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高地トレーニングでも交代浴によって平地同様に脱水の潜在的症状が軽減される可能性

トレーニングによる疲労からの回復を加速させるために用いられることのある交代浴が、高地トレーニングにおいては脱水症状の抑制につながる可能性を示唆するデータが報告された。慶應義塾大学体育研究所の稲見崇孝氏らが、標高1,100mという準高地でのトレーニングキャンプ中に行った研究の結果であり、科学論文「Sports」に論文が掲載された。

高地トレーニングでも交代浴によって平地同様に脱水の潜在的症状が軽減される可能性

交代浴は高地でも有効か?

高地では平地に比べて脱水が生じやすく、脱水は健康障害のリスクであるだけでなくトレーニング効果に負の影響を及ぼす可能性があることから、高地トレーニングの成功のためには適切な水分補給とともに脱水に伴う潜在的な症状を抑制することが必要と考えられる。脱水を抑制する方法の一つとして、平地においては温水浴と冷水浴を交互に繰り返す交代浴(contrast water therapy)がある。しかし、高地におけるこのエビデンスはない。

稲見氏らは、生体電気インピーダンス法(bioimpedance analysis;BIA)による体内水分量の評価により、高地トレーニング中の交代浴による脱水レベルへの影響を詳細に検討するとともに、パフォーマンスへの影響を評価した。

なお、交代浴が脱水の影響を緩和する機序としては、末梢血管の収縮と拡張が繰り返されることで浮腫が軽減されるためと考えられており、この作用は運動誘発性筋損傷(exercise induced muscle damage;EIMD)後の回復を加速させる方法の一つになることが期待されている。

研究の対象と手法について

この研究の参加者は、同大学の陸上競技部に所属している長距離ランナーから募集された男子学生アスリートで、山形県のナショナルトレーニングセンター(蔵王坊平)で行われた13日間の合宿に参加した23人。蔵王坊平の標高は約1,100mであり、準高地に該当する。

参加者を2群に分け、1群は毎日交代浴を行う群(交代浴群〈12人〉)、他の1群は通常の入浴とする群(対照群〈11人〉)とした。入浴の時刻は午後のトレーニング後に固定し、交代浴群では冷水(15℃)と温水(42℃)を90秒ずつ5セット、計15分、対照群は温水(42℃)に15分、いずれも肩まで浸かることとした。

評価項目

脱水レベルの評価項目は、生体電気インピーダンス法(BIA)による体内総水分量(total body water;TBW)、細胞外水分量(extracellular water;ECW)、細胞内水分量(intracellular water;ICW)、および、体重、主観的疲労度(ビジュアルアナログスケールによる評価)とし、毎朝同じタイミングで記録した。

このほかに、運動誘発性筋損傷(EIMD)の評価のため、サルコメア構成タンパクである尿中タイチンN末端フラグメント(titin N-terminal fragment in urine;UTF)を測定した。EIMDを評価した理由として、高地でのトレーニングによるそもそもの水分量の変化とEIMDによる水分量の変化が混在する可能性が挙げられる。本研究では「交代浴の脱水に対する影響をより正確に評価する」という目的のため、トレーニング強度をEIMDが生じにくい持久系トレーニングでデザインしており、実際にEIMDが発生していないことを確認する必要があったことによる。なお、EIMD評価のゴールドスタンダードである筋生検は実験レベルでの運用が難しいため、その代替法として採血によるクレアチンキナーゼが用いられることがあるが、いずれも侵襲性が高いため施行回数が限られ、かつ結果がわかるまで時間を要することから、EIMDが発生していないことを連続的に確認するという本研究の条件での使用は適さないと判断された。

以上に加えて、交代浴のパフォーマンスへの影響の有無を検証するため、各群の8人に対して、反応筋力指数(reactive strength index;RSI)を連日測定した。RSIは、連続10回、できるだけ短い接地時間で高くジャンプしてもらい、ジャンプ高の合計を接地時間の合計で除した値であり、神経・筋機能の指標の一つとされている。

交代浴により高地移動後初期の脱水症状が軽減される

キャンプ中に対照群の1人が疾患のため脱落し、解析対象は交代浴群12人、対照群10人となった(パフォーマンステストは上述のように各群8人)。両群ともに年齢は20歳前後、BMIも20前後で有意差はなかった。

13日間のキャンプ中に観察された尿中タイチンN末端フラグメント(UTF)の上昇幅は、交代浴群が2.1倍、対照群は2倍であって有意差はなかった。既報研究では、ダンベルを用いた運動負荷によりUTFは最大68倍に上昇することもあると述べられており、それに比べて本研究の上昇は軽微であり、運動誘発性筋損傷(EIMD)の発生していない状態で脱水の潜在的な症状を評価できたことが確認された。

4日目と5日目のECW/TBWに有意差

体内総水分量(TBW)、細胞外水分量(ECW)、細胞内水分量(ICW)、体重、主観的疲労度は両群でほぼ同じように推移し、群間差は観察されなかった。一方、脱水の潜在的な症状の指標とされるECWをTBWで除した値(ECW/TBW)は、キャンプ4日目(p=0.032、効果量〈d〉=1.066)、および5日目(p=0.012、d=1.140)に有意差が認められ、交代浴群において脱水症状が緩和されていることが示された。13日間のキャンプの前半でのみ有意差が認められた理由として、高地への移動後初期には身体的適応が進んでいないため、交代浴と通常の入浴の差が顕著に表れた可能性が考えられるという。

パフォーマンスへの影響の評価のため計測した反応筋力指数(RSI)は、有意差はなかった。交代浴には回復を加速させる作用もあることから、EIMDが生じ得る条件ではパフォーマンスに対する効果を期待できる可能性もあるが、今回の研究がEIMDの発生しない状況で実施されたことから、既報研究のデータと照らし合わせても、これは矛盾しない結果とのことだ。

これらの結果の総括として論文の結論は、「準高地でのトレーニングキャンプ中の交代浴は、通常の入浴に比べて脱水症状の抑制に効果的であることが示された。ただし、この効果は、高地へ移動後の初期の段階に限定される可能性がある」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「The Effect of Contrast Water Therapy on Dehydration during Endurance Training Camps in Moderate-Altitude Environments」。〔Sports (Basel). 2023 Nov 22;11(12):232〕
原文はこちら(MDPI)

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