スポーツ栄養WEB 栄養で元気になる!

SNDJ志保子塾2024 ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー
一般社団法人日本スポーツ栄養協会 SNDJ公式情報サイト
ニュース・トピックス

「社会的時差ぼけ」はダイエット効果を弱くする? トレーニングジム利用者1.2万人の観察研究

平日の睡眠不足を休日の寝だめで調整するといった生活による「社会的時差ぼけ」が起きている人は、ダイエットに取り組んでもその効果が十分でなくなることを示唆するデータが報告された。東京医科大学精神医学分野の志村哲祥氏、三邉佳意氏らが、トレーニングジム(RIZAP社)が提供する減量・体組成改善プログラム参加者約1.2万人のデータを解析した結果であり、「Sleep and Biological Rhythms」に論文が掲載された。

男性のLDL-C低値と自殺リスクが関連? 韓国国民健康栄養調査の横断的解析

海外に行ってないのに毎週繰り返す時差ぼけ「ソーシャル・ジェットラグ」

睡眠時間が短いことや、夜型の生活が肥満や代謝性疾患のリスクの高さと関連があることはよく知られている。さらに近年では、平日と休日の睡眠時間の差が大きいことによる「ソーシャル・ジェットラグ」の健康への影響が懸念されるようになってきた。

ソーシャル・ジェットラグ(social jetlag;SJL)、つまり「社会的時差ぼけ」とは一般に、平日は睡眠時間を削って仕事や勉強などを頑張り、それによって生じた睡眠不足を解消するために休日は昼頃まで寝ているといった生活により生じる時差ぼけを意味する。土日の寝だめによって睡眠負債は返済できたとしても、月曜日の朝はいつもどおりに起きねばならず、あたかも海外から飛行機で帰国した直後のように、パフォーマンスの低下が起きる。

この社会的時差ぼけ(SJL)が、BMI高値やHDL-C低値、中性脂肪高値、糖代謝異常と関連しているとする報告がある。ただし、減量や体組成改善を目的とする、いわゆる「ダイエット」の効果が、SJLの有無や程度によって変化するのか否かはわかっていない。志村氏らの研究は、以上を背景として実施された。

関連記事
日本人男子大学生の社会的時差ぼけの最大の原因は、講義開始時間が曜日によって異なること?

ダイエット効果を社会的時差ぼけ(SJL)の有無と程度で層別化して比較

先行研究に基づく統計学的な計算により、このトピックに関する有意性の検討に必要なサンプル数は6,500~1万9,500と予測された。このサンプル数に一致するデータとして、パーソナルトレーニングプログラムなどを展開しているRIZAP社から、匿名化された1万8,363人の利用者データの提供を受けた。そのうち体重・体組成の測定記録が1回しかなく変化を評価できない利用者を除外し、1万1,829人を解析対象とした。

約1割は睡眠時間の中間点が1時間以上ずれているSJL

解析対象者のベースライン時の主な特徴は、年齢40.4±10.3歳、男性31.2%、BMI27.0±4.8、体脂肪率(生体インピーダンス法による測定)33.4±8.1%であり、ダイエットプログラム参加期間は154.8±168.5日だった。ダイエットプログラムは、個別の栄養指導と筋力トレーニングからなり、摂取エネルギー量は基礎代謝量を下回らない範囲でベースライン時から500~1,000/日kcal減らすように指導され、筋トレは1回50分で週2回続けられた。

社会的時差ぼけ(SJL)の程度を、平日の平均睡眠時間の中間点の時刻と、休日のその時刻との差で評価すると、全体の89.2%は1時間以内に収まっていたが、9.3%は1時間以上2時間未満の範囲にあり、さらに1.5%の人は2時間以上ずれていた。

SJLの程度が強いほどダイエット効果が弱いという関係が明らかに

解析結果のうち、まずパーソナルダイエットプログラムによるBMIの変化に着目すると、SJLが1時間未満の群は-8.8%±6.9%、SJLが1~2時間未満の群は-7.4%±6.2%、2時間以上の群は-5.9%±6.3%であり、SJLの程度が強いほどBMI低下幅が小さく、すべての群間に有意差が認められた。

