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「日本食指数」が高い人は筋力の低下速度が遅い 50歳以上の日本人対象縦断研究で明らかに

日本食らしい食事パターンであるほど、筋力低下速度が遅いことを示す縦断研究のデータが報告された。全国10都市の50歳以上の一般住民を対象に、握力を評価した調査に基づく報告であり、長野県立大学健康発達学部 食健康学科の清水昭雄氏らの論文が「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載された。

「日本食指数」が高い人は筋力の低下速度が遅い 50歳以上の日本人対象縦断研究で明らかに

縦断的解析による日本人地域住民対象研究からのエビデンス

握力は筋力低下の重要なマーカーであり、サルコペニアやフレイルの判定にも用いられている。握力の低下は転倒や骨折および死亡リスクとも関連のあることが知られている。

他方、食習慣が筋力と関連することも示唆されており、例えば地中海食の遵守が筋力低下や疾患有病率と逆相関するという海外の報告がある。また国内からは、清水氏らが既に、日本人の場合は地中海食よりも日本食をベースとする健康的な食習慣のほうが、サルコペニアリスクが低い可能性があるとする横断研究の結果を報告している(doi: 10.3390 / ijerph 191912636)。

ただし、これらの研究は横断研究によるものであるため、食習慣と筋力の間の因果関係の解釈は制限される。そこで今回の研究は、同一対象を長期間追跡する縦断的解析によりこの関連を詳細に検討した。

全国10都市の居住者約1,700人を4年半追跡

研究には、独立行政法人経済産業研究所などが行っている中高齢者対象調査「くらしと健康の調査(Japan Study of Aging and Retirement;JSTAR)」のデータを用いた。JSTARは、国内10都市の50歳以上の地域住民から無作為に抽出された人を対象とするパネル調査。今回の研究では、追跡期間が比較的長くデータ欠落者が少ない、2007年および2011年の登録者のうち、ベースライン時点の筋力低下が認められない1,699人(平均年齢62.5±6.9歳、男性49.6%、BMI23.4±3.0)を解析対象とした。

食習慣の評価には、日本食らしさを評価する「日本食指数改訂版(12-component Revised Japanese Dietary Index;rJDI12)」を用いた。rJDI12は、12種類の食品群(米、味噌、大豆製品、魚介類、きのこ、海藻、緑茶など)の摂取量を基に0~12点の範囲でスコア化し、高得点であるほどより日本食らしい食事パターンと判定する。なお、rJDI12とは別に、食事の質を総合的に把握する「Overall Nutrient Adequacy(ONA)」による評価も行い、本研究の対象においてrJDI12とONAのスコアとの間にr=0.46という中程度の相関が認められた。

筋力については、アジアサルコペニアワーキンググループのサルコペニア診断基準に基づき、利き腕の握力が男性は28kg未満、女性18kg未満の場合、「筋力低下」と判定した。

rJDI12スコアが高い群ほど、筋力低下リスクが低い

rJDI12スコアの三分位に基づき全体を3群に分類しベースラインデータを比較すると、年齢はスコアの高い群(より日本食らしい食事パターンの群)のほうが高く、摂取エネルギー量、タンパク質摂取量、および歩行時間が1日1時間以上の割合が高くて、BMIと喫煙者率は低いという有意差が観察された。一方、性別の分布、手段的ADL、習慣的飲酒者の割合、教育歴には有意差がなかった。

握力の中央値は第1三分位群から順に、29.0、30.0、30.0kgであって、有意な群間差は認められなかった(p=0.261)。

摂取エネルギー量やタンパク質量を調整しても有意な関連

平均4.4±0.2年の追跡で新たに「筋力低下」と判定された人の割合を、rJDI12スコアの第1三分位群を基準として比較すると、年齢と性別およびベースライン時の握力、BMI、手段的ADL、喫煙・飲酒習慣、教育歴、既往疾患、運動量帆交絡因子として調整したモデル(本稿ではモデル1とする)で、第3三分位群はaOR0.519(95%CI;0.320~0.833)と、リスクが有意に低いことが示された(傾向性p=0.007)。

次に、モデル1の交絡因子に摂取エネルギー量を追加して解析。結果はやはり第3三分位群でaOR0.498(同0.294~0.835)であり、有意なリスク低下が観察された(傾向性p=0.008)。また、モデル1の交絡因子にタンパク質摂取量を追加した解析でも、第3三分位群はaOR0.487(同0.284~0.829)だった(傾向性p=0.008)。

死亡リスクとの関連は非有意

続いて副次的な検討として、死亡リスクとの関連をモデル1の交絡因子を調整後に解析した。すると、第3三分位群であってもaOR1.479(同0.616~3.709)であり、有意な関連は認められなかった。

この点について著者らは論文の考察において、追跡期間が10年程度の既報研究では食事パターンが死亡リスクに影響を及ぼす可能性が示されていることから、本研究の4年半という期間が死亡リスクとの関連を評価するには短すぎたのではないかと述べている。

日本食らしい食事パターンがフレイル・サルコペニア予防につながる可能性

まとめると、日本食らしい食事パターンの人は4年半の追跡で筋力の低下が少なく、この関係は摂取エネルギー量やタンパク質摂取量を調整しても有意であった。また、日本食らしい食事は、健康的な栄養素摂取バランスの評価スコアと正相関していた。これらを基に著者らは、「日本食らしい食事パターンを遵守することで、より良好な栄養素摂取を介して筋力低下リスクが抑制される可能性があり、フレイルやサルコペニアの予防につながるのではないか」と総括している。

なお、日本食による筋力低下リスク抑制のメカニズムとしては、日本食は魚介類や大豆製品が豊富であり、ω3脂肪酸、イソフラボンなどが抗炎症、抗酸化作用を介して筋タンパク質の異化を抑制するとともに、必須アミノ酸のロイシンが筋タンパク質合成を刺激するといったことが関与している可能性があるという。

文献情報

原題のタイトルは、「Association between Japanese Diet Adherence and Muscle Weakness in Japanese Adults Aged ≥50 Years: Findings from the JSTAR Cohort Study」。〔Int J Environ Res Public Health. 2023 Nov 15;20(22):7065〕
原文はこちら(MDPI)

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