妊婦の睡眠障害に対して、運動は主観的評価を改善し、栄養は客観的評価を改善する
妊娠中は睡眠障害が起こりやすく、他の周産期合併症リスクとの関連も示されている。そのような妊婦の睡眠障害に対して、運動や食事のガイドラインを遵守することが、その改善に役立つことを示した研究結果が、カナダから報告された。
妊娠中の睡眠障害を運動や食事で改善可能か?
妊娠中はさまざまな身体的変化によって、腰痛や胃食道逆流、頻尿などの症状とともに睡眠障害が起こりやすく、日中の眠気や倦怠感に悩まされる妊婦が少なくない。また、妊娠中の睡眠障害の程度が、不安症やうつ病、常位胎盤早期剥離、帝王切開、早産、産後の体重増加などの周産期合併症のリスクと関連のあることも報告されている。
非妊婦の睡眠障害に対しては睡眠環境の改善とともに薬物療法が治療として行われる。しかし睡眠薬の多くは妊婦に禁忌とされており、また禁忌でない薬剤についても妊婦は一般に服薬を躊躇する。このため、妊婦は睡眠障害を来しやすく、それが周産期合併症リスクと関連する可能性があるにもかかわらず、その治療は非薬物療法によって行う必要がある。
睡眠障害に対する非薬物療法として、睡眠環境の改善以外には適度な運動が奨励される。また栄養介入に関してもエビデンスが増えてきている。ただし、妊婦に対するそれらの有効性は明確になっていない。
妊婦の身体活動量、栄養素摂取量と睡眠関連指標との関連を解析
この研究の参加者は、カナダ東部のニューブランズウィック州の産科関連施設、フィットネス施設、コミュニティーセンター、ショッピングモールなどへのポスター掲示、およびTwitter、Facebook、Instagramを介して募集された。適格条件は、年齢が18~40歳で、2週間にわたる研究に継続して参加可能な第2三半期の妊婦であること。除外基準は、睡眠障害の診断、管理不良の慢性疾患の存在、腰痛や手術の既往、BMI18未満または40超、非単胎妊娠、周産期合併症(妊娠糖尿病、妊娠高血圧腎症、胎児発育不良、前置胎盤など)の存在など。
52人が参加し49人が、第3三半期において2週間の研究参加を終了した。主な特徴は、年齢31.9±4.1歳、初産26人、経産婦23人、妊娠前BMI23.9±4.1。
評価項目について
主な評価項目は以下のとおり。
身体活動量および睡眠の客観的な評価
利き腕でないほうの手首にアクティグラフィーを、2週間にわたり連日24時間装着してもらい、身体活動量と睡眠関連パラメーター(睡眠時間、中途覚醒、睡眠効率、睡眠断片化指数など)を把握した。また、自発的な身体活動を行う際には心拍数モニターの装着も求めた。
質問紙による身体活動量の評価
妊婦身体活動質問紙票(Pregnancy Physical Activity Questionnaire;PPAQ)を用いて、中等度以上の強度での身体活動(moderate to vigorous intensity physical activity;MVPA)の時間を推定し、1週間のMVPAが90分未満/以上で二分して、睡眠の時間や質を比較する解析を行った。
質問紙による睡眠の主観的な指標
ピッツバーグ睡眠質問指数(Pittsburgh Sleep Quality Index;PSQI)、および、エプワース眠気尺度(Epworth sleepiness Scale;ESS)を用いた評価を行った。PSQIはスコアが高いほど睡眠の質が低いことを意味し、ESSはスコアが高いほど日中の眠気が強いことを意味する。
栄養素摂取量
