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海洋深層水を摂取することでトライアスロン中の筋肉機能の低下が抑制できる可能性

トライアスロンのレース前とレース中の水分補給に海洋深層水を用いると、競技パフォーマンスには影響は生じないが、レース中に生じる筋肉機能の低下が抑制されることを示唆するデータが報告された。スペインで行われた3条件でのクロスオーバー研究の結果であり、水道水や等張液との比較において、レース後の等尺性筋力に条件間の有意差が観察されたという。

海洋深層水を摂取することでトライアスロン中の筋肉機能の低下が抑制できる可能性

海洋深層水の可能性を探る研究

長時間の持久系競技においては水分補給戦略が重要となる。実験的研究から、海洋深層水の摂取によって、有酸素能力の向上や下肢筋力の回復促進が生じる可能性が報告されている。海洋深層水には発汗によって失われるミネラルが含まれているため、それらが何らかの影響を生むことも想定されている。例えばナトリウムやマグネシウムは神経と筋肉の機能にかかわり、カリウムは心筋の機能にかかわっている。本論文の著者らは「発汗によって失われる成分を含有する水分が、持久系競技に重要な役割を果たすと考えることは不合理ではない」と述べている。

しかしながらこれまで行われてきた海洋深層水関連の研究の多くは、研究室内で行われており、競技条件下での知見は数少ない。これを背景として著者らは、異なる3条件のトライアスロンを試行して海洋深層水が実際のレースに影響を及ぼすか否かを検討した。

海洋深層水、等張液、水道水の3条件で比較検討

この研究の参加者は、スペインで募集された19人の男性トライアスリート。19人という参加者数は、事前の統計学的な予測により有意性の検討には15人が必要と計算され、研究中の脱落を20%と見込んで設定された。参加条件として、トライアスリートとしての豊富な競技歴があり、トライアスロンのためのトレーニングを継続していて、疾患に罹患していないこと。なお、19人の競技歴は平均11.3±5.77年、週あたりのトレーニング回数は4.25±1.37回で、自転車は66.25±19.93km/回の走行をしていた。

試験デザインはクロスオーバー法で、スイム800m(25mプール)、自転車90km(累積標高差1,100m)、ラン10km(屋外トラック)のレースを後述の3条件で試行した。レース開始の1時間前に標準化された朝食を摂取。各条件の水分は、レース開始30分前、スイムから自転車への移行、自転車走行中、自転車からランへの移行という4機会に摂取するよう指示された。摂取量は定めなかった。

三つの条件について

設定された3条件は、海洋深層水を摂取する条件、プラセボを摂取する条件、対照(コントロール)条件の3条件で、それらの水分は外観が等しい四つの容器(前記の摂取タイミングに対応した個数)に入れられ渡された。

海洋深層水は、ナトリウム27.297mg/L、カリウム0.465mg/L、マグネシウム19.5mg/L、カルシウム1.377mg/Lを含んでいた。プラセボはセルロースとナトリウムを含む等張液とした。コントロールは水道水とした。

条件間の差異の検討には、レースタイムおよび、レース前後に行ったカウンタームーブメントジャンプ(countermovement vertical Jump;CVJ)および等尺性筋力(isometric muscle strength;IMS)テストを用いた。各条件の試行72時間前からは、激しい運動を禁止した。

海洋深層水は神経活性に関与して筋機能低下を防ぐ可能性

3条件試行時の体重、BMI、体脂肪率、体内水分量には有意差がなかった。また、気温にも有意差はなかった。

レースタイムは、スイム、自転車、ランのいずれも、3条件で有意差がなかった。レース前後の体重変化も有意差がなく、自転車とランにおける自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)にも有意差がなかった。

CVJおよびIMSテストの結果について

カウンタームーブメントジャンプ(CVJ)テストにおける跳躍高は、条件間で有意差が認められなかった。

一方、等尺性筋力(IMS)テストにおけるピークパワーは、各条件の試行前は有意差がなかったが、レース後には以下のとおり、海洋深層水条件が他の2群よりも有意に高値だった(p=0.043)。コントロール(水道水)条件は616.8±280.3N、等張液条件は604.3±131.6N、海洋深層水条件は734.7±253.2N。

海洋深層水でパフォーマンスは向上しないが摂取を検討してもよい

CVJには有意差がなく、IMSには有意差が認められたという結果について、著者らは以下のような考察を加えている。すなわち、CVJは伸張反射への依存が大きいのに対してIMSは神経活性への依存が大きい評価指標であり、海洋深層水に含まれているナトリウム、カリウム、カルシウムなどのミネラルは、筋肉の収縮と神経インパルスに関与するという違いがあるとのことだ。

この点で、もっぱら水分を摂取するのみでは脱水は補正できても筋機能の低下は抑制されず、ミネラルとしてナトリウムのみを含む等張液も同様と考えられるという。

論文の結論には、トライアスロン中の水分補給として海洋深層水を摂取することで、レースパフォーマンスは向上しないが、筋機能の低下が抑制される可能性があることから、摂取が推奨されるケースがあると述べられている。なお、研究の限界点として、コントロール条件では脱落により被験者が10人と少なかったこと、トライアスロンの公式競技距離とは異なる条件で試行したことなどを挙げている。

文献情報

原題のタイトルは、「The Effects of Acute Deep Seawater Supplementation on Muscle Function after Triathlon」。〔J Clin Med. 2024 Apr 12;13(8):2258〕
原文はこちら(MDPI)

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