テニスにはテンポが早い音楽がおすすめ? 音楽によってテニスのパフォーマンスが有意に変化
テニスのパフォーマンスが、トレーニング中に聞く音楽の種類によって有意に異なることが報告された。レクリエーションレベルのプレーヤー対象に行った研究であり、テンポの速い音楽を聞くとITNテストのスコアなどが上昇し、テンポの遅い音楽ではかえって低下するという。
異なる音楽の影響をITNスコアなどで評価
テニスの試合中に音楽を聴くことは禁止されているが、トレーニングは好きな音楽を聞きながら行っているプレーヤーが少なくない。音楽にスポーツパフォーマンスを向上する潜在的なメリットのあることに関しては複数の研究の裏付けがあり、テニスでもその効果が期待される。とくに、レクリエーションレベルのプレーヤーでは、ショットの成功などによって達成感や上達感が生まれ、そのことがトレーニングのモチベーションにつながるため、音楽がそれを後押しするという効果も期待される。
これまでにもテニスのパフォーマンスに対する音楽の効果を検討した研究が行われているが、音楽のタイプによって影響の程度や方向性(プラスに働くかマイナスに働くか)が異なるのかは十分明らかになっていない。今回紹介する論文の著者らは、これらの点について、テニススキルの国際的な指標である「ITN(international tennis number)」を評価指標に含めたうえで、異なる音楽の影響を客観的に評価した。
音楽なしと、テンポの速い音楽、遅い音楽という3条件でショット精度などを比較
事前の統計学的検討により、このトピックの有意性の検討に必要なサンプル数は30人と計算され、脱落を見込んで35人を募集した。研究参加の適格条件は、テニスの経験が2年以上ある成人のレクリエーションプレーヤー。除外条件は、運動に支障がある状態、および過去6カ月以内のサプリメントの摂取または特別なスタイルの食生活を行っていることなど。年齢は34.29±7.83歳で、ITNレベルは9~7(初心者または初級)だった。
検討結果に影響を生じないよう事前にITNテストの内容を習熟したうえで、音楽を聞かない条件、モチベーションを高めるようなテンポの速い音楽(120bpm超)を聞きながら行う条件、気分を落ち着かせるようなテンポの遅い音楽(90bpm未満)を聞きながら行う条件という3条件で、ITNテストなどのパフォーマンステストを試行した。それぞれの音楽は個々の研究参加者の好みで選択された。
各条件の試行は72時間間隔で同じ時間帯(16~19時)に、公式コートで行った。気温は25~27℃の範囲だった。また、球出しはすべて同じ1名が担当した。なお、ITNテスト試行中は動画を撮影し、経験豊富な3名のテニスコーチ(2名は2級、1名は3級)が、動画を再生してスコアの判定の正確さを確認した。
解析の結果、以下のように多くの評価指標で、音楽によるスコアの有意差が確認された。
グラウンドストロークの深さ
グラウンドストロークの深さの平均は、音楽なし条件での34.11±9.48フィート(ft)に対して、速いテンポの音楽を聞く条件では52.89±8.79ftと有意に深く、一方、遅いテンポの音楽を聞く条件では31.77±7.13ftであって、音楽なし条件よりも有意に浅かった。
ボレーの深さ
ボレーの深さに関しては、中央値で比較した場合、速いテンポの音楽を聞く条件が20ft、音楽なし条件が39ft、遅いテンポの音楽を聞く条件が22ftであり、速いテンポの音楽を聞く条件は他の2条件に比べて有意に良好だった。遅いテンポの音楽を聞く条件は音楽なし条件と有意差がなかった。
グラウンドストロークの正確さ
グラウンドストロークの正確さの結果はボレーの深さと同様であり、中央値で比較した場合、速いテンポの音楽を聞く条件(48ft)は他の2条件(前記と同順に21ft、23ft)に比べて有意に良好だった。遅いテンポの音楽を聞く条件は音楽なし条件と有意差がなかった。
サーブスコア
サーブスコアも同様に、中央値で比較した場合、速いテンポの音楽を聞く条件(26ポイント)は他の2条件(ともに12ポイント)に比べて有意に良好だった。
ITNスコア
ITNスコアは、音楽なし条件での93.20±21.46に対して、速いテンポの音楽を聞く条件では162.03±21.80と有意に良好な結果であり、一方、遅いテンポの音楽を聞く条件では89.51±16.22であって、音楽なし条件よりも有意に不良だった。
トレーニング中に音楽を聞くなら速いテンポの曲を
以上のように、全体として速いテンポの音楽を聞く条件で成績が良好であり、遅いテンポの音楽を聞く条件では、音楽がない場合よりもむしろ不良となる傾向がみられた。なお、論文の考察に述べられているところによると、これらの結果に、性別による違いは認められなかったという。
一連の結果に基づき結論は以下のようにまとめられている。
「この研究の結果は、特定のタスクを行うレクリエーションテニスプレーヤーがモチベーションを高める音楽を採り入れることは、パフォーマンスを向上させるための戦略になり得ることを示唆している。トレーニングセッション中にプレーヤーが好む120bpmを超えるテンポの音楽を聞くと、さまざまなテストでパフォーマンスが向上する可能性がある」。
一方、限界点としては、音楽の歌詞の内容や音量を考慮しなかったこと、トレーニングに対する満足度や疲労感への影響を調査していないことなどを挙げている。また、今後の研究として、実際には音楽を聞くことが困難な試合の成績にも、何らかの影響を及ぼし得るのかという視点での検討が求められると述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「The effects of different music types on tennis performance among recreational players」。〔PLoS One. 2024 Aug 22;19(8):e0305958〕
原文はこちら(PLOS)