50歳以上のオーラルフレイルは、栄養素摂取量と体重調整ふくらはぎ周囲長に関連
日本人中高年におけるオーラルフレイルと栄養素摂取量、および、体重で調整したふくらはぎ周囲長(CC/kg)との相互の関連を調べた研究結果が報告された。CC/kgが低値の場合のみ、オーラルフレイルの有無で動物性タンパク質の摂取量に有意差が認められたという。奥羽大学歯学部歯科補綴学講座の鈴木史彦氏、金沢大学大学院医学系研究科衛生学・公衆衛生学の中村裕之氏らの研究によるもので、「BMJ Open」に論文が掲載された。
オーラルフレイルとタンパク質摂取の少なさは、フレイルリスクをより増大させるか?
歯の喪失などによる咀嚼機能の低下や嚥下機能が低下した状態である「オーラルフレイル」は、身体的フレイルやサルコペニアのリスク因子であることが報告されており、要介護リスク抑制のために早期介入が求められている。一方、身体的フレイルのリスクが栄養状態と強い関連のあることも知られており、とくに筋肉の合成にかかわるアミノ酸が豊富な、動物性タンパク質の摂取が重要と考えられている。これらから、オーラルフレイルがあり、かつ、動物性タンパク質の摂取量が少ない場合に、身体的フレイルのリスクがより上昇する可能性が想定されるが、そのような視点での研究はこれまでのところあまり行われていない。
中村氏らは以上を背景として、石川県志賀町で行われている地域住民対象疫学研究「志賀町研究」のデータを用いた横断的解析により、それらの関係を検討した。
50歳以上の地域住民を対象とする横断研究
研究の解析対象は、志賀町研究参加者のうち年齢が50歳以上で、簡易型自記式食事歴法質問票(brief diet history questionnaire;BDHQ)などのデータ欠落のない194人(男性52.6%)。摂取エネルギー量が600~4,000kcal/日の範囲を逸脱している人は除外されている。
口腔状態の評価は、厚生労働省作成による基本チェックリストの口腔に関する質問項目、すなわち、咀嚼機能、嚥下機能、口腔乾燥を準用し、加えて、歯科医師による残存歯数調査と歯磨きの頻度をそれぞれスコア化して、トータルスコアが7点満点中3点以上をオーラルフレイルと定義した。口腔状態の評価は、厚生労働省作成による基本チェックリストの口腔に関する質問項目、すなわち、咀嚼機能、嚥下機能、口腔乾燥を準用し、加えて、歯科医師による残存歯数調査と歯磨きの頻度をそれぞれスコア化して、トータルスコアが7点満点中3点以上をオーラルフレイルと定義した。ふくらはぎ周囲長(calf circumference;CC)に関しては、両足での実測値の平均を体重で除した値(CC/kg)として評価した。なお、フレイル健診等では一般にCCの実測値や指輪っかテストで筋肉量の多寡を評価するが、肥満の場合には判定精度が低下する。それに対してCC/kgは肥満の影響を補正でき、サルコペニア肥満の見逃しが減ると、著者らは述べている。
オーラルフレイルの該当者は38.1%、CC/kgは女性のほうが高値
結果を性別で比較すると、年齢は男性が63.00±6.67歳、女性は64.78±8.57歳で有意差はなかった。オーラルフレイルの該当者は全体で74人(38.1%)であった。
ふくらはぎ周囲長(CC)は男性が35.0±2.65cm、女性は32.79±2.58cmであり、男性のほうが高値だったが(p<0.001)、体重で調整したCC/kgは同順に0.5±0.05、女性は0.63±0.06となり、女性のほうが高値だった(p<0.001)。BMIは男性のほうが高値だった。
摂取エネルギー量は男性のほうが多いものの、総タンパク質・動物性タンパク質・植物性タンパク質の摂取エネルギー量に占める割合(%エネルギー)や1,000kcalあたりのカルシウム・ビタミンD摂取量は女性のほうが高かった。喫煙者率・習慣的飲酒者率は男性のほうが高かった。運動習慣のある人の割合は有意差がなかった。
オーラルフレイルの有無での比較
オーラルフレイルの該当者と非該当者に二分し比較すると、年齢はオーラルフレイルの該当者のほうが高齢だったが(p<0.001)、性別の分布、BMI、摂取エネルギー量、各種栄養素摂取量、喫煙・飲酒・運動習慣に有意差はなく、またCCやCC/kgも有意差がなかった。
なお、口腔状態の関連指標は、オーラルフレイルスコアも含めてすべて有意差があり、オーラルフレイル該当者で悪化していた。
