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中・長鎖トリグリセライド(MLCT)摂取で脂質代謝が亢進 日本人肥満者対象クロスオーバー試験

中・長鎖トリグリセライド(MLCT)摂取によって脂質代謝亢進作用が発現することを示すデータが報告された。国内の肥満者を対象に行われた無作為化クロスオーバー試験の結果であり、長鎖トリグリセライド(LCT)摂取条件に比較し、安定同位体の炭素13で標識された、食事由来のLCT分解により生ずる二酸化炭素量の有意な増加が認められたという。日清オイリオグループ株式会社 中央研究所の野坂直久氏らの研究であり、論文が「Frontiers in Nutrition」に掲載された。

中・長鎖トリグリセライド(MLCT)摂取で脂質代謝が亢進 日本人肥満者対象クロスオーバー試験

中・長鎖トリグリセライドでも脂質代謝は亢進するか?

中鎖脂肪酸(medium-chain fatty acid;MCFA)は、ミトコンドリア機能改善などを介した抗肥満作用を有することが知られている。またMCFAを主成分とする中鎖トリグリセライド(medium-chain triglycerides;MCT)として摂取した場合、食事誘発性熱産生(diet induced thermogenesis;DIT)やエネルギー消費が亢進することが報告されている。

しかしMCTは、加熱によって煙や泡が発生するため、そのままでは調理油として利用しにくい。それに対して、MCTに長鎖トリグリセライド(long-chain triglycerides;LCT)を混合・酵素処理して、中・長鎖トリグリセライド(medium- and long-chain triglycerides;MLCT)とすると、この調理油としての欠点が解消される。ただし、MLCTがMCTと同様の作用を発揮するのかという点については、一貫性のある結論が得られていない。

これらを背景として野坂氏らは、肥満者を対象とする二重盲検クロスオーバー試験によって、MLCT摂取後の長鎖トリグリセライド(LCT)の代謝への影響を検討した。なお、LCTはMCTに比較し分解されにくく、脂肪として蓄積されやすい。

菜種油を対照として、長鎖トリグリセライドの分解に対する影響を比較

既報研究に基づき、有意差の検証に必要な最少サンプル数は28人と予測されたため、研究参加に同意したボランティア80人を対象にスクリーニングを実施した。BMIが25~30の範囲であり(日本では肥満、欧米では過体重に該当)、座位行動が中心の生活パターンであることなどの適格条件を満たす47人を抽出。無作為に2群に分け、1群は先に中・長鎖トリグリセライドを摂取させ(MLCT条件)、他の1群は先に対照を摂取させた(対照条件)。対照条件には、市販の菜種油を用いた。

各条件で4週間の介入を行い、5週間のウォッシュアウト期間を置いて条件を切り替えて、4週間介入した。MLCTは14g中に1.6gの中鎖脂肪酸(MCFA)を含み、対照油(菜種油)はMCFAを含有していない。

研究参加者には、研究期間中ふだんどおりの生活を続けることを依頼し、過度の運動や飲酒、食事摂取量の変更を禁止した。また摂取開始後25~27日の3日間にわたり、摂取したものをすべて撮影してもらい、その記録に基づき摂取栄養素量を推計した。

各条件の4週間介入終了後、ひと晩の絶食をおいて、MLCTまたは対照油を炭素13で標識した試験食とともに摂取してもらい、その後4時間にわたり呼気を採取し、長鎖トリグリセライド(LCT)分解により生ずる二酸化炭素量を計測。既報研究に基づく計算式によって、LCTの代謝率を算出し比較した。

MCFA以外の栄養素摂取量は両条件間で有意差なし

研究期間中に、新型コロナウイルス感染症パンデミックによる外出自粛措置がとられたことの影響による脱落などにより、最終的な解析対象は30人(50.5±8.0歳、男性14人、BMI27.0±1.4)となった。対照条件で有害事象(消化器症状)が2件報告されたが、軽度であり医師の判断で摂取が継続された。

食事記録に基づく摂取エネルギー量、主要栄養素摂取量に有意差はなく、また脂肪酸についても中鎖脂肪酸(MCFA)以外の脂肪酸(飽和、一価不飽和、多価不飽和)の摂取量に有意差は認められなかった。MCFA摂取量は、MLCT条件では1,925±53mg/日、対照条件では276±36mg/日だった(p<0.05)。

長鎖トリグリセライド(LCT)代謝率はMLCT条件が有意に高値

各条件での介入終了日に評価された長鎖トリグリセライド(LCT)の代謝率のAUCは、試験食摂取後4時間で、対照条件では1.8±0.3%の増加であるのに対して、MLCT条件では2.3±0.5%増であって、後者のほうが有意に高値だった(p<0.05)。また介入の順序はこの結果に影響を及ぼしていないことが確認された。

著者らは、栄養素摂取量が両条件で同等であったことから、「MLCT条件で観察されたLCT代謝の亢進は、MLCTを摂取したことに起因するものと考えられる」と述べている。また論文の考察において、MCFAは肝臓で代謝されやすく、LCFAに比べてトリグリセライドとして合成されにくいといった違いがあることなどに言及。結論は、「運動習慣のない肥満者において、4週間のMLCT摂取によりLCTの代謝が有意に亢進する可能性があることが示された。これは、MCFAがLCFAとは異なる代謝動態を示し、肝臓ミトコンドリアのβ酸化系を活性化することによって脂肪酸の分解促進に寄与することを示唆するものと考えられる」と総括されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Ingestion of triglycerides containing medium- and long-chain fatty acids can increase metabolism of ingested long-chain triglycerides in overweight persons」。〔Front Nutr. 2023 Nov 16:10:1260506〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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