運動している人が多い地域で暮らすと長生きできる? 生活環境が全死亡やがん死亡リスク減少に影響する可能性
運動やスポーツのグループへの参加が盛んな地域に暮らす高齢者は、自分が運動・スポーツに参加しているか否かにかかわらず、死亡リスクが低いという研究結果が報告された。筑波大学体育系の辻大士氏らの研究であり、「International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity」に論文が掲載されるとともに、「日本老年学的評価研究」のサイトにプレスリリースが発表された。
研究の背景:抑うつや認知症が少ないことに加え、死亡リスクも低いのか?
同氏らの研究グループではこれまでにも、運動・スポーツグループに参加する高齢者が多い地域では、自身の運動・スポーツへの参加状況にかかわらず、うつ症状や認知症のリスクが低いことを報告している。となると、そのような環境に暮らすことが、死亡リスクの低さとも関連があることが期待される。そこで今回の研究では、各地域における高齢者の運動・スポーツグループの参加割合と、その地域に暮らす高齢者の死亡リスクとの関連を検証した。
対象と方法:日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを最長7年追跡
2010~12年に日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study;JAGES)が実施した調査を起点として、それから最長7年間の死亡の状況を追跡できた高齢者4万3,088人(6道県、9市町)を分析対象者とした。
311の地域(およそ小~中学校の学区に相当)ごとに、運動・スポーツグループに月1回以上参加している人の割合を集計。追跡期間中の死亡や死因(循環器疾患、がん)に関する情報を、厚生労働省や市町から提供を受け、上記の調査データと紐づけした。
それらの関連性を分析するにあたり、自身が運動・スポーツグループに参加しているか否か、年齢、性別、婚姻、独居、教育歴、所得、就労、飲酒、喫煙、体格指数、既往歴(高血圧、脳卒中、心疾患、糖尿病、脂質異常症、筋骨格系疾患、がん)、主観的健康感、うつ、手段的日常生活動作、可住地人口密度の要因の影響を、統計学的に調整した。
結果:運動参加人口1割増で地域高齢者が1歳若返る!
最長7年間の追跡期間中に、5,711人(13.3%)の死亡が確認された。1,311人(3.0%)が循環器疾患死、2,349人(5.5%)ががん死だった。一方、運動・スポーツグループ参加割合を311地域ごとに集計した結果、平均で28.3%であり、10.0~52.7%の地域差が認められた。
運動・スポーツグループの参加割合が1割増えた(地域の高齢者の10人に1人が新たに参加した)と仮定すると、その地域に暮らす高齢者全体の全死因死亡とがん死のリスクが11%低くなるという結果が示された。これは、年齢が約1歳分若いことに匹敵する値。
この結果は、各対象者が運動・スポーツグループに参加しているか否かの影響を差し引いた結果であり、すなわち、運動・スポーツグループに参加する高齢者の多い地域では、それに参加していない人でも、寿命延伸の恩恵を受ける可能性が考えられる。
図 地域・個人の各要因による各死亡リスクの減少
結論と研究の意義:健康日本21「自然に健康になれる環境づくり」につながる知見
高齢者の運動・スポーツグループへの参加割合が高い地域に暮らす高齢者は、自身が参加しているか否かにかかわらず、全死因死亡やがん死亡のリスクが抑制され、すなわち長生きできる可能性が高いことが示された。
研究者らは、「高齢者が参加できる運動やスポーツのグループを地域に増やすことは、その参加者のみならず、その地域に暮らす高齢者全体の寿命延伸に有益である可能性がある。令和6年度からは、健康日本21(第三次)が開始され、その中で『自然に健康になれる環境づくり』を目指しているが、本研究はその実現に向けた貴重な知見となり得る」としている。
プレスリリース
運動・スポーツが盛んな地域に暮らすだけで長生き~参加者が地域に1割多いと、全死因とがん死亡リスクが11%減~(日本老年学的評価研究 JAGES)
文献情報
原題のタイトルは、「Community-level group sports participation and all-cause, cardiovascular disease, and cancer mortality: a 7-year longitudinal study」。〔Int J Behav Nutr Phys Act. 2024 Apr 24;21(1):44〕
原文はこちら(Springer Nature)