あまりカフェインを摂らない女性アスリートがカフェインを摂った時の認知パフォーマンスの変化
普段カフェインをあまり摂取していない女性アスリートを対象に、カフェイン摂取による認知機能への影響を、異なる3つの用量で比較した研究結果が報告された。認知パフォーマンスが最も上昇したのは最も少ない3mgを摂取した場合であって、最も多い9mgでは有意な効果がみられずに副作用が多かったという。
カフェインは多くの研究がなされているものの、女性でのエビデンスはいまだ不十分
カフェイン摂取によって注意力向上や反応時間短縮、疲労感軽減などが期待される。その効果はエリートレベルの場合、顕著とは言えないが、メダル獲得やその色の差を生む可能性がある。
カフェインは、スポーツ関連のパフォーマンス向上が期待できるエルゴジェニックエイドとして、最も多くの研究が行われてきている。しかし、これまでのカフェイン関連の研究362件を解析したレビュー論文によると、それらの研究に含まれている女性アスリートの割合は13%に過ぎず、男性アスリートに比べてエビデンスが不足しており、最適な摂取方法が確立されていない。
カフェインの有効性を左右する要因の一つとして、普段のカフェイン摂取量の多寡が想定されている。一般的に、普段のカフェイン摂取量が多いアスリートは、何らかの効果発現を期待する際に、より高用量を摂取する必要があることが多い。これらの状況を背景として、今回紹介する論文の著者らは、普段カフェインをあまり摂取していない女性アスリートが、認知パフォーマンスの向上を期待してカフェインを摂取するとしたら、その至適用量はどのくらいなのかを検討する研究を行った。
3つの用量のカフェイン摂取とプラセボ条件で、認知パフォーマンスを検討
この研究は、女性チーム競技(球技)のアスリートを対象とする、無作為化二重盲検クロスオーバー試験として行われた。検出力の計算から有意性の検討のため最低14人の対象が必要と考えられ、41人をスクリーニングし26人が適格と判断された。ただし、3人が脱落し、月経周期との関連で9人が解析から除外され、解析対象は14人となった。
研究参加の適格条件は、年齢が15~20歳でカフェイン摂取量が25mg/日以上~0.99mg/kg/日の範囲であり、過去3年以上にわたりチーム球技を行っていて、月経周期が安定しており睡眠障害がなく、研究結果に影響を及ぼし得る薬剤やサプリメントを使用していないこと。除外基準は、カフェインに対するアレルギー、習慣的飲酒者、喫煙者、前記の量から逸脱したカフェイン摂取、避妊薬・インプラント等の使用、特異なクロノタイプなど。
14人の平均年齢は17.4±0.8歳、BMI22.3±1.9、チーム球技歴5.4±0.9年、トレーニング頻度4.4±0.5回/週であり、カフェイン摂取量は42.4±9.4mg/日(0.7±0.2mg/kg/日)だった。
四つの条件で試行
カフェインの摂取量は、3、6、9mgという3つの用量が設定され、これにプラセボを加え4条件の試行が行われた。カフェイン摂取から60分後に認知機能への効果が最大化するという既報研究に基づいて、いずれの条件でも認知機能テストの60分前にカフェインまたはプラセボを摂取してもらった。なお、テスト後の調査から、試行順序を正しく認識できた被験者は1人もいなかったことがわかった。
認知パフォーマンスの評価には、単純反応時間(simple reaction time;SRT)、選択反応時間(choice reaction time;CRT)、注意タスク(attentional task;AT)テスト、メンタル・ローテーション・テスト(mental rotation test;MRT)という四つのテストを行い、各テストの試行には5分間の休憩を挟んだ。
また、各条件の試行には72時間以上のウォッシュアウト期間を設け、試行24時間前からは、カフェインを含む食品の摂取と激しい運動を禁止した。
日常のカフェイン摂取量が少ない女性アスリートは、高用量だと効果と副作用の点で不利
検討の結果、プラセボ条件に比べて、カフェインを3mgまたは6mg摂取する条件では、メンタル・ローテーション・テスト(MRT)の誤答率を除いて有意差が認められた。MRTは、時間については有意差が認められたが、誤答率は条件間の差がなかった。
一方、カフェインを9mg摂取する条件は、すべてのテストの結果がプラセボ条件と差がなく、かつ、副作用が多く認められた。詳細は以下のとおり。
単純反応時間(SRT)、および選択反応時間(CRT)
SRTはプラセボ条件に比し、カフェイン3mg条件(-8.2%)および6mg条件(-7.7%)の反応時間が有意に短かった(いずれもp<0.001)。
一方、カフェイン9mg条件はプラセボ条件と有意差がなく、3mgおよび6mg条件より反応時間が有意に長かった(いずれもp<0.001)。カフェイン3mg条件と6mg条件では有意差がなかった。
CRTも同様の結果であり、カフェイン3mg条件では-4.2%、6mg条件では-3.7%の反応時間短縮が認められた。
注意タスク(AT)テスト
ATテストの正答率はプラセボ条件に比し、カフェイン3mg条件(6.4%、p<0.001)および6mg条件(4.6%、p<0.01)で有意に高かった。
一方、カフェイン9mg条件はプラセボ条件と有意差がなく、3mgおよび6mg条件より正答率が有意に低かった(いずれもp<0.001)。カフェイン3mg条件と6mg条件では有意差がなかった。
メンタル・ローテーション・テスト(MRT)
MRTの反応時間はプラセボ条件に比し、カフェイン3mg条件(-3.1%、p<0.01)および6mg条件(-2.5%、p<0.05)は反応時間が有意に短かった。
一方、カフェイン9mg条件はプラセボ条件と有意差がなく、3mgおよび6mg条件より反応時間が有意に長かった(いずれもp<0.001)。カフェイン3mg条件と6mg条件では有意差がなかった。
MRTの誤答率については、条件間に有意差がなかった。
カフェイン摂取に関連する有害事象
カフェイン摂取に関連すると考えられる有害事象(副作用)の発現率は、カフェインの摂取用量に応じて上昇する傾向が観察された。
プラセボ | カフェイン3mg | カフェイン6mg | カフェイン9mg | |
---|---|---|---|---|
頻脈 | 7.14% | 12.28% | 21.42% | 35.71% |
不安・緊張 | 0 | 0 | 0 | 7.14% |
頭痛 | 7.14% | 7.14% | 7.14% | 21.42% |
消化器症状 | 0 | 0 | 12.5% | 28.57% |
プラセボ | カフェイン3mg | カフェイン6mg | カフェイン9mg | |
---|---|---|---|---|
頻脈 | 0 | 14.28% | 14.28% | 35.71% |
不安・緊張 | 0 | 0 | 7.14% | 21.42% |
頭痛 | 0 | 7.14% | 14.28% | 28.57% |
消化器症状 | 7.14% | 0 | 0 | 35.71% |
尿量増加 | 7.14% | 7.14% | 14.28% | 35.71% |
不眠 | 0 | 0 | 14.28% | 28.57% |
これらの結果から著者らは、「日常のカフェイン摂取量が少ない女性アスリートの場合、6mgや9mgという中~高用量ではなく、3mgという低用量のほうが安全性が高く、かつ認知パフォーマンスの向上を期待できるのではないか」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effects of Various Caffeine Doses on Cognitive Abilities in Female Athletes with Low Caffeine Consumption」。〔Brain Sci. 2024 Mar 15;14(3):280〕
原文はこちら(MDPI)