グアーガム分解物が高齢者の認知機能や睡眠の質の維持に有用な可能性 プラセボ対照RCT
グアー豆由来の水溶性食物繊維であるグアーガム分解物が、健康な高齢者の認知機能や睡眠の質に対してプラスに働く可能性を示唆するデータが報告された。太陽化学(株)ニュートリション事業部研究開発グループの安部綾氏らによる、プラセボ対照RCTの結果であり、「Nutrients」に論文が掲載された。
腸内環境は認知症の調節可能なリスク因子か?
世界的に高齢者人口が増加しているが、とくに我が国は高齢化が急速に進行していて、2025年には高齢者の5人に1人が認知症となるとの予測もあり、対策が喫緊の課題となっている。しかし現在のところ認知機能の維持や改善のための介入方法については、運動や心血管疾患リスク因子の管理などに観察研究に基づく若干のエビデンスがある以外、明確になっていない。
一方、近年、腸内細菌叢のバランスがさまざまな疾患リスクと関連のあることが明らかにされ、多くの知見が蓄積されてきている。それらの一つとして、プレ/プロバイオティクスによる腸内での短鎖脂肪酸の産生を介した脳腸軸(脳腸相関)への影響に関する研究が進められている。既にヒト対象の研究により、プレ/プロバイオティクスの摂取が、メンタルヘルスに好ましい影響をもたらす可能性が報告されている。
グアーガム分解物(partially hydrolyzed guar gum;PHGG)は、インドやパキスタンなどの乾燥地域で栽培されているグアー豆由来の水溶性食物繊維で、プレバイオティクスサプリメントとしての利用が広がっている。PHGGは腸内細菌による発酵性が高く、短鎖脂肪酸の産生、腸管粘膜バリア機能の維持などに寄与する。このPHGGに関しても、便通の改善に加え、睡眠や意欲に対するプラスの影響が生じるとする報告がある。
ただ、プレ/プロバイオティクスの摂取が高齢者の認知機能の維持・向上につながるのかという介入研究のエビデンスはまだ少ない。安部氏らは以上のような背景の下、PHGGの健常高齢者の認知機能や睡眠関連指標への影響を検討する、プラセボ対照無作為化二重盲検試験(randomized controlled trial;RCT)を行った。
日本人高齢者にPHGGまたはプラセボで12週間介入
この研究は、都内のクリニック2施設で2022年12月12日~2023年3月25日にかけて実施された。研究参加者は治験情報サイトへの応募者からスクリーニングされた、認知症(MMSE〈mini-mental state examination〉が24点未満)や慢性・急性疾患に罹患していない60歳以上の健康な高齢成人66人。医薬品やサプリメントを服用している人、食物繊維やオリゴ糖の摂取を心がけている人、習慣的に運動を行っている人などは除外されている。
無作為に2群に分け、1群をグアーガム分解物(PHGG)群、他の1群をプラセボ群として、12週間の介入を行った。PHGGは太陽化学製品を用い1日5gとし、プラセボはマルトデキストリンとして、ともに朝食時に水に溶解して摂取してもらった。
評価項目は、パソコンベースの認知機能検査であるコグニトラックス検査のスコアとし、また、睡眠の質や睡眠時間、眠気、疲労、ストレス、気分などに関するQOLアンケートによる評価も行った。これらはベースライン時(介入前)と介入8週時点、および12週後(介入終了時点)に評価した。なお、介入期間中は生活習慣の大幅な変更を禁止した。
介入後の視覚記憶、単純注意力、起床時の眠気に有意な群間差
介入中の脱落により、解析対象はPHGG群30人、プラセボ群31人となった。ベースライン時点で、年齢(PHGG群66.8±6.1歳 vs プラセボ群68.1±7.2歳、p=0.453)、性別の分布、BMI、体脂肪率、血圧に有意差はなく、MMSEスコア(同順に28.9±1.2 vs 28.7±1.4、p=0.575)も同等だった。
コグニトラックス検査の評価結果
コグニトラックス検査では、総合記憶力、言語記憶、視覚記憶、複合注意力、単純注意力などの10項目の認知機能を評価する。これらのうち視覚記憶(ディスプレイ上に表示される図形の記憶力)は、ベースライン時と介入8週時点では群間に有意差がなかったが、12週後にはPHGG群のスコアのほうが有意に高かった(p=0.023)。また単純注意力は8週時点で有意差がみられ、PHGG群のスコアのほうが高かった(p=0.020)。
QOLアンケートの結果
QOL関連では、起床時の眠気、睡眠時間、入眠困難/中途覚醒、疲労感、抑うつ感、怒りなどが評価され、ベースライン時点ではいずれも有意差がなかった。これらのうち、起床時の眠気は介入8週時点で有意差が認められ、PHGG群のほうが良好な状態にあった(p=0.043)。
なお、コグニトラックス検査、QOLアンケートともに、介入後のいずれの時点においても、PHGG群の評価のほうが有意に低い項目はなかった。
短鎖脂肪酸産生促進を介して神経保護に働く可能性
以上の結果を基に著者らは、「PHGGの摂取は、健康な高齢者の認知機能、とくに視覚記憶を向上するという潜在的な作用があることが示された。記憶は日々の生活活動や社会的交流において極めて重要な役割を果たすため、その改善は自立とQOLの維持に不可欠と言える。また本研究ではPHGGが睡眠の質に有益な影響を及ぼすことを示唆している」と結論づけている。ただし、本研究の介入期間は3カ月であり、年単位で低下していく認知機能への影響を評価するには十分でないことを限界点として挙げ、より大規模で長期間の研究の必要性も指摘している。
なお、PHGGが認知機能にとってプラスに働くことのメカニズムについては、既報論文からの考察として、「PHGGによって産生促進される腸管の短鎖脂肪酸が、腸管粘膜バリア機能や血液脳関門の強化、全身の慢性炎症の抑制、免疫機能の調節などを介して、神経細胞保護的に作用するのではないか」としている。また、海馬や線条体におけるセロトニンやドーパミンの分泌促進作用といった、中枢神経系における神経伝達物質の調節作用の可能性も考えられるという。
文献情報
原題のタイトルは、「Effectiveness of Partially Hydrolyzed Guar Gum on Cognitive Function and Sleep Efficiency in Healthy Elderly Subjects in a Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, and Parallel-Group Study」。〔Nutrients. 2024 Apr 19;16(8):1211〕
原文はこちら(MDPI)