CC/kgの高値群と低値群での比較
次に、CC/kgの中央値で全体を二分して比較すると、年齢は有意差がないものの、低値群(0.52±0.04cm/kg)は高値群(0.64±0.05cm/kg)に比べて男性が多く、喫煙者・習慣的飲酒者の割合が高かった。
摂取エネルギー量はCC/kg低値群のほうがむしろ多い一方(2,046.52±615.40 vs 1,837.59±573.76kcal、p=0.016)、タンパク質摂取量(%エネルギー)はCC/kg高値群のほうが高かった(14.65±3.06 vs 16.00±2.87%、p=0.002)。ただし、動物性と植物性に分けた場合、有意差は植物性タンパク質のみで認められた。
カルシウムの摂取量もCC/kg高値群のほうが多かったが、ビタミンDについては有意差がなかった。運動習慣のある人の割合も有意差がなかった。
また、口腔状態の関連指標については、歯磨きの頻度が1日2回未満の人の割合がCC/kg高値群のほうが少ないという有意差が認められたことを除き、オーラルフレイルスコアも含め、有意差の存在する評価項目はなかった。
CC/kgの高値・低値、オーラルフレイルの有無と栄養素摂取量との関連
続いて、CC/kgの高値・低値で二分したうえで、それぞれをオーラルフレイルの有無で分け、全体を4群に分類し、年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒習慣を調整して、栄養素摂取量との関連を検討した。
すると、動物性タンパク質摂取量については有意な交互作用が観察された(p=0.039)。事後解析による多重比較では、CC/kg低値群でのみ、オーラルフレイル該当者の動物性タンパク質摂取量は、非該当者よりも有意に少なく(p=0.033)、CC/kg高値群の動物性タンパク質摂取量は、オーラルフレイルの有無で差がないことが確認された。
オーラルフレイル該当者では年齢と動物性タンパク質摂取量がCC/kgに独立して関連
最後に、全体をオーラルフレイルの有無で二分したうえで、CC/kgを従属変数、年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、動物性タンパク質摂取量を独立変数とする重回帰分析を施行した。
その結果、オーラルフレイルでない群では、年齢、飲酒習慣が正の関連因子として抽出され、性別(男性)は負の関連因子だった。それに対してオーラルフレイル群では、年齢が正の関連因子であることは同様だが飲酒習慣や性別は有意な関連がなく、その一方、動物性タンパク質の摂取量が独立した正の関連因子として抽出された。
ふくらはぎ周囲長を体重で除した評価で、フレイルの効果的な予防介入が可能か?
著者らは以上の結果を、「低CC/kg群においてはオーラルフレイル該当者の動物性タンパク質摂取量が有意に低かった。しかし高CC/kg群ではそのような差は認められなかった。このように、CC/kgの高低によって栄養状態とオーラルフレイルとの関連の差が生じる理由を解明するには、さらなる研究が必要される」と総括している。
なお、先行研究では、咀嚼・嚥下機能の低下がふくらはぎ周囲長(CC)の減少と関連のあることが報告されているが、本研究ではその関連が認められなかった。この点について論文では、「本研究では肥満による影響を除外するために体重で除した『CC/kg』を用いたという違いがある。このことによってサルコペニア肥満が検出されやすくなったのではないか。また、サルコペニアやフレイル関連の研究は65歳以上の高齢者を対象に行われることが多いのに対して、本研究は50歳以上であったことから、全体的に加齢による筋量減少が軽度であったことの影響も考えられる」との考察が述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Association between animal protein intake, oral frailty and calf circumference in middle-aged and older adults: a cross-sectional analysis from the Shika study」。〔BMJ Open. 2024 Feb 15;14(2):e078129〕
原文はこちら(BMJ Publishing Group)