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フレイル健診の「運動・転倒」に関するわずか三つの質問で、新規骨折発生リスクを予測可能

2020年にスタートした後期高齢者を対象とするフレイル健診で用いられる「後期高齢者の質問票」が、新たな骨折の発生リスクの評価に有用であることを示唆するデータが報告された。わずか三つの質問の回答が、1年以内の新規骨折発生リスクと有意に関連しているという。東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・医療経済学講座の佐藤壮氏らの研究によるもので、「Geriatrics & Gerontology International」に論文が掲載された。

フレイル健診の「運動・転倒」に関するわずか三つの質問で、新規骨折発生リスクを予測可能

わずか三つの質問で骨折リスクを評価できるのか?

フレイル健診では、15項目からなる質問票を用いてフレイルリスクのスクリーニングを行う。その内容は、一般的な健康状態、食習慣、口腔機能、体重変化、運動・転倒、認知機能、社会参加など多岐にわたっているが、高齢者のQOLを一瞬で大きく低下させ要介護状態につながることのある骨折のリスクに関しては、「運動・転倒」に関するわずか三つの質問で評価している。

これまでのところ、フレイル健診における三つの質問が骨折リスクの予測に役立つのかという点は、十分に検討されていない。海外に目を向けると、例えば米国の疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention;CDC)は、転倒リスクの評価のために12項目にも及ぶチェック項目を掲げている。

以上を背景として佐藤氏らは、フレイル健診の質問票に対する回答と新規骨折発生リスクとの関連の有無を検討した。

三つの質問への該当者率が、新規骨折の有無で有意差

この研究は、健診および医療費請求データベースを用いた後方視的コホート研究として実施された。対象期間は2014年4月~2021年8月で、フレイル健診を受け、データ欠落のない1万1,683人を解析対象とした。疲労骨折や病的骨折の既往、骨の悪性新生物または骨への転移の既往のある人などは除外されている。

上記期間中の初回健診受診日から観察をスタートし、骨折の発生、データベース登録の取り下げ、死亡、研究期間終了のいずれかの発生まで観察を継続した。共変量として、年齢(5歳刻み)、性別、BMIカテゴリー、併存疾患、処方薬数などを把握した。

約8%が新規骨折を発生

観察期間中の新規骨折は927人(7.93%)に発生した。追跡期間の中央値は91日(四分位範囲55~312)で、1,000人年あたりの新規骨折発生件数は263件(95%CI;246~281)だった。

新規に骨折が発生した群と発生しなかった群を比較すると、前者は高齢で女性が多く、併存疾患数やポリファーマシー(5剤以上)が多いといった有意差が認められた。フレイル健診の「運動・転倒」に関する三つの質問に対する回答も、以下のように有意差が認められた。

「以前に比べて歩く速度が遅くなってきたと思いますか」に「はい」と回答した割合は、新規骨折あり群が72.7%、なし群は57.2%、「この1年間に転んだことがありますか」に「はい」と回答した割合は、同順に38.2%、20.1%、「ウォーキング等の運動を週に1回以上していますか」に「いいえ」と回答した割合は、47.4%、36.5%(すべてp<0.001)。

三つの質問に年齢と性別を加味すると、予測能がより向上する

フレイル健診の三つの質問に対して「はい」(運動習慣については「いいえ」)と回答した数が多いほど、新規骨折発生率が高いこともわかった。具体的には、該当なしの場合の新規骨折発生率が3.9%であるのに対して、1項目該当では7.1%、2項目該当では10.2%であり、3項目が該当する場合は17.4%だった。

Cox回帰分析にて新規骨折発生リスクとの関連を検討すると、フレイル健診の三つの質問項目の回答は、各々独立して新規骨折発生リスクと関連があることがわかった。例えば、過去1年以内の転倒歴がある場合HR2.03(95%CI;1.77~2.33)、主観的な歩行速度の低下ではHR1.63(1.40~1.89)、運動習慣なしHR1.29(1.13~1.47)だった。

次に、健診で容易に得られる情報である年齢と性別を独立変数として追加した解析を施行。すると前記3因子に加えて、年齢(HR1.04〈1.03~1.06〉)および性別(男性でHR0.48〈0.42~0.56〉)のいずれも有意な関連因子であることがわかった。

三つの質問によるAUCは0.633、年齢と性別を加えると0.677

続いて、ROC解析により新規骨折発生の予測能を検討。その結果、フレイル健診の三つの質問ではAUC0.633(0.614~0.651)であった。年齢と性別を加えた場合は0.677(0.659~0.694)であり、純再分類改善度(net reclassification improvement;NRI)は0.383(0.317~0.449)であって、予測能が有意に上昇した。

フレイル健診の三つの質問は公衆衛生対策として優れていると言える

以上の結果を基に論文の結論は、「フレイル健診での運動・転倒に関する三つの質問の回答が、新たな骨折の発生と有意な関連のあることが明らかになった。また、年齢と性別の情報を追加した予測モデルは、より効果的であることが示された」とまとめられている。

著者らによると、過去1年以内の転倒歴、および運動習慣の欠如が骨折の新規発生に関連のあることは先行研究により示されていたが、主観的な歩行速度の低下も関連していることを示したのは本研究が初めてだという。

また、日本の3項目は米国の12項目の質問よりも簡便であり、多くの高齢者を対象とする公衆衛生施策として実施するには適しているのではないかとの考察が述べられている。加えて、米国の質問は主として転倒リスクに焦点を当てているが、QOL等により深刻な影響を及ぼすのは転倒よりも骨折であることから、日本の質問票のほうが潜在的なメリットが大きい可能性があるとのことだ。

ただし、スクリーニングの簡便さと精度はトレードオフの関係があることから、最も効率の良い質問票の開発のため、今後の研究が求められるとしている。

文献情報

原題のタイトルは、「Association between subjective physical function and occurrence of new fractures in older adults: A retrospective cohort study」。〔Geriatr Gerontol Int. 2024 Apr;24(4):337-343〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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