「日本人の食事摂取基準」の遵守状況を確認できる、中高年者向けの食事バランスチェックシートが開発される
地域在住中高年者の食事スタイルが、「日本人の食事摂取基準」にどの程度準拠したものであるかを比較的容易に判定可能な食事バランスチェックシートが開発された。開発後に二つの集団で精度検証が行われ、妥当性も確認されたという。国立長寿医療研究センターおよび徳島大学医学部医科栄養学科の中本真理子氏らの研究によるもので、「The Journal of Medical Investigation」に論文が掲載された。開発された食事バランスチェックシートは国立長寿医療研究センターのサイト内に公開され、自由に活用できる。
食事バランスチェックシートとは
国立長寿医療健康センター「食事バランスチェックシート」「日本人の食事摂取基準」の遵守状況を簡便に判定可能なツールが求められている
食事スタイルの質を評価する指標として、地中海指数やHealthy Eating Index(HEI)、日本食指数などが使われており、それらと健康アウトカムの関連性に関する報告も少なくない。ただし、日本人が健康の維持・増進のために摂取すべき栄養素の基準として厚生労働省が策定している「日本人の食事摂取基準(dietary reference intakes;DRI)」の遵守状況を高齢者において簡易に評価できる指標は、まだ確立されていない。
中本氏らは、徳島県のサンプルデータを利用して、2020年版の「日本人の食事摂取基準」(DRI2020)の遵守状況を評価可能な食事バランススコア(dietary balance score;DBS)を開発。その内的妥当性を検証後に、国立長寿医療研究センターが行っている老化に関する長期縦断疫学研究(National Institute for Longevity Sciences-Longitudinal Study of Aging;NILS-LSA)の大規模データを用いて、外的妥当性を検証するという作業を行った。
食事バランススコア(DBS)の開発とその内容
食事バランススコア(DBS)の開発には、徳島県で2015年に行われた食事調査に参加した60~79歳の地域住民のうち、データ欠落者を除く59人(67.6±4.7歳、女性55人、BMI24.0±3.9kg/m2)のデータが利用された。食前・食後の写真を含む3日間(平日2日と休日1日)の食事記録(3-day dietary records;3DR)を基に、「日本食品標準成分表(7訂)」に基づき栄養素摂取量を算出。また、食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)を用いて、10種類の食品群の摂取頻度を把握した。
これらのデータを基に、欧米で食事の質の評価に用いられている「Nutrient-Rich Food Index 9.3(NRF9.3)」を参考にして、日本人向けの栄養適切性(nutrient adequacy;NA)スコアを作成した。NRF9.3では摂取すべき9種類と制限すべき3種類(飽和脂肪酸、ナトリウム、糖)、計12種類の栄養素を評価対象としているが、DRI2020には「糖」の摂取基準が示されていないため、NAスコアは糖を除く11種類の栄養素の摂取量を評価するものとした。
その算出方法は、DRI2020に示されている性・年齢別の推奨量を100%として、評価対象者の摂取量が何パーセントかを算出し、性・年齢別の推奨エネルギー摂取量で標準化したうえで、摂取すべき9種類の栄養素のパーセントの合計から、制限すべき2種類の栄養素のパーセントの合計を減ずるというもの。NAスコアが高いことは、食事スタイルの総合的な評価が優れていることを意味する。
次に、3DRやFFQから把握された18種類の各食品群が、NAスコアの算出に使用された9種類の推奨栄養素の摂取量にどの程度寄与しているかを検討。この寄与率の大きさから食事バランススコア(DBS)に組み込む食品群を選定。3DRについては全体を四分位で4群に分け、第4四分位群は4点、第3四分位群は2点、第2四分位群は1点、第4四分位群は0点としてスコア化。FFQについては摂取頻度が「ほぼ毎日」を4点、「2日に1回程度」を2点、「週に1~2回」を1点、「ほとんど食べない」を0点としてスコア化した。
これらのスコアに基づいて、以下の4種類の食事バランススコア(DBS)を開発した。DBS1は5種類の食品群によって定義され20点満点。DBS2は9種類の食品群で定義され36点満点。DBS3は8種類の食品群で定義され32点満点。DBS4は10種類の食品群で定義され40点満点。
徳島県のサンプルでの内的妥当性の検証
開発された食事バランススコア(DBS)は、まず開発に用いたサンプルデータでの内的妥当性が検証された。
NAスコアとの相関を検討した結果、3DRに基づくDBSは、4種類のスコアすべて有意な相関が確認された(すべてp<0.001)。相関係数(r)は、0.468(DBS4)~0.529(DBS3)の範囲だった。一方、FFQに基づくDBSについては、NAスコアとの有意な相関が認められたのはDBS1(r=0.312、p=0.016)と、DBS4(r=0.280、p=0.032)の2種類だった。
摂取すべき9種類の栄養素の摂取推奨量をすべて満たしていることの予測能の評価指標であるArea Under Curve(AUC)を検討したところ、3DRに基づくDBSは0.753(DBS2)~0.815(DBS3)の範囲、FFQに基づくDBSは0.699(DBS2)~0.742(DBS4)の範囲であり、どのDBSもほぼ中等度の予測能と判断された。
国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)のデータを用いた外的妥当性の検証
続いて、「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」のデータを用いて、外的妥当性が検証された。なお、解析対象は2010~2012年のNILS-LSA第7波の参加者からデータ欠落者を除いた2,145人(61.1±12.5歳、女性50.2%、BMI22.7±3.2kg/m2)。
まず、NAスコアとの相関については、性別解析および性・年齢層別(40~64歳、65歳以上)の解析でも、すべて有意な相関(男性はr=0.469~0.554、女性はr=0.343~0.505)が確認された(65歳以上の女性におけるDBS1のみp=0.001、その他はp<0.001)。続いて予測能の指標(AUC)を検討すると、3DRに基づくDBSは男性で0.820~0.865の範囲、女性で0.864~0.892の範囲であり、どのDBSも中等度の予測能と判断された。
開発されたDBSは「日本人の食事摂取基準」の遵守状況の評価に有用
これらの結果から著者らは、「開発された食事バランススコア(DBS)、とくにDBS4は、地域在住日本人中高年者の栄養適切性のスコアと相関し、『日本人の食事摂取基準』(DRI2020)の遵守状況の評価に有用と考えられる」とまとめている。
評価精度が最も高いDBS4のスコア算出に用いる10種類の食品群は、「日本食品標準成分表(7訂)」の分類に基づく、魚介類、牛乳・乳製品、緑黄色野菜、その他の野菜、肉類、豆類、卵、果物、きのこ類、藻類という10種類。日本食品標準成分表の分類のうち、油脂類などの食事ガイドラインで摂取が推奨されていない食品群、および、開発サンプルのほぼ全員が毎日摂取していた穀類は含まれていない。
なお、著者によると、このDBSは一般住民のデータで開発・検証されているが、個人の健康増進のみならず、地域や職域、病院や在宅医療などにおける保健・栄養指導、栄養教育等、幅広く使える指標という。また、「日本食品標準成分表」の現行版は8訂で、DRI2020も5年ごとに改訂されることから、それらの改訂にあわせたDBSの妥当性の再検証が必要とされるとしている。
文献情報
原題のタイトルは、「Validation of a dietary balance score in middle-aged and older community-dwelling Japanese」。〔J Med Invest. 2023;70(3.4):377-387〕
原文はこちら(J-STAGE)