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高齢者の転倒や骨折を防ぐための栄養戦略 タンパク質やカルシウム以外に大切な栄養素とは?

転倒や骨折は高齢者に好発し、QOL低下や生命予後の悪化につながる。その転倒や骨折を、栄養によっていかに防ぐかをまとめた総説を紹介する。英国とオーストラリアの研究者による論文。

高齢者の転倒や骨折を防ぐための栄養戦略 タンパク質やカルシウム以外に大切な栄養素とは?

イントロダクション:タンパク質・カルシウム以外の大事な栄養素は何か?

65歳以上の高齢者の3人に1人が年に1回、転倒を経験していて、最大でその2割は骨折を来しているとの報告がある。QOLや生命予後への影響がとくに大きい大腿骨頸部骨折の95%は転倒時に発生するとも言われている。

転倒や骨折のリスク低減には、筋骨格の健康をサポートするための運動と食事が重要であり、筋量や筋力との関連ではタンパク質の摂取量が、骨代謝との関連ではカルシウムの摂取量が重視されている。一方で、それら以外の栄養素への一般生活者の関心は高いとは言えない。このことから、今回紹介する総説では、ビタミンDやK、硝酸塩なども含めた栄養介入のエビデンスを総括している。

ビタミンDとカルシウム

活性型ビタミンD代謝産物(1,25[OH]2D)は腸管でのカルシウムの吸収に必要とされ、ビタミンDとカルシウムは相乗的に筋骨格の健康を増進する。国際骨粗鬆症財団(International Osteoporosis Foundation;IOF)は、ビタミンD(25OHD)が50nmol/L(20ng/mL)未満をビタミンD欠乏、50~74nmol/L(20~29ng/mL)をビタミンD不足と定義している。

推奨摂取量(recommended daily intake;RDI)は600~800IU(15~20μg)といった数値が示されているが、食事由来のビタミンDは25OHDの10~20%程度を占めるにとどまり、その他は日光曝露により皮膚で作られる。25OHDレベルが低下した状態では、摂取したカルシウムの吸収が低下することを介して、間接的に骨代謝に負の影響を及ぼし得る。

また、適切な循環25OHDおよびカルシウムレベルは、骨の健康にとって重要であるだけでなく、筋肉の生理機能にも重要な役割を果たし、高齢者の転倒リスク抑制につながる。ただし、筋肉機能に対するビタミンD摂取のメリットは、ビタミンD欠乏状態にある場合に有意であり、欠乏状態でない場合にメリットの上乗せはないようだ。

タンパク質

タンパク質が筋骨格の健康に重要であることは疑いない。また、タンパク質は筋肉だけでなく、骨の健康にも重要である。最近報告されたメタ解析では、タンパク質の摂取量が、ほぼすべての部位の骨部位の骨密度と正の相関することが示された。その一方で、腰椎や大腿骨頸部の骨密度とは関連が示されていない。これらのメタ解析に含まれる研究は、研究対象者のタンパク質絶対摂取量、体重に対する相対摂取量、1日の摂取エネルギー量に対する比などの点で大きく異なっていたことに、解釈上の留意を要する。よって、骨の健康と骨折予防のための最適なタンパク質要件についての明確な解釈は制限される。また、骨に対するタンパク質のプラスの効果は、カルシウム摂取量に依存しているようにもみえる。

タンパク質摂取による骨代謝への影響の一部は、インスリン様成長因子-1(IGF-1)産生を増加させることによるものであると考えられる。タンパク質摂取量の増加に伴うIGF-1の増加は、循環ビタミンD(25OHD)レベルを上昇させ、副甲状腺ホルモンを抑制し、腸管からのカルシウム吸収の増加と骨吸収の減少につながることが示唆されている。また、タンパク質は筋肉への影響を介して間接的に骨に作用する可能性も想定される。

筋肉と骨の健康をサポートする野菜

心血管の健康に対する野菜摂取のメリットが広く研究されているのに対して、筋骨格系への影響は知見が限られている。

オーストラリアの高齢女性対象のコホートでは、野菜摂取量が少ない群と比較して、1日あたり3食分以上の野菜(75g/食)、とくにアブラナ科(ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、芽キャベツ)とネギ類(玉ねぎ)を毎日摂取している群は、転倒による怪我(-41%)、骨折(-27%)、および大腿骨頸部骨折に関連した入院(-39%)のリスクの低下と関連していた。これは、喫煙や身体活動、社会経済的状態、食事の質などのライフスタイル要因を調整した後も有意だった。さらに、野菜摂取量が多い群は、握力やタイムアップゴーテストも良好であった。

これらのデータは、多様な野菜を摂取することが、骨格筋の健康にも有益である可能性を示唆している。野菜から得られる栄養素には、相乗効果が存在すると考えられる。例えば、緑葉野菜(ケール、ほうれん草など)は非ヘム鉄とビタミンCの豊富な供給源であり、後者は鉄の吸収を促進することが知られている。鉄欠乏性貧血は筋機能低下や骨粗鬆症と関連することが多い低エネルギー外傷による骨折のリスク因子として知られているため、この点は重要であろう。

硝酸塩

野菜に含まれる成分のうち、硝酸塩に関しては一般に、血管内皮からの一酸化窒素放出を介した血管拡張作用という点で、心血管の健康、あるいはスポーツパフォーマンスとの関連で研究されてきている。後者については例えばビート根ジュースなどで多くの研究がなされている。

骨の健康に関しては、狭心症治療に用いる硝酸塩が骨折リスクの低下に関連しているとするデータがデンマークから報告されている。ただしこの関連を否定するデータの報告もあり、さらに薬剤介入ではなく、野菜摂取による硝酸塩と骨折リスクとの関連の研究は報告がみられない。

ビタミンK

ビタミンKのち、K1(フィロキノン)は主に野菜、とくに緑黄色野菜およびアブラナ科の品種に含まれ、総ビタミンK摂取量の約90%はビタミンK1とされる。古くは凝固-線溶系との関連で多くの研究がなされていたビタミンKだが、筋骨格系の健康への潜在的な役割も注目されるようになった。日本ではビタミンK2が1995年に骨粗鬆症治療薬として承認されている。そのビタミンK2は動物性食品に多く含まれている。

ビタミンKを骨の健康に役立てるには、緑黄色野菜やアブラナ科の野菜を中心に、野菜を1日あたり少なくとも75~150g/日摂取する必要があるだろう。筋骨格系に対するK1とK2の影響の異同はまだ明らかではないが、公衆衛生上のメッセージとしては、より多くの野菜摂取のメリットを強調する必要性が高いのではないか。ただし、ビーガンのような食事スタイルは、筋骨格系の健康に有害である可能性が考えられ、栄養士による適切な指導が求められる。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutritional strategies to optimise musculoskeletal health for fall and fracture prevention: Looking beyond calcium, vitamin D and protein」。〔Bone Rep. 2023 May 5:19:101684〕
原文はこちら(Elsevier)

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