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アスパラギン酸が、反復スプリントのパフォーマンスを向上させる可能性 クロスオーバー試験

アスパラギン酸が反復スプリントのパフォーマンスを向上させる可能性を示唆するデータが報告された。立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科の後藤一成氏らが行ったプラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験の結果であり、論文が「Nutrients」に掲載された。

アスパラギン酸が、反復スプリントのパフォーマンスを向上させる可能性 クロスオーバー試験

アスパラギン酸は高強度負荷のパフォーマンスも向上させるのか?

アスパラギン酸は非必須アミノ酸の一つで、トリカルボン酸回路(tricarboxylic acid cycle〈TCA回路〉)の中間産物であるオキサロ酢酸の前駆体である。TCA回路の回転にかかわり、脂肪酸酸化を亢進させ、かつ運動中の血中乳酸濃度の上昇を抑制することが報告されている。また、持久力を向上させる可能性を示唆する複数の研究報告が存在する。ただし、高強度運動パフォーマンスに対する影響はこれまでのところ検討されていない。

持久力が重要とされるスポーツにおいても、持久力のみが高ければ十分ということは少なく、例えばサッカーやラグビーでは選手の反復スプリント能力(repeated-sprint ability;RSA)の高さも、試合の勝敗を左右する大きな要因の一つだ。試合の前半のスプリントでは嫌気性解糖系やクレアチン由来のエネルギーが使われるが、スプリントを繰り返すに従い、酸化的代謝の寄与が大きくなる。試合が進むとともに、エネルギー源の欠如と代謝産物の蓄積がRSAを低下させると考えられ、これに対してアスパラギン酸はTCA回路の回転を速めることでRSA低下を抑制する可能性が想定される。

今回の研究で後藤氏らは、スプリント運動を繰り返す際にアスパラギン酸を摂取することで、pHの低下が抑制されパフォーマンスが向上するのではないかとの仮説の下、以下の検討を行った。

20代の日本人男性を対象にプラセボ対照試験で検証

研究デザインはプラセボ対照の二重盲検クロスオーバー法で、参加者は年齢が20代で運動習慣のある健康な日本人男性15人であった。1人は一部のテストを完了しなかったため、解析対象は14人(22.3±0.3歳、172.1±1.7cm、65.4±2.2kg)となった。全員が非喫煙者であり、過去12週間以内に200mL以上の採血を受けた人、怪我などのため運動が困難と考えられる状態の人などは除外されている。また研究期間中は食習慣を大きく変更しないように求め、各条件の試行24時間前以降の激しい運動、カフェイン、アルコールの摂取を禁止した。

L-アスパラギン酸ナトリウム(ASP)およびプラセボの摂取方法

アスパラギン酸はL-アスパラギン酸ナトリウム(sodium L-aspartate;ASP)4.0gに0.5gの香料などを添加したものとし、プラセボはマルチトール3.7gに0.8gの香料などを添加したものを使用した。ひと晩絶食後の午前中に、後述の反復スプリントテストを行った。試行条件は無作為化し、1週間のウォッシュアウト期間を設けて実施した。

ASPおよびプラセボは顆粒化され、200mLの水とともに摂取された。摂取のタイミングは、反復スプリントテストの25分前と、1セット目の終了直後の計2回とした。なお、ASPは摂取25分後に血中濃度が最大値となることが、以前のパイロット研究で示されているという。

反復スプリントテストの方法と評価項目

反復スプリントテストには自転車エルゴメーターを用い、体重の7.5%の負荷で6秒間のスプリントを40秒間の能動的回復を挟みながら10回繰り返すことを1セットとして、5分間の受動的回復を挟み3セット行った。

評価した反復スプリント能力(RSA)の指標は、ペダル回転数のピークと平均などで、そのほかに運動負荷中の心拍数や酸素摂取量、二酸化炭素産生量などを計測した。また、ASPまたはプラセボの摂取前(ベースライン)と、各セットの前後、および3セット目終了の60分後に血液を採取。さらに各セットの終了直後に、呼吸状態と下肢に関する自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)を、10点満点のスケールで評価してもらった。

ASP条件で2セット目のピーク回転数が有意に高値で、pHは高値傾向

パフォーマンス関連指標

RSAの指標として評価したピーク回転数は、2セット目において、L-アスパラギン酸ナトリウム(ASP)摂取条件のほうが有意に高いことが認められた(p=0.048)。1セット目と3セット目のピーク回転数には有意差がなく、また平均回転数は3セットすべてで有意差がみられなかった。

ピークパワーは、プラセボ条件が734±31W、ASP条件が741±32Wで後者が高い傾向にあったが有意水準には至らなかった(p=0.060)。心拍数や酸素摂取量、二酸化炭素産生量、分時換気量、RPEについては、3セットすべてで有意差がみられなかった。

血液検査指標

pHは両条件ともに負荷開始とともに低下し、3セット目の開始前および終了後の値は、有意水準未満ながらASP条件のほうが高値だった(p<0.1)。また、ベースラインから3セット目終了60分後までの変動を比較すると、プラセボ条件は低下していたのに対してASP条件では上昇し、条件間に有意差が観察された(p<0.001)。

重炭酸(HCO3-)および塩基過剰(base excess)レベルについても、両条件で負荷開始とともに低下した。反復スプリントテスト試行中に有意差が観察されたポイントはなかったが、ベースラインから3セット目終了60分後までの変動を比較すると、ASP条件で低下幅が少なく、条件間に有意差が観察された(HCO3-はp=0.013、塩基過剰はp=0.001)。

アスパラギン酸はRSAを部分的に向上し得る

これらの結果に基づき著者らは、「アスパラギン酸の摂取が反復スプリント能力を部分的に改善する可能性が示された。また、pH等の低下を抑制することも示され、これもスポーツパフォーマンスに有益と考えられる」と述べている。

研究の限界点としては、アスパラギン酸摂取の急性効果のみに焦点を当てており、継続摂取した場合の反復スプリント能力への影響が未評価であること、至適用量や摂取タイミングが不明であることなどを挙げている。

なお、アスパラギン酸そのものは一般の食品に含まれているアミノ酸であり、これまでの研究で有害事象の報告はないことから、安全性の懸念は低いとのことだ。

文献情報

原題のタイトルは、「Sodium L-Aspartate Supplementation Improves Repeated-Sprint Performance」。〔Nutrients. 2023 Dec 15;15(24):5117〕
原文はこちら(MDPI)

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