血液検査でアスリートの摂取エネルギー量がわかる? 日本人男子大学選手でのパイロット研究
血液バイオマーカーを使ってアスリートの摂取エネルギー量の評価を試みるというパイロット研究の結果が報告された。3項目の検査値を使った計算式で、精緻な食事記録に基づき算出した摂取エネルギー量と、系統誤差なく予測できることが示されたという。順天堂大学スポーツ健康科学部の黒坂裕香氏、同大学院スポーツ健康科学研究科の町田修一氏らの研究によるもので、「BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation」に論文が掲載された。
摂取エネルギー量を簡便に把握可能な手法を探るパイロット研究
エネルギー摂取量(energy intake;EI)の把握は栄養指導の第一歩であり、アスリートのトレーニング効果の最大化と健康維持のためにもEIの評価は欠かせない。EIの評価は通常、食事記録等の情報を栄養士が解析して行っているが、二重標識水法を用いて正確に導いた値に比べて誤差が少なくないことや、食事記録期間中に通常よりも食事を控えたりされやすいことなどの欠点も報告されている。さらに、数日間にわたりすべての飲食物を記録するという本人の負担、およびそれを解析する栄養士の負担も大きく、実地において頻繁に行うことは現実的でない。
一方、個人ではなく集団を対象とする疫学研究においては、特定の栄養素の摂取量の評価にバイオマーカーが利用されることがある。例えば鉄の摂取量をフェリチン、タンパク質の摂取量をクレアチニンである程度推測することができ、また尿中Na/K比のように複数のバイオマーカーを組み合わせることで、栄養素摂取量を正確に判定することも可能となっている。
仮に、EIもバイオマーカーで推測できるとしたら、より多くの対象のEIをより高頻度に評価したうえで、栄養指導や介入を行えるようになるかもしれない。このような背景の下、黒坂氏らは、複数のバイオマーカーの組み合わせによってEIを予測可能か検討した。
運動部の男子大学生28人を対象に調査
研究参加者は順天堂大学スポーツ健康科学部の男子学生のうち、運動部に所属している28人。年齢は19.6±1.4歳、BMIは24.2±3.4で、二重エネルギーX線吸収測定(DXA)法で計測した体脂肪率が12.0±2.9%、除脂肪体重(FFM)が63.1±7.8kgであり、FFMに基づき安静時基礎代謝量(BMR)は1,799±223kcal/日と計算された。行っているスポーツは、陸上(投擲、十種競技)、ハンドボール、バスケットボールだった。
EIは、トレーニング日2日、休息日1日、計3日にわたり、摂取した飲食物についてドレッシングの計量なども含め、すべての食材の種類と量を詳細に記録し、かつ写真を撮影してもらい、それらのデータを公認スポーツ栄養士が解析して算出。その結果、EIは3,103±455kcal/日と計算され、BMRに対するEIの比(EI/BMR比)は1.74±0.31であり、この値を空腹時のバイオマーカーの値から予測する計算式の開発を試みた。
36項目のバイオマーカーとEIの関連を解析
EIの予測計算式開発のために評価した血液バイオマーカーは、タンパク質、腎機能、鉄代謝、肝酵素、糖代謝、脂質代謝、血球数、下垂体・甲状腺・副腎皮質・性腺ホルモンなど、合計36項目。トリグリセライド(TG)などの正規分布でない検査値は対数変換したうえで、EI/BMR比との相関を検討すると、総コレステロール、LDL-コレステロール、白血球数、遊離型トリヨードサイロニン(FT3)という4項目が、有意に相関することが確認された。
次に、測定した36項目間のすべての組み合わせについての相関を検討した。相関係数が0.6を超えた場合は、EI/BMR比との相関が強いいずれか一方のみを残す作業をし、18項目の独立変数を抽出した。この18項目を用いて、EI/BMR比を従属変数とする階層的重回帰分析を施行した。その結果、FT3、白血球数、TGという3項目でEI/BMR比の60.4%を説明でき、かつ多重共線性はない(これら3項目が相互に影響するものではない)ことが明らかになった。
続いて、この3項目からEI/BMR比を予測する計算式を開発。その式に基づくEI/BMR比と、食事記録に基づいて算出したEI/BMR比の相関を検討した結果、r=0.807、p<0.0001と強い相関が認められた。またこの計算式に基づく予測値には、系統誤差(偶然による誤差ではなく、特定の原因によって生じる誤差)がないことが確認された。
食事記録の欠点を補うために利用できる可能性
以上の結果に基づき著者らは、「FT3、白血球数、およびTGというバイオマーカーの組み合わせを、日本人男性学生アスリートのEI/BMR比の推定に使用可能ではないか」と結論づけている。また、開発された計算式の具体的な活用法として、煩雑な食事記録に基づくEIの推測が困難な状況での代替として用いたり、食事記録の過少・過大報告の検出に活用したり、食事記録の欠点を補うために利用できるのではないかとの提案を付け加えている。
ただし、本研究がパイロット研究であり、複数の限界点があることを論文中で指摘。例えば、食事記録に基づき算出したEIの精度が検証できていないこと、研究参加者が少数の男子学生アスリートのみで、かつ行っている競技数も限られていることなどを挙げ、「ほかの集団での検討が必要」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Blood biomarkers for estimating energy intake in Japanese male collegiate athletes: a pilot study」。〔BMC Sports Sci Med Rehabil. (2023) 15(1):150.〕
原文はこちら(Springer Nature)