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腸内細菌叢が幼児期の気質と関連 細菌叢が多様な幼児は新しい物事に挑戦的で動機に基づいて行動しやすい

日本人の幼児を対象とする研究から、不快情動の表出や、新奇な環境を積極的に探索接近するといった特性が、腸内細菌叢の構成の違いや多様性と関連することが明らかになった。京都大学や大阪大学の研究チームの研究成果であり、「Developmental psychobiology」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにニュースリリースが発表された。著者らは、「腸内細菌叢を幼少期に改善することでメンタルヘルスのリスクを緩和、予防できる可能性がある。将来的には、子どもの心身の健康を早期にかつ客観的にスクリーニングする手法や、個々の心身の特性に合わせた個別型の発達支援法の開発なども期待できる」としている。

腸内細菌叢が幼児期の気質と関連 細菌叢が多様な幼児は新しい物事に挑戦的で動機に基づいて行動しやすい

研究の概要:「気質」は生まれつきか?

気質とは、環境刺激に対する反応や、それを制御する行動の個人差のことで、生後すぐに現れ、一定期間持続する遺伝的要因が大きい特性と考えられている。気質の中でも、不快情動やストレス反応の個人差は、成長後の問題行動や精神疾患と関連することが知られていて、リスクを早期発見し得る指標の一つとして注目されている。

近年、成人を対象とした研究により、うつや不安障害などの精神疾患が腸内細菌叢と関連することが明らかにされてきている。しかし、生後早期の気質、とくに精神行動リスクにかかわる不快情動やストレス反応特性が腸内細菌叢と関連するかどうかについてはわかっていなかった。

本研究チームは、3~4歳の日本人幼児284人を対象に、気質と腸内細菌叢の関連を検討した。その結果、不快情動の表出や、新奇な環境を積極的に探索接近する特性は、腸内細菌叢の構成の違いや多様性と関連することが明らかとなった。腸内細菌叢の構成の違いに寄与する腸内細菌を調べたところ、炎症の誘発に関連する菌や抗炎症作用に関連する菌が、幼児期の気質と関連をもつことが示された。

研究の背景:「気質」に「腸内細菌叢-腸-脳相関」が関与している可能性

気質は、情動、活動(行動)、注意の側面から、他者を含む環境刺激に対する反応やそれを制御する行動特性(個人差)のこと。生後すぐに現れ、一定期間持続する遺伝的要因が大きいと考えられているが、その神経生理学的な発達機序については不明。

気質は、以下の三つの高次因子に基づき評価される。

(1)恐れや悲しみ、怒りなどの不快情動の表出や、脅威刺激に対する特性「否定的情動性」
(2)笑顔など快情動の表出や新奇な環境などへ積極的に探索接近する特性「外向性/高潮性」
(3)(1)と(2)の行動を制御する特性「エフォートフル・コントロール」

気質の中でも、不快情動やストレス反応(1)、それを制御する能力(3)の個人差は、成長後の問題行動や精神疾患と関連することが知られており、リスクを早期発見しうる指標の一つとして注目されている。

近年、成人を対象とした研究により、うつや不安障害などの精神疾患が腸内細菌叢と関連することが明らかにされてきている。しかし、生後早期の気質、とくに精神行動リスクにかかわる不快情動やストレス反応特性が腸内細菌叢と関連するかどうかについてはわかっていなかった。

研究チームではこれまで、精神機能や認知機能の発達の個人差に関連する要因として、「腸内細菌叢(腸内フローラ)」に着目した研究を行ってきている。腸内細菌叢は、免疫系や内分泌系、自律神経系を介して脳と相互作用している。これを「腸内細菌叢-腸-脳相関」という。成人を対象とした研究では、腸内細菌叢の多様性や構成が、精神疾患や認知機能の低下と関連することが示されている。

ここで重要となるのは、個人が生涯もつことになる腸内細菌叢の原型は、生後3~5歳頃までに安定化すること。この時期は、がまんなどの感情制御や、推論、記憶、イメージなどの認知機能の中枢となる前頭前野が著しく発達する時期でもある。この時期の前頭前野の発達は、成人期の健康状態や社会経済状況を予測することも知られている。

幼児期は、腸(内臓)と脳の発達、さらにはその後の心身の健康を左右する極めて重要な時期といえる。幼児期の気質と腸内細菌叢との関連が明らかになれば、心身のリスクを早期にかつ客観的に評価するスクリーニング手法や、心身の健康増進を目的とした生後早期からの支援法の提案などが期待できる。

