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アスリートに特化した睡眠質問票の日本語版を作成 精度検証で良好な信頼性・再現性を確認

海外で開発された、アスリートの睡眠行動の評価に特化した質問票の日本語翻訳版が開発された。またその信頼性や再現性が確認され、いずれも良好な結果が得られたという。東京女子体育大学体育学部体育学科の塚原由佳氏らの研究によるもので、「Open Access Journal of Sports Medicine」に論文が掲載された。

アスリートに特化した睡眠質問票の日本語版を作成 精度検証で良好な信頼性・再現性を確認

アスリートは睡眠の問題を抱えていることが多く、パフォーマンスにも影響する

アスリートは一般人口よりも、睡眠障害が多いことが報告されている。その背景として、試合の勝敗や記録向上の心理的なプレッシャーなどの影響などが想定されている。睡眠障害は注意力や判断力の低下につながり、トレーニングや試合中の怪我のリスクを高め、また回復の遅延、パフォーマンスの低下などにもつながりかねない。これらの影響は性別を問わず生じ得るため、すべてのアスリートに睡眠のモニタリングが必要とされるが、とくに女性アスリートでは月経周期に関連して睡眠障害がより生じやすくなることが知られており、モニタリングの必要性がより高い。

睡眠障害の検査として睡眠ポリグラフ検査があり、またアクチグラフィーなどの機器を用いる方法がある。しかしそれらは手間やコスト、コンプライアンスなどの制約のため、まずは簡便なスクリーニングツールを用いてハイリスク者を拾い上げることが行われる。そのためのツールとして、ピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh Sleep Quality Index;PSQI)などが知られており、PSQIは日本語を含む多くの言語に翻訳されて各国で使用されている。ただしそれらの質問票は一般人口での使用を想定したものであり、アスリートに特化したものでない。

アスリートに特化した睡眠質問票として、2018年にDrillerらが報告したアスリートの睡眠行動質問票(Athlete Sleep Behavior Questionnaire;ASBQ)が存在する(DOI: 10.5935/1984-0063.20180009)。ASBQを用いた評価結果は他の睡眠質問票と相関することが確認されており、既に英語からフランス語、ポルトガル語などに翻訳され国際的に使用されているものの、日本語版はまだない。

日本人は国際的にみて短時間睡眠者が多く、睡眠の時間や質などは文化的背景によって異なる可能性もあることから、仮にASBQを日本人アスリートに適用するとしても、その前に翻訳の適切さも含めた検証が必要とされる。そこで塚原氏らは、ASBQの原著者から許可を得たうえで日本語翻訳版(ASBQ-J)を作成し、続いてその精度検証を行った。

ASBQ日本語版「ASBQ-J」の開発と精度検証の方法

ASBQ日本語版(ASBQ-J)の開発には、スポーツや睡眠に関する豊富な経験を有し、英語と日本語に堪能な複数の医師・研究者が、文化的な相違に配慮しながら和訳し、それを英語に逆翻訳したのち、研究目的を知らされていない経験豊富な翻訳者が検証。その指摘を修正後に独立した専門委員会(スポーツ医学、神経学などが専門の研究者、女性2人、男性1人)が内容を確認し、検出されたすべての問題点が解決されるまでこの作業を繰り返した。

続いて女性アスリート42人を対象にパイロット研究を実施。そこで浮かび上がった問題をさらに修正して、最終的なASBQ-Jが完成した。

完成したASBQ-Jは英語版と同様に18項目の質問からなり、過去1カ月の間にそれらの質問に該当することがあったか否かを、「全くない」、「まれにある」、「時々ある」、「頻繁にある」、「いつも」から選択し、1~5点にスコア化する。質問項目には、「午後に2時間以上の昼寝をする」、「毎晩違う時間に寝る(1時間以上異なる)」などの一般的な内容のほかに、「ベッドに入っても自分の競技パフォーマンスに関して考えたり、計画したり、心配になる」といった、アスリートに特化した内容が含まれている(すべての質問項目は本論文のFigure 1を参照)。

ASBQ-Jの合計スコアが42点を超える場合は睡眠行動に大きな問題がある可能性ありと判定し、37~42点は中程度の問題がある可能性ありと判定する。

日本人女子大学生アスリートを対象に調査を実施して精度検証

精度検証のための調査は、国内1大学の女子学生アスリート437人を対象として、Googleフォームを用いて実施された。2023年2月第1週に初回の調査を行い、1カ月間おいて同一対象に再調査を行って、再現性を確認した。2回の調査の間隔を1カ月と設定した理由は、1カ月あれば回答者が自分の前回の回答内容を覚えていることが困難であり、かつ睡眠パターンが大きく変化してしまうケースは少ないと考えられたため。

回答率は初回が54.9%、2回目が41.4%で、17種類の競技にわたる計401人が回答。双方に回答したのは14種類の競技にわたる111人だった。年齢は20.4±0.9歳、学年は1年生35.1%、2年生27.9%、3年生31.5%、4年生5.4%であり、全体の46.8%は国内大会または国際大会レベルで競技を行っていた。

女子大学生アスリートの睡眠の実態と、ASBQ-Jの信頼性

5人に1人は睡眠不足の可能性

ASBQ-Jのスコアは、初回が37.5±5.8点、2回目は35.5±6.0点であり、競技レベル(国内大会以上に出場しているか否か)で比較した場合、初回も2回目も有意差は観察されなかった。また、質問の内容を基に、睡眠の問題を「環境因子(environmental factor)」、「行動因子(behavioral factor)」、「スポーツ関連因子(sports-related factor)」という三つに分けて解析した場合も、初回と2回目の比較、および競技レベルでの比較で有意差は認められなかった。

全体の37.8%はスコアが36点以下であり、良好な睡眠がとれていると考えられた。その一方で5人に1人(19.8%)は42点以上であり、睡眠不足であると考えられた。

また、99.0%と大半のアスリートは睡眠薬を服用しておらず、96.4%はいびきのための中途覚醒はないと回答した。

内部整合性と再現性も良好

内部整合性の指標であるクロンバックのα係数は、初回が0.62、2回目は0.65だった。一般にクロンバックのα係数は0.7以上が好ましいものの、0.6~0.7の範囲も内部整合性は十分と判定されることから、ASBQ-Jが信頼できる指標であると判断された。また別の指標であるマクドナルドのω係数からも内部整合性が十分であることが確認された。

初回調査と2回目の調査のクラス内相関(ICC)は0.78であり、高い再現性が確認された。また、前記の三つの因子(環境因子、行動因子、ポーツ関連因子)を個別に解析した場合も、ICCはすべて0.7以上だった。

ASBQ-Jは日本人アスリートの睡眠に関する問題の検出に使用可能

著者らは本研究の限界点として、対象が1大学の女子学生のみであり男子学生や他の年齢層では評価されていないこと、2回の調査の双方に回答したアスリートが半数程度と少なかったことから選択バイアスが存在する可能性のあることなどを挙げている。

そのうえで、「ASBQの日本語版は、十分な内部整合性と再現性を兼ね備えていて、日本人アスリートの睡眠関連の問題を簡便にスクリーニング可能なツールといえるのではないか。睡眠障害の診断に用いることはできないが、アスリート本人のみならず、コーチ、保護者、医療関係者にとっても有用なツールとなると考えられる」と結論づけている。

文献情報

原題のタイトルは、「Athlete Sleep Behavior Questionnaire in Japanese (ASBQ-J): An Adaptation and Validation Study」。〔Open Access J Sports Med. 2023 Nov 16:14:89-97〕
原文はこちら(Dove Press)

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