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噛む力が弱いとTUGテストの成績も低い 地域在住高齢者対象研究「東温スタディ」からの知見

タイムアップ・アンド・ゴー(Timed Up & Go Test;TUG)テストの成績が、咀嚼機能と有意に関連しているとする、日本人対象研究の結果が報告された。咀嚼機能の低い高齢者ではTUGの成績が不良であり、年齢やBMIなどの交絡因子を調整後も有意差が認められるという。愛媛大学大学院農学研究科生命機能学専攻地域健康栄養学分野の宮崎さおり氏、丸山広達氏らの研究によるもので、「Osteoporosis and Sarcopenia」に論文が掲載された。

噛む力が弱いとTUGテストの成績も低い 地域在住高齢者対象研究「東温スタディ」からの知見

タイムアップ・アンド・ゴー(Timed Up & Go Test;TUG)テストとは?

Timed Up & Go Test(TUG)について(一般社団法人日本運動器科学会)

咀嚼機能を客観的に評価して身体機能との関連を検討

咀嚼機能の低下は食事摂取量の低下や食欲の低下につながり、身体的フレイルの悪循環を加速させる。これまでに、咀嚼機能低下と身体機能低下の関連性を示した報告が複数存在するが、それらの多くは介護施設居住者を対象にしていたり、咀嚼機能を主観的な指標で評価しているといった限界点があり、解釈の一般化が制限されていた。

そこで丸山氏らは、愛媛県東温市で行われている地域在住一般成人対象の疫学研究である「東温スタディ」のデータを横断的に解析し、客観的に評価された咀嚼機能と身体機能の関連の有無を検討した。解析対象は東温スタディの2016~17年の参加者811人から、60歳未満および解析に必要なデータの欠落者を除外した464人(女性60.1%)。

咀嚼機能については、10時間の絶食後に無味無臭の1gのガムを5分間噛んでもらい、その間に分泌された唾液をすべて採取して割り出した、1分間あたりの刺激時唾液分泌量を評価に用いた。この方法で把握した唾液分泌量は、咀嚼機能の代替指標として利用可能であることが既報研究で示されている。

一方、身体機能の評価には、歩行能力や動的バランス、敏捷性などを総合的に評価可能なタイムアップ・アンド・ゴー(Timed Up & Go;TUG)テストを採用。椅子から起立して3m前方に歩き、向きを変えて戻り、再び着席するのに要する時間で評価した。

刺激時唾液分泌量が身体パフォーマンスと有意に相関

刺激時唾液分泌量の四分位で4群に分けると、年齢は唾液分泌量の多い群のほうが若いという有意差が認められた。そのほかに、唾液分泌量の多い群ではBMIが低く、残存歯数が多いといった有意差がみられ、一方で習慣的飲酒者・喫煙者の割合、身体活動量、義歯使用率などは有意差がなかった。

刺激時唾液分泌量が少ないとTUGのタイムが遅い傾向

年齢と性別の影響を調整すると、刺激時唾液分泌量の第1四分位群(唾液分泌量が最も少ない下位25%)のTUGの記録は6.52秒であり、これは第4四分位群(唾液分泌量が最も多い上位25%)の5.96秒と比較して有意に遅かった(p=0.04)。

ただし、調整因子に、喫煙・飲酒習慣、身体活動量、糖尿病、残存歯数、義歯の使用を追加した解析ではこの関連性が弱まり(p=0.11)、さらにBMIを調整因子に追加すると、関連性はより減弱した(p=0.28)。

TUGの成績不良のオッズ比は、交絡因子調整後も有意

次に、TUGのタイムの75パーセンタイル以上(男性は6.8秒以上、女性は7.0秒以上)を「パフォーマンス低下」と定義したうえで、刺激時唾液分泌量との関連を検討した。すると、唾液分泌量の第1四分位群でパフォーマンス低下に該当した人は38人、第4四分位群では14人だった。

第1四分位群を基準として年齢と性別の影響を調整後、第4四分位群におけるパフォーマンス低下のオッズ比(OR)は0.31(95%CI;0.15~0.63、p=0.01)となった。前記と同様の喫煙・飲酒習慣や身体活動量などの因子の影響を調整後にも、OR0.34(同0.16~0.69、p=0.02)、調整因子にBMIを追加後もOR0.37(0.18~0.76、p=0.04)であって、引き続き有意な関連が認められた。

咀嚼機能の改善が栄養状態改善を介して、身体機能改善につながる可能性

著者らは本研究を、「客観的な手法で評価された咀嚼機能とTUGパフォーマンスの低下との関連を検討した初の研究」と位置づけている。また、検討対象が一般住民でありサンプル数も比較的多いことなども、本研究の強みだとしている。ただし、服薬状況が把握されておらず、ポリファーマシーによる唾液分泌量や身体機能への影響を除外できていないこと、横断研究のため因果関係には言及できないことなどを限界点として挙げている。結論としては、「咀嚼機能の代替指標である刺激時唾液分泌量が多いことは、日本人高齢者のTUGパフォーマンスの低下と逆相関している」とまとめられている。

なお、この関連のメカニズムとして先行研究のエビデンスを基に、以下のような考察が加えられている。まず、咀嚼機能は適切な栄養摂取にとって重要であり、咀嚼機能が低下した高齢者では、野菜、果物、肉、魚介類、豆類などの食品や、タンパク質、カルシウム、鉄分、ナイアシン、ビタミンCなどの栄養素の摂取量が低下していることが報告されているという。それらを介して筋力の低下やサルコペニア、活力の低下などが引き起こされる可能性があるとのことだ。反対に、咀嚼機能の改善によって食欲が増進したり、エネルギー、タンパク質、食物繊維、ビタミンなどの摂取量が増えて、筋力の維持にプラスに働くことも考えられるという。

文献情報

原題のタイトルは、「The association between masticatory ability and lower Timed Up & Go Test performance among community-dwelling Japanese aging men and women: The Toon Health Study」。〔Osteoporos Sarcopenia. 2023 Sep;9(3):94-98〕
原文はこちら(Elsevier)

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