研究手法・成果:300人近い日本人幼児の気質と腸内細菌叢の関連を検討

全国の保育園、幼稚園、こども園に通う3~4歳の日本人幼児284人を対象に、気質と腸内細菌叢を調べた。幼児の気質と腸内細菌叢は、以下の手順で計測、評価した。

気質に関する質問紙調査

参加児の母親から、92項目からなる質問紙(Childrenʼs Behavior Questionnaire Short Form;CBQ-SF)への回答を得た。過去2週間の日常場面で、それぞれどの程度みられたかを7段階(「1.まったくみられなかった」~「7.いつもみられた」)で評定してもらった。上記(1)~(3)の三つの高次因子、および下位尺度である15項目(例:怒り、恐怖、内気さ、衝動性)から得点を算出した。

糞便採取による腸内細菌叢の評価

専用キットを用いて、家庭で子どもの糞便の採取を依頼した。次世代シーケンサーを用いて解析を行い、腸内細菌叢の「多様性(種の豊富さや均等度を示すα多様性指標にもとづく主成分)」、「構成の違い(菌叢の構成の違いを示すβ多様性指標にもとづく主成分)」を評価した。また、腸内細菌叢の構成の違いにどの菌が寄与しているかを詳細に検討するため、「各菌が全体の菌の中で占める割合(占有率)」についても算出した。

気質と腸内細菌叢の関連については、相関分析を用いた探索的な事前検討を行い、そのうえで重回帰分析による検討を行った。重回帰分析のモデルには、従属変数に気質の得点、独立変数に腸内細菌叢の多様性および腸内細菌叢の構成の違い、共変量に幼児の年齢と性別を投入した。

その結果、気質と腸内細菌叢の関連について以下の3点が明らかとなった。

(1)気質との関連

気質は、腸内細菌叢の構成の違いと関連していた。気質のうち、高次因子「否定的情動性」と下位尺度「恐れ」、「怒り」、「悲しみ」、「内気さ」の得点の高さは、腸内細菌叢の構成の違いと負の関連がみられた(図1 A、C、D、E、F)。また、高次因子の「外向性/高潮性」と下位尺度の「衝動性」の得点の高さは、腸内細菌叢の構成の違いと正の関連がみられた(図1 B、G)。

(2)不快情動やストレス反応との関連

腸内細菌叢の構成の違いにどの菌が寄与しているかを調べたところ、酪酸の産生や抗炎症に関わる腸内細菌と、炎症の誘発に関わる腸内細菌が寄与していることがわかった。まとめると、腸内細菌叢の構成の違い(ディスバイオシスな状態)は、不快情動やストレス反応の表出の多さ、さらには快情動の表出や新奇な環境や刺激に対する探索接近行動の低さと関連することがわかった。

(3)衝動性との関連

腸内細菌の多様性は、気質の下位尺度の「衝動性」と正の関連がみられた(図1 H)。つまり、腸内細菌叢の多様性が高い子どもほど、新しいことに挑戦したり、動機に基づいて行動しやすい特性をもつことがわかった。

図1 気質と腸内細菌叢の構成の違いおよび多様性との関連

気質と腸内細菌叢の構成の違いおよび多様性との関連

気質と腸内細菌叢の構成の違いおよび多様性との関連

(A)(B)は気質の高次因子との関連、(C)-(H)(は気質の下位尺度との関連を示す。
(出典:京都大学)

波及効果、今後の予定:食習慣への介入やプロバイオティクスで気質を変えられるかも

欧米圏を中心に、「腸内細菌叢-腸-脳相関」の観点から、生後早期(乳児期)から現れる気質と腸内細菌叢の関係の解明が進められつつある。しかし、現時点では一貫した結果は得られていない。本研究チームでは、腸内細菌叢の多様性や構成が大人レベルへと安定化し、かつ、前頭前野が急激に発達する幼児期に着目することが重要と考えている。

日本人の子どもを対象に、腸内細菌叢が気質と関連する事実を示したのは、本研究が初めて。なかでも、腸内細菌叢のバランスが乱れたディスバイオシスの状態が、将来(思春期、成年期)のメンタルヘルスリスクを予測する気質の側面と明確な関連がみられた点は重要。

従来、気質は生後すぐから現れ、個人が持続的にもち続ける行動特性であるとみなされてきた。しかし、気質には腸内細菌叢が関連していたことから、腸内細菌叢を幼少期に改善することでメンタルヘルスのリスクを緩和、予防できる可能性がある。

今後は、本研究が示した結果(仮説)を長期縦断的に検証していくことや、腸内細菌叢を改善する介入(例えば、食生活習慣への介入やプロバイオティクスの投与)によって因果の検証を行う必要がある。将来的には、子どもの心身の健康を早期にかつ客観的にスクリーニングする手法や、個々の心身の特性に合わせた個別型の発達支援法の開発なども期待できる。

関連情報

幼児期の気質は腸内細菌叢と関係する―心身の健康づくりを生後早期から始める取り組みを目指して―(京都大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Temperament in Early Childhood Is Associated With Gut Microbiota Composition and Diversity」。〔Dev Psychobiol. 2024 Nov;66(7):e22542〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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