就寝前にプロテインを摂取しても体組成や筋力は変わらない 英国陸軍新兵での検討
就寝前という、食事によるタンパク質摂取量が少ない時間帯にプロテインサプリを服用し、1日の総タンパク質摂取量を高めても、体組成や筋力に対するメリットは得られないとする、英国陸軍新兵の軍事訓練中に行われた研究の結果が報告された。この結果について著者らは、トレーニングによる刺激が極めて大きかったことが、プロテイン摂取の影響を目立ちにくくした可能性があるといった考察を加えている。
トレーニング直後ではなく、睡眠前にプロテインを摂取する意味はあるか?
除脂肪体重(fat-free mass;FFM)や筋力の向上のために、筋力トレーニングとともにタンパク質の摂取が重要。また、トレーニング直後にタンパク質、とくに分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acid;BCAA)のプロテインサプリを摂取することが、筋タンパク質の再合成刺激という点から推奨されてきている。一方で、タンパク質摂取量を1日24時間の中でなるべく均等にすることの有用性も示唆されている。その関連で、通常は食事を摂取することが少なく、時間あたりのタンパク質摂取量が減少する睡眠前に、プロテインサプリを摂取することの有用性を示した研究結果も散見される。
これを背景に、本論文の著者らは、睡眠前のプロテインサプリ摂取の影響を、英国陸軍新兵の軍事訓練中に無作為化比較試験を実施し検討した。なお、著者によると、軍事訓練中のタンパク質補給の影響を調査する研究の大半は米国で実施されており、英国でのこれまでの研究は少ないという。
14週間にわたる軍事訓練中に、4群での無作為化比較試験
英国陸軍新兵に対して行われる基礎軍事訓練(British army basic training;BT)は、民間人を兵士にすることを目的とするもので、14週間にわたり、身体トレーニング、野外演習、軍特異的任務のトレーニングなどが行われる。消費エネルギー量は、男性は約4,100kcal/日、女性は約3,100kcal/日であり、これをサポートするための十分なエネルギー摂取を中心とした栄養戦略が求められ、それによってBTの効果を高め、また怪我のリスクが抑制されると考えられる。
この研究は、BT期間中に、男性99人、女性23人が参加した。年齢は21.3±3.5歳、身長174.8±8.4cm、体重75.4±12.2kg。無作為に以下の4群に割り付けられた。なお、対照群(CON)を除く3群のサプリのエネルギー量は等しくなるように調整した。また、それら3群ではBT期間中の20~21時にサプリを摂取した。
4群の割り付け
対照群(CON)はサプリ摂取なしの26人。プラセボ群(PLA)は炭水化物サプリを摂取する30人。中等量プロテイン群(MOD)はホエープロテインを含むプロテインと、エネルギー量を一致させるためのマルトデキストリンを含むサプリを摂取する32人。高用量プロテイン群(HIGH)はホエープロテインを含むプロテインを摂取する34人。
評価指標について
食事摂取量と消費エネルギー量
BT期間中の第1~2週、第6週、12週に、それぞれ連続4日間(平日3日、週末1日)に、自己申告による食事日誌を用いて摂取エネルギー量、栄養素量を把握した。また、この食事調査実施日には、手首装着型の活動量計を、利き腕と反対の腕に24時間装着し、消費エネルギー量を把握した。
回復の評価
オンラインにより毎日、ブルネル気分スケール(Brunel Mood Scale;BRUMS)により、32項目の感情の指標を0~4点のリッカートスコアで評価。また、ボルグスケールによる自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)、短縮版多次元疲労評価質問票(Multidimensional Fatigue Syndrome Inventory-Short Form;MFSI-SF)、およびリッカートスコアによる筋肉痛症状などを評価し、毎日の回復状態を把握した。
コルチゾール、テストステロン
毎日6時に起床後、朝食や歯みがきの前に唾液を採取し、コルチゾール(ストレスホルモン)とテストステロン(男性ホルモン)レベルを測定した。
体組成、パフォーマンス
第1週および12週に、DXA(二重エネルギーX線吸収測定法)法にて体組成を評価した。また、同じく第1週および12週に、英国陸軍の標準化されたパフォーマンステストを実施し、筋力、持久力などを計測した。
タンパク質摂取量に有意差があるも、体組成やパフォーマンスの群間差はなし
結果について、論文には、各群の摂取エネルギー量や摂取栄養素量、窒素バランスの推移などの詳細が述べられている。ここではエネルギー出納とタンパク質摂取量についてのみ紹介すると、全体として摂取エネルギー量は2,146~2,648kcal/日の範囲で推移し、対照群(CON)は他の3群より有意に低値で、サプリを摂取する3群間は有意差がなかった。消費エネルギー量は3,425~3,896kcal/日の範囲であり、4群間で有意差はなかった。
体重1kgあたりのタンパク質の摂取量は、CONが1.17±0.24g、PLAが1.31±0.29gであるのに対して、MODは1.71±0.48g、HIGHは2.16±0.50gであり、プロテインを含むサプリを摂取する2群とそうでない2群との間に有意差があった。
このように、睡眠前のプロテインンサプリ摂取により、1日のタンパク質摂取量が有意に増加していたにもかかわらず、プレスアップ、ジャンプ力、ミッド・サイ・プル(mid-thigh pull.主に大腿部の筋力の指標)、メディシンボール投げ、2,000m走タイムなどのパフォーマンス指標に有意な群間差は認められず、体組成や回復関連指標、コルチゾール、テストステロンなどについても有意差のある項目は観察されなかった、
米軍での先行研究とは異なる結果
論文の考察には、米国陸軍での先行研究(プロテインサプリの摂取タイミングは言及されていない)では、パフォーマンスに対するサプリ摂取の有効性が示されており、本研究の結果はそれと異なるものとなった。著者らはこの理由について「不明」としたうえで、トレーニング直後に摂取した場合には同化作用が高まることから、摂取タイミングの相違が影響を及ぼした可能性を挙げている。また、トレーニング量が十分に大きかったため、タンパク質摂取の影響が生じにくかった可能性も考えられるという。
その一方で、軍事訓練中のタンパク質摂取量の個人間のばらつきが大きかったことから、「タンパク質摂取量が至適範囲の下限に近い1.6g/kg/日を下回っている対象には、プロテインサプリの使用を検討する必要があるのではないか」とも述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Pre-sleep protein supplementation does not improve performance, body composition, and recovery in British Army recruits (part 1)」。〔Front Nutr. 2023 Nov 30:10:1262044〕
原文はこちら(Frontiers Media)