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オーバーリーチの睡眠への影響を持久系トレーニングで検証 主観的には影響なしも客観的には悪化

2024年09月21日

持久系トレーニングでオーバーリーチとした場合の睡眠への影響を調査した研究を対象とする、システマティックレビューとメタ解析の結果が報告された。アスリート本人の主観的な評価指標には有意な影響がみられないが、客観的に評価した指標では、睡眠を悪化させる可能性が示されたという。

オーバーリーチの睡眠への影響を持久系トレーニングで検証 主観的には影響なしも客観的には悪化

オーバーリーチは回復を遅延させオーバートレーニングリスクを高めるか?

トレーニングにおいてオーバーリーチは一過性のパフォーマンス低下をもたらすが、十分な回復によってベースラインを上回るパフォーマンスを獲得できることがある。しかし回復が十分でない状態でトレーニングを継続した場合、オーバートレーニングと呼ばれる状態となり、パフォーマンスはベースラインより低下し、かつ心身の不調が生じてくる。

トレーニングからの回復に不可欠な手段として、睡眠の重要性は広く認識されている。オーバートレーニングでは睡眠の質も低下し得ることが知られており、睡眠の質の低下をオーバートレーニングの検出に用いられるのではないかとする報告もある。では、オーバートレーニングのリスクとも言えるオーバーリーチでは、睡眠にどのような影響が及ぶのだろうか。

この点について既に複数の研究が報告されているが、睡眠に影響を及ぼし得る交絡因子がスポーツによって異なることもあり、明確な結論は得られていない。スポーツにより異なる交絡因子とは、例えばトレーニング中に他者との接触や衝突を伴うか否か、精神的な強い緊張や注意力を要する競技か否か、筋肉等に生じるダメージの範囲の広がりの違いなどが挙げられる。

その点、持久系の競技は、他の競技に比べて負荷をコントロールしやすいという特徴がある。今回紹介する論文の著者らはこの点に着目し、持久系トレーニングでのオーバーリーチと睡眠の関係を検討した研究のみを対象とする、システマティックレビューとメタ解析を行った。

持久系トレーニングに限定したシステマティックレビュー

システマティックレビューとメタ解析のための優先報告事項(PRISMA)に即して、Web of Science Core Collection、MEDLINE、Cochrane Central Database、SPORTDiscusという4件の文献データベースを用い、2023年5月12日までに収載された論文を対象として検索を実施。言語は英語またはフランス語に限定した。持久系競技としては、長距離、自転車競技、トライアスロン、水泳、スキー、カヌー、ボート、カヤックを該当する競技とした。

重複削除後の804報を2名の研究者が独立して、タイトルと要約に基づくスクリーニングで144報に絞り込み、全文精査を実施。最終的に、14件の研究報告を定性的解析の対象、3件を客観的指標に基づくメタ解析の対象、8件を主観的指標に基づくメタ解析の対象として抽出した。

解析対象研究の特徴

14件の研究のうち10件は欧州、4件はオセアニアからの報告だった。報告年は1992~2022年の間で、研究参加者の平均年齢は19~35歳、合計259人であり、女性は26人(10%)だった。競技レベルは、持久系トレーニングを積んでいるアスリートというものから、国際大会参加レベルまで広範囲に分布していた。ただし、研究参加者のVO2maxを報告している11件の研究では、参加者の平均が最も低い研究でも52.8mL/kg/分であった。

研究デザインは3件が無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)で、他の11件はクロスオーバー試験または前後比較試験だった。

オーバーリーチのためのプロトコルは、期間が平均16日(範囲6~28)で、オーバーリーチ中のトレーニング時間を報告していた13件の研究におけるその平均は18.5時間/週(同7.3~27.8)だった。睡眠の質をポリグラフ検査で評価していた研究はなく、3件はアクティグラフィーにより客観的に評価し、他の研究は睡眠日誌やビジュアルアナログスケールなどで評価していた。

主観的にはわからない睡眠の質の低下が生じる可能性

前述のようにこの研究では定性的な解析と定量的な解析が行われているが、ここでは定量的なメタ解析の結果のみを紹介する。

客観的な指標でのメタ解析

客観的な指標の報告は3件であり、1件がRCT、2件は非RCTだった。それら3件の研究に共通する指標は睡眠効率のみだった。

RCTの報告は、オーバーリーチによる睡眠効率の影響は非有意という結果であり、非RCTの2件のうち1件は非有意、1件は有意という結果だった。3件の研究のメタ解析から、オーバーリーチによって睡眠効率は低下することが示された(平均差〈MD〉-2.02〈95%CI;-3.22~-0.84〉)。研究間の異質性はみられなかった(I2=0%)。

主観的な指標でのメタ解析

主観的な指標の報告は8件であり、3件がRCT、5件は非RCTだった。RCTの報告はすべて、オーバーリーチによる睡眠への影響は非有意という結果であり、非RCTの研究では5件中1件のみが有意と報告していた。

8件の研究のメタ解析から、オーバーリーチによる主観的な指標への影響は認められなかった(標準化平均差〈SMD〉-0.27〈-0.79~0.25〉)。なお、比較的高い研究間の異質性が認められた(I2=61%)。

著者らは、「より質の高い研究が必要ではあるが、持久系トレーニングにおいて、オーバーリーチはアスリートの睡眠に対して、主観的には影響を来さないものの、客観的には悪化させる可能性があるようだ」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Does overreaching from endurance-based training impair sleep: A systematic review and meta-analysis」。〔PLoS One. 2024 May 29;19(5):e0303748〕
原文はこちら(PLOS)

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