニング」の選択率は8.6%だった。
夢の中でスキルを磨くと、リアルな世界での自己効力感がアップする
次に、明晰夢を見た時に「スポーツ/ダンススキルのトレーニング」をすることが、覚醒時のパフォーマンスや自己効力感(self-efficacy)に影響を与えているか否かを質問した。
パフォーマンスへの影響
まず、パフォーマンスへの影響については、42.9%が「向上する」、6.7%が「向上しない」、52.4%が「わからない」と回答した。これをアスリート群と非アスリート群に分けてみると、「向上する」はアスリート群が46.7%、非アスリート群は33.3%、「向上しない」は同順に6.7%、0%であり、いずれもアスリート群が多く、「わからない」は46.7%、66.7%で非アスリート群に多かった。
自己効力感への影響
自己効力感への影響については、57.1%が「向上する」、9.5%が「向上しない」、33.3%が「わからない」と回答した。アスリート群と非アスリート群に分けると、「向上する」はアスリート群が60.0%、非アスリート群は50.0%、「向上しない」は同順に13.3%、0%であり、いずれもアスリート群が多く、「わからない」は26.7%、50.0%で非アスリート群に多かった。
これらのほかには、明晰夢を見ることが睡眠の質に悪影響を及ぼすというエビデンスは認められないこと、睡眠時間や日中の眠気、睡眠障害の有病率などはアスリート群と非アスリート群で有意差がないものの、睡眠の質はアスリート群のほうが良好であること、全体として平日の夜間に睡眠不足となっている人が多いことなどが報告されている。
論文の結論部分には、「明晰夢を見ている最中にスポーツスキルのトレーニングをすると、スポーツパフォーマンスよりも覚醒時の自己効力感が高まる可能性がある」と記されている。
文献情報
原題のタイトルは、「Sleep and lucid dreaming in adolescent athletes and non-athletes」。〔J Sports Sci. 2024 Aug;42(16):1566-1578〕
原文はこちら(Informa UK Limited)