世間にあふれる食事・栄養関連情報の信頼性を調査 日米の書籍比較・日本語サイト検証 東京大学
日本の食事や栄養、健康関連の一般書籍に書かれている情報は、米国に比べて根拠が示されていないことが多いことが明らかになった。また、日本語で書かれているオンライン情報には、編者や著者名の情報がなかったり、広告が含まれていたりすることが少なくないという実態も示された。いずれも東京大学の研究グループによる研究で、それぞれ「Public Health Nutrition」、「JMIR Formative Research」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。2報をあわせて紹介する。
1. 食と健康に関する一般書は適切な根拠を示しているか? 日本と米国の比較
発表のポイント
東京大学大学院医学系研究科の研究グループは、食と健康に関する一般書における引用文献の記載状況を日本と米国とで比較することによって、日本の現状を相対的に把握することを試みた。結果として、日米ともに約3割が引用文献を示していないことがわかり、また日本では引用文献の質や記載の仕方が米国よりも不十分であることがわかった。研究グループでは、「信頼できる栄養情報の普及に向け、日本において情報の提供者(著者、出版社など)、および読者の両方に、引用文献の重要性が認識されるよう働きかける必要性が示唆された」と述べている。
発表概要
日本や米国では、約2~3割の人が一般書から食や健康に関する情報を入手している。信頼できる栄養情報の第一歩として、情報の根拠を提示すること、すなわち、引用文献を明記することは必要不可欠。しかしながら、これまで一般書の引用文献についてはほとんど調べられてこなかった。
そこで、日米各100冊、合計200冊を調査し、引用文献の記載の有無と、引用文献の種類(例:研究論文)、引用文献の書き方などの特徴を明らかにした。日米どちらも約3分2の一般書が引用文献を提示していたが、引用文献の特徴は大きく異なった。
人を対象とした学術研究を引用した一般書は、日本(29冊)では米国(58冊)よりも少なく、100件以上の文献を引用した一般書は、日本5冊、米国37冊だった。さらに、引用文献を提示していた一般書のうち、すべての引用文献が特定可能となるよう十分な書誌情報を記載していたものは日本では64%だったのに対し、米国では97%だった。
本研究により、信頼できる栄養情報の普及に向け、著者、出版社、読者などに引用文献の重要性が認識されるよう働きかける必要性が示唆された。引用文献の提示は根拠に基づいた情報の必要条件であって十分条件ではないため、今後は情報の正確性を調べる研究への発展が期待される。
発表内容
研究の背景
日本や米国では、約2~3割の人が書籍から食や健康に関する情報を入手している。健康に関する情報の質はさまざまな側面から評価されるが、重要な側面の一つとして、根拠に基づいた情報を提供することが挙げられる。根拠となる引用文献を示すことは情報の正確さを必ずしも保証しないものの、信頼できる情報の必要最低限の条件だと言える。
現在まで、インターネットや新聞などに掲載されている健康情報において、引用文献の有無や種類が調べられてきたが、一般書について十分な数のサンプルを集めて実施した研究はなかった。また、先行研究の多くが英語の情報を対象としており、日本語の情報についての研究はほとんどなかった。
そこで本研究では、日本と米国の食と健康に関する一般書において、引用文献の有無や種類および、それらに関連する一般書の特性を調べた。
研究の内容
オンラインブックストア(日本ではAmazonとhonto、米国ではAmazonとBarnes & Noble)の食と栄養に関するカテゴリの売り上げランキングを用いて、各国100冊、合計200冊の一般書を選定した。一般書のすべてのページを確認し、引用文献の有無と個数を調べた。さらに、学術論文を引用しているか、人を対象にした研究のシステマティックレビュー※1を引用しているかなどを確認した。加えて、すべての引用文献の記載方法を確認し、一般書を「すべての引用文献が特定可能なもの」と「特定不可能な引用文献が一つ以上あるもの」に分類した。また、著者が保有する資格(医師、管理栄養士など)を調べた。
結果として、日米どちらも引用文献を提示していた一般書は約3分2(日本66冊、米国65冊)だったが、引用文献の特徴や引用の仕方は大きく異なることがわかった(図1)。米国では58冊が学術論文を引用し、そのすべてが人を対象とした研究を引用していた一方、日本では31冊が学術論文を引用しており、そのうち29冊が人を対象とした研究を引用していた。さらに、人を対象とした研究のシステマティックレビューを引用していた一般書の数には日米で顕著な差があった(日本9冊、米国49冊)。また、100件以上の文献を引用している一般書は、日本(5冊)では米国(37冊)と比較して少ないことが明らかになった。
