カフェインを常用しているアスリートが普段より多く摂取した場合、パフォーマンスは向上するのか?
競技スポーツのエルゴジェニックエイドとしてカフェインは広く利用されているが、慢性的に摂取しているとパフォーマンス上のメリットが低下する。その状態でも、カフェインを普段より多く高用量摂取すれば、また急性のエルゴジェニック効果を得られるのではないか? この疑問に対する一つの答となる研究結果が報告された。ベンチプレスの挙上速度を二重盲検クロスオーバー試験で検討したものだ。
カフェインの摂取量を増やすことにメリットはあるか? デメリットは?
カフェインは世界で最も消費されている精神運動刺激成分で、競技スポーツでのエルゴジェニックエイドとして広く使用されている。一般的に、3~6mg/kgのカフェインが、急性エルゴジェニック効果を誘発するために摂取されている。しかし、一部のアスリートはより高い効果を期待して、より高用量を摂取している。ただし、3~6mg/kg以上摂取した場合の上乗せ効果にはエビデンスがない。さらに、カフェインを習慣的に摂取していると、エルゴジェニック効果に対する耐性が生じる可能性が指摘されている。
これまでに、習慣的カフェイン摂取者が9mg/kg以上のカフェイン摂取した場合の急性効果を検討した研究が数報あるが、結果に一貫性がみられない。またそれらの研究では、用量依存的に有害事象が増加することも報告されている。
このような背景のもと、今回紹介する論文の研究では、日常的にカフェインを摂取しているアスリートを対象として、高用量のカフェインを摂取した場合のパフォーマンスへの影響と、有害事象のリスクなどが検討された。
男性アスリートで、高用量カフェイン摂取後のベンチプレス挙上速度を比較
研究のデザインは、プラセボ対照二重盲検無作為化クロスオーバー法。研究参加の適格条件は以下のとおり。
- 神経・筋骨格系の障害がないこと
- 筋力トレーニングを2年以上継続しており、体重の120%以上の重量を持ち上げることができること
- カフェインを習慣的に摂取していること
- カフェイン6mg/kgの摂取では副作用を来さないこと
一方、除外基準は以下のとおり。
- 喫煙者
- カフェインに対するアレルギーがないこと
- 結果に影響を与える可能性のある薬物、栄養補助食品、エルゴジェニックエイド(ベータアラニン、クレアチンなど)を摂取していること
事前の統計学的検討で、有意差を示すには10名の参加者が必要と計算され、脱落を見込み12名の男性アスリートが採用された。年齢は25.2±1.3歳、体重85.4±13.2kg、体脂肪率12.1±3.0%、トレーニング歴4.1±1.3年、1RM121.1±30.5kg(体重比140.6±15.0%)、日常のカフェイン摂取量5.3±1.4mg/kg/日(463.3±171.3m/日)、摂取エネルギー量3,341.8±568.8kcal/日であり、主要栄養素の摂取エネルギー比率は、タンパク質19.5±3.9%、脂質28.3±2.3%、炭水化物52.3±4.0%。
カフェイン摂取のエルゴジェニック効果は、ベンチプレスで30%1RMでのバー挙上速度により判定した。すべての参加者に、プラセボ、カフェイン9mg/kg、12mg/kgを摂取するという3条件を試行。カフェインまたはプラセボは、被験者も研究者も区別できないようにカプセルに入れた物を用意した。
3条件の試行には1週間のウォッシュアウト期間を設け、3条件とも同じ時間帯(午前10~11時)にテストを行った。テストの3時間以上前に最後の食事を済ませ、カフェインまたはプラセボはテストの60分前に摂取させた。また、研究期間中は通常どおりにカフェインを摂取してもらったが、各条件のテスト試行24時間前からはカフェインの摂取と激しい運動を控えさせた。
9mg/kgまではプラス効果が認められる
それでは、パフォーマンスに対する影響と、有害事象の発生状況、および盲検化の評価を検討した結果をみていこう。
カフェインを摂取した2条件は対プラセボで有意に高速度
バー挙上速度は、ピーク速度と平均速度で検討されている。
ピーク速度は、プラセボ条件では2.17±0.19m/秒、カフェイン9mg/kg条件では2.24±0.20m/秒、12mg/kg条件では2.23±0.17m/秒であり、カフェインを摂取した2条件はプラセボ条件より有意に挙上速度が速かった(p<0.01)。ただし、カフェインを摂取した2条件は同等だった(p=0.91)。
平均速度は、プラセボ条件では1.37±0.10m/秒、カフェイン9mg/kg条件では1.41±0.09m/秒、12mg/kg条件では1.41±0.09m/秒であり、カフェインを摂取した2条件はプラセボ条件より有意に挙上速度が速かった(p<0.01)。ただし、カフェインを摂取した2条件は同等だった(p=0.96)。
カフェイン摂取量と有害事象に有意な関連
有害事象に関しては、テスト終了直後と24時間後に評価された。
テスト終了直後の評価では、カフェイン摂取量と不安感・神経過敏(p=0.001)、頭痛(p=0.032)との間に有意な関連が認められた。このほか、活力・活動性の向上(p=0.028)との間に有意な関連が認められた。
テスト24時間後の評価では、カフェイン摂取量と頻脈・動悸(p<0.001)、不安感・神経過敏(p=0.001)、頭痛(p<0.001)、不眠症(p=0.009)との間に有意な関連が認められた。このほか、活力・活動性の向上(p=0.006)との間に有意な関連が認められた。
カフェイン摂取試験の盲検化の難しさが浮かび上がる
プラセボを摂取する条件では被験者の33%が「カフェインを摂取した」と判断した。しかし、カフェイン9mg/kgを摂取する条件ではその割合は92%になり、カフェイン12mg/kg条件では100%と全員がカフェインを摂取したと正しく判断し、既報研究と同様に、カフェイン摂取の盲検化の困難さが示された。
著者らは本研究には解釈上の限界点があることを述べている。例えば、血中または尿中のカフェイン濃度を評価していないこと、カフェイン摂取条件では被験者の大半がカフェインを摂取したと認識できていたこと、日常のカフェイン摂取量が中等度の集団での調査であったことなどだ。また、本研究ではカフェイン9mg/kgと12mg/kgとでエルゴジェニック効果は同等だった。
結論としては、習慣的に中等度のカフェインを摂取しているアスリートが9mg/kgのカフェインを摂取することで、カフェイン摂取の急性エルゴジェニック効果を期待でき、安全なプロトコルと見なすことができるとまとめられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Acute Effects of High Doses of Caffeine on Bar Velocity during the Bench Press Throw in Athletes Habituated to Caffeine: A Randomized, Double-Blind and Crossover Study」。〔J Clin Med. 2021 Sep 25;10(19):4380〕
原文はこちら(MDPI)