また、体脂肪率の変化は同順に、-19.5±16.5%、-15.9±15.0%、-12.8±18.1%であり、やはりSJLの程度が強いほど体脂肪率の低下幅が小さかった。

栄養素摂取量を調整後にも、SJLはダイエット効果と有意に関連

次に、ダイエット効果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、ベースラインBMI、プログラム参加期間、クロノタイプ〈朝型か夜型か〉、主要栄養素〈炭水化物、タンパク質、脂質〉摂取量)を独立変数とする多変量解析を施行。その結果、SJLはBMIの低下が少ないことと有意な関連が認められた(Β=0.561、p=0.003)。同様の解析で、SJLは体脂肪率の低下が少ないこととも有意な関連が認められた(Β=1.402、p=0.004)。

なお、栄養素との関連では、炭水化物と脂質の摂取量はBMIと体脂肪率の低下が有意に少ないことと関連し、反対にタンパク質摂取量は体脂肪率の低下が有意に大きいことと関連していた(タンパク質摂取量とBMIの関連は、わずかに非有意)。

感度分析として行った、睡眠時間を独立変数に加えた多変量解析では、睡眠時間とダイエット効果の有意な関連が示されなかった。また、クロノタイプによるダイエット効果への影響は、SJLによる影響よりも小さかった。

夜型生活による疾患リスクの一部は、社会的時差ぼけ(SJL)で説明できるのでは?

著者らは本研究の限界点として、観察研究であり因果関係の証明はできないこと、飲酒・喫煙・サプリメント摂取習慣が把握されていないこと、社会的時差ぼけ(SJL)該当者の割合が低く(夕方以降にジムに通える人のみだったためと考えられる)、サンプルバイアスが存在する可能性のあることなどを挙げたうえで、「交絡因子を調整後にも、SJLは運動・栄養指導によるBMI・体脂肪に対する効果の減弱と関連していた。SJLは、本人がそれを自覚し改善できることがあり、それによって効率的なダイエットが可能になるのではないか」と総括している。

なお、多くの先行研究で、クロノタイプが夜型であることや睡眠時間が短いことが、夜間の摂取エネルギー量増加や肥満、代謝性疾患のリスクであることが示されてきていることに関連して、以下のような考察が加えられている。すなわち、クロノタイプが夜型であることはSJLが存在する可能性が高いと考えられ、また、本研究のようにパーソナライズされた栄養指導が行われれば、クロノタイプにかかわらず摂取エネルギー量は守られること、および睡眠時間は交絡因子調整後にダイエット効果との関連が非有意となったことから、夜型生活によって健康に悪影響が生じるメカニズムの一部に社会的時差ぼけが関与している可能性もあるという。

文献情報

原題のタイトルは、「Association between social jetlag and weight and fat reduction in dieting」。〔Sleep Biol Rhythms. 2024 Jun 24;22(4):513-521〕
原文はこちら(Springer Nature)

この記事のURLとタイトルをコピーする
志保子塾2024後期「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」

関連記事

スポーツ栄養Web編集部
facebook
Twitter
LINE
ニュース・トピックス
SNDJクラブ会員登録
SNDJクラブ会員登録

スポーツ栄養の情報を得たい方、関心のある方はどなたでも無料でご登録いただけます。下記よりご登録ください!

SNDJメンバー登録
SNDJメンバー登録

公認スポーツ栄養士・管理栄養士・栄養士向けのスキルアップセミナーや交流会の開催、専門情報の共有、お仕事相談などを行います。下記よりご登録ください!

元気”いなり”プロジェクト
元気”いなり”プロジェクト
おすすめ記事
スポーツ栄養・栄養サポート関連書籍のデータベース
セミナー・イベント情報
このページのトップへ