研究期間中の3日(平日2日、週末1日)に、24時間思い出し法により食事摂取状況を把握し、栄養素摂取量を推算した。対象全体の1日の栄養素摂取量は、エネルギー量が2,229.32±637.9kcal、炭水化物は45.2±8.6%、食物繊維22.4±9.4g、脂質38.2±7.7%、タンパク質16.7±4.3%だった。なお、研究参加者49人のうち7人は食事調査への回答が十分でないため、後述の解析のうち栄養素摂取量と睡眠との関連の解析に関しては、除外して残りの42人のデータが用いられている。解析では、タンパク質摂取量の推奨(1.1g/kg以上)、および、食物繊維摂取量の推奨(25g/日以上)を満たしているか否かでそれぞれ二分したうえで、睡眠の時間や質が比較された。
身体活動と主要栄養素の組成は、どちらも妊娠中の睡眠に影響を及ぼす
身体活動量と睡眠の関連
1週間のMVPAが90分未満であり「身体活動を行っていない(not physically active group;NPA)群」が26人、1週間のMVPAが90以上であり「身体活動を行っている(physically active;PA)群」は23人だった。この2群間に、年齢、社会経済的背景(世帯収入、雇用状況、婚姻状況)、および妊娠前BMIに有意差はなかった。
アクティグラフィーで把握された客観的な睡眠関連指標には、有意な群間差は観察されなかった。一方、ピッツバーグ睡眠質問指数(PSQI)のスコアは、身体活動を行っていない(NPA)群7.3±3.5、身体活動を行っている(PA)群は5.3±2.7であり、主観的な睡眠の質は身体活動を行っているPA群のほうが有意に良好という結果が示された。エプワース眠気尺度(ESS)には有意差がなかった。
栄養素摂取量と睡眠の関連指標の比較
タンパク質摂取量の多寡での比較
タンパク質摂取量の推奨(1.1g/kg以上)を満たしていたのは26人、満たしていなかったのは16人だった。この2群間に、年齢、社会経済的背景、および妊娠前BMIに有意差はなかった。
アクティグラフィーで把握された客観的な睡眠関連指標には、睡眠時間(437.7±50.2 vs 401.1±50.2分、p=0.04)、中途覚醒時間(48.0±18.4 vs 60.0±20.7分,p=0.05)、睡眠効率(88.3±4.7 vs 84.3±5.5%,p=0.02)において、いずれもタンパク質摂取量の推奨を満たしていた群のほうが有意に良好だった。
一方、PSQIやESSには有意差がなかった。
食物繊維摂取量の多寡での比較
食物繊維摂取量の推奨(25g/日以上)を満たしていたのは16人、満たしていなかったのは26人だった。年齢は前者のほうが高齢という有意差が存在したが(p=0.015)、社会経済的背景、および妊娠前BMIには有意差がなかった。
アクティグラフィーで把握された客観的な睡眠関連指標のうち、睡眠断片化指数において、食物繊維摂取量の推奨を満たしていた群のほうが不良という有意差が観察された(34.0±8.9 vs 28.5±8.4%、p=0.02)。PSQIやESSには有意差がなかった。
全体解析での栄養摂取量と睡眠の関連
上記のほかに、全体を二分せずに栄養素摂取量と睡眠関連指標との関連の解析も行われている。
それによると、タンパク質の摂取量はPSQIが低い(睡眠の質が良い)ことと、有意水準未満のわずかな関連が示された(ρ=-0.29、p=0.063)。睡眠時間は炭水化物摂取量と逆相関し(ρ=-0.36、p=0.019)、脂質摂取量と正相関していた(ρ=0.32、p=0.04)。また、食物繊維摂取量は就床時刻が早いことと関連していた(ρ=-0.33、p=0.032)。
著者らは、「身体活動と主要栄養素の組成は、どちらも妊娠中の睡眠に影響を及ぼし、運動は主観的な測定値とより関連し、食事は客観的な測定値とより関連している」と総括している。
文献情報
原題のタイトルは、「The Role of Meeting Exercise and Nutrition Guidelines on Sleep during Pregnancy」。〔Nutrients. 2023 Sep 29;15(19):4213〕
原文はこちら(MDPI)