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サッカーの試合前に摂取する炭水化物の多寡は試合中と回復期の血糖変動に差を生まない可能性

サッカーなどの持久力を要する競技の前に炭水化物摂取量を増やすグリコーゲンローディングは、試合中と回復期間(当日の夜間)の血糖値(間質液中のブドウ糖濃度)への影響という点では、通常の食事で試合に臨んだ場合と有意差が生じない可能性を示すデータが報告された。立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科の後藤一成氏らの研究によるもので、「Nutrients」に論文が掲載された。

サッカーの試合前に摂取する炭水化物の多寡は試合中と回復期の血糖変動に差を生まない可能性

消化器症状のため炭水化物の摂取量を増やせないことで低血糖等のリスクは高まるか?

サッカーやラグビー、バスケットボールなどの試合後半での疲労やパフォーマンス低下は、筋グリコーゲンの枯渇と低血糖によって生じると考えられている。このため、試合時間の長い競技では試合前の炭水化物の摂取が重視され、試合前の一定期間の炭水化物摂取量を増やしてグリコーゲンレベルを高める「グリコーゲンローディング」という戦略も頻用されている。

サッカー選手の炭水化物摂取量については、欧州サッカー連盟(Union of European Football Associations)が過密なスケジュールで試合に参加する選手に対して、6~8g/kg/日の摂取を推奨している。その一方で、イングランドのプロサッカー選手のシーズン中の炭水化物摂取量は、約4g/kg/日に留まるという報告もある。また、高強度運動による生理学的ストレスに伴う消化器症状やハードスケジュールなどのために、炭水化物を十分に摂取できないアスリートも実際には少なくない。

これらを背景として後藤氏らは、連続血糖測定(正確には皮下間質液中の糖濃度の測定)を用いて、炭水化物摂取量の多寡によってサッカーの試合を模した運動負荷とその後の血糖変動に差が生ずるか否かを検討した。

サッカーの試合を模したテストの3日前から翌日にかけて、2条件で血糖変動を比較

研究参加者は日常的にトレーニングを行っている男性8人であった(23.9±1.1歳、BMI21.9±0.8)。全員に対して、炭水化物摂取量の異なる2条件を課す、クロスオーバーデザインで検討した。

各条件の試行は4日間であり、最初の3日間にわたって毎日3食、規定の食事を提供し、それ以外の飲食を禁止した(水のみ自由摂取可)。提供した食事のエネルギー量は「日本人の食事摂取基準」に基づき、体重にあわせて個別化した(身体活動レベルはII)。

高炭水化物(high-carbohydrate;HCHO)条件では摂取量を8g/kg/日、標準条件(moderate-carbohydrate;MCHO)条件では4g/kg/日と設定した。3日間にわたる9回の食事すべてについて、エネルギー量は条件間で有意差はなく、また参加者からの報告により全員が毎食完食したことが確認された。

3日目にサッカーの試合を模した運動負荷テストを実施した。テスト開始の90分前に、HCHO条件では2.4g/kg、MCHO条件では1.4g/kgの炭水化物を含む朝食を摂取した。運動負荷テストにはトレッドミルを用い、15分間の休憩を挟み45分間の走行を2回行った。トレッドミルの傾斜は1%、速度は歩行(4km/時)、ジョギング(8km/時)、ランニング(12km/時)、スプリント(18km/時)の4パターンを含み、総走行距離は13.95kmとした。

各条件の試行期間4日間(運動負荷テストの翌日まで)にわたり、間質液中のブドウ糖濃度(interstitial fluid glucose concentration;IGC)を連続的に測定した。統計解析に際しては、試合中は5分ごと、試合以外の時間帯は15分ごとのIGC測定値を用いた。

IGCのほかには、採血により血糖、インスリン、乳酸、ミオグロビン、ケトン体などを、呼気採取によりアセトンレベルを評価した。また視覚アナログ尺度による主観的疲労度などを評価した。両条件の試行には10日間のウォッシュアウト期間を設けた。

両条件で血糖変動は有意差なし

運動負荷中の血糖変動

間質液中のブドウ糖濃度(IGC)の推移をみると、試合の前半に相当する45分では両条件ともに、負荷開始時点よりも終了時点のほうが有意に高値となっていた。条件間の比較で有意差のあるポイントは認められなかった。

試合の後半に相当する45分では、両条件ともに開始5分後にピークを記録した後に低下して、15~20分後以降は後半開始時点よりも有意に低値で推移していた。条件間の比較では前半同様、有意差のあるポイントは認められなかった。なお、後半において開始5分後にピークとなったのは、血糖値の変動とIGCの変動とのタイムラグによるものであり、実際は後半スタート時点において、糖新生により最高値になっていたと考えられるという。

90分間でのIGCの濃度曲線下面積(AUC)は、HCHO条件が9,719±305、MCHO条件は9,991±140であり、有意差はなかった(p=0.370)。

運動負荷日の夜間の血糖変動

次に、運動負荷テスト後の回復期に相当する夜間(0時から7時)のIGCの推移をみると、両条件とも明け方に向かって徐々に低下するという時間効果が観察されたが(p<0.001)、条件間の比較で有意差のあるポイントは認められなかった。7時間でのIGCのAUCは、HCHO条件が3万2,378±873、MCHO条件は3万1,749±633であり、有意差はなかった(p=0.456)。

8人中1人は、夜間睡眠中に低血糖(IGCが70mg/dL未満)となったポイントがあった。ただしその参加者は、HCHO条件とMCHO条件の双方で夜間低血糖が発生していた。このことは、試合前の炭水化物摂取量にかかわらず、試合後には一定の頻度で低血糖が発生し得ることを示唆するものと解釈される。

その他の評価指標

IGC以外の評価指標についても、血糖、インスリン、乳酸、ミオグロビン、心拍数、主観的疲労度、体組成などについて、すべて条件間の有意差は観察されず、血糖恒常性や筋損傷などに差は生じなかったと考えられた。

一方、血中ケトン体やアセトンレベルについてはHCHO条件のほうが有意に低いポイントが認められ、MCHO条件では肝臓でのケトン産生が亢進していたことが示された。具体的には、総ケトン体とβヒドロキシ酪酸は90分の運動負荷後の値に有意差が観察され、呼気アセトンは運動負荷翌日の朝のレベルに有意差が観察された。このことから、IGCよりもケトン体レベルのほうが、肝グリコーゲン減少の影響が反映されやすいと考えられる。

著者らは、これらの結果の主要なポイントを、「サッカーの試合を模したランニング負荷中および負荷後のIGCが、HCHOとMCHOとで有意差がないことが明らかになったことだ」と総括している。

一方、研究の限界点として、サッカーの試合ではなくそれを模した運動負荷での研究であること、血糖値(IGC)への影響を評価した結果であって試合のパフォーマンスへの影響は評価していないことを挙げている。また、長時間運動中の血糖値やIGCの低下抑制に関与するのは主として肝グリコーゲンレベルであって、パフォーマンス低下への関与が強い筋グリコーゲンレベルと炭水化物摂取量との関連は、血糖値やIGCの推移のみでは十分に評価できない可能性があることも、解釈上の留意点としている。

文献情報

原題のタイトルは、「Continuous Monitoring of Interstitial Fluid Glucose Responses to Endurance Exercise with Different Levels of Carbohydrate Intake」。〔Nutrients. 2023 Nov 10;15(22):4746〕
原文はこちら(MDPI)

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