図1 日本と米国の食と健康に関する一般書100冊において、引用文献のあるものの冊数
文献を引用している一般書の中で、すべての引用文献において特定可能な書誌情報が記載されていたものの割合は、日本では64%であったのに対し、米国では97%だった(図2)。
図2 引用文献のあるものの中で、全引用文献を特定可能な形式で示していたものの割合
日本において、著者が医師免許を持っている一般書は27冊あり、そのうち引用文献があったのは23冊(85%)だったが、人を対象とした研究のシステマティックレビューを引用したのは5冊(19%)のみだった。同様に、日本で著者が管理栄養士免許を持っている一般書は12冊あり、そのうち引用文献があったのは7冊(58%)だったが、人を対象とした研究のシステマティックレビューを引用したものはなかった(0%)。
今後の展望
食と健康に関する一般書において、日本では米国に比べ、十分な質・数の引用文献を特定可能な形で提示するものが少ないことが示唆された。食と健康に関する一般書の著者においては、科学的根拠を理解し、活用できるスキルを身に付けることが望まれる。また、信頼できる栄養情報の普及に向けて、著者・出版社・読者において、引用文献の重要性が認識されるよう働きかける必要があると考えられる。
しかしながら、引用文献の提示は情報の正確さを必ずしも保証しないため、今後は内容の正確性を評価する方法の確立など、健康情報に関する研究のさらなる発展が期待される。
プレスリリース
食と健康に関する一般書は適切な根拠を示しているか?―日本と米国の比較―(東京大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Are popular books about diet and health written based on scientific evidence? A comparison of citations between the USA and Japan」。〔Public Health Nutr. 2023 Dec;26(12):2815-2825〕
原文はこちら(Cambridge University Press)
2. 食事と栄養に関するオンライン情報の特徴 Googleを用いた検討
発表のポイント
東京大学大学院医学系研究科の研究グループは、日本語で書かれた食事と栄養に関するオンライン情報を網羅的かつ系統的に収集・分析した初めての試みを行い、オンライン情報の多くに、編者や著者を明記していない、広告を含んでいる、参考文献がないという問題があることを明らかにした。研究グループでは、「この結果は、食事と栄養に関するオンライン情報をどのように扱っていくべきかを科学的に議論・検討するための基礎資料となることが期待される」と述べている。
発表内容
研究の背景
現在、食事や栄養に関連する情報は、インターネットを含めて、さまざまなメディアを通じて容易に入手できる。残念ながら、この種の情報の信頼性は必ずしも保証されておらず、その結果、一般の人々に広く発信されるべき情報が十分に広まっていなかったり、逆に科学的に信頼できない情報が広く広まっていたりしているという現状がある。しかしながら、このような実態を十分に科学的な方法論を用いて記述した研究は存在しない。
そこで本研究では、日本語で書かれた、食事と栄養に関するオンライン情報を網羅的かつ系統的に収集・分析した。
研究の内容
本横断研究では、まず、Googleトレンドを用いて、日本語で書かれた、食事や栄養に関するオンライン情報(ブログなど)を抽出するため、それらに関連するキーワードを特定した。このプロセスでは、1)638のシードターム(基となる用語)の特定、2)約1,500組の「検索キーワード」と「関連キーワード」(どちらもGoogleトレンド上の呼び名)の特定、3)そのうち上位約10%にあたる160組の「検索キーワード」と「関連キーワード」の特定、4)107の「検索に用いるキーワード」の特定を行った。
その後、Google検索を用いて、関連するオンライン情報を抽出した。その結果、食事や栄養に関するオンライン情報(コンテンツ)が合計1,703個抽出された。
コンテンツのなかで最も多かったテーマは「食べ物・飲み物」(22.9%)だった(図3)。2番目以降は「体重管理」(21.5%)、「健康効果」(15.3%)、「食」(13.8%)だった。
図3 食事と栄養に関するオンライン情報特定のための検索語(外層)とテーマ(内層)
食事や栄養に関するオンライン情報の主な発信源は図4に示すとおり。最も多かったのは「IT企業・マスメディア」(27.8%)で、ついで「食品企業(生産・小売)」(14.5%)、「その他」(13.9%)、「医療機関」(12.6%)の順だった。
図4 食事と栄養に関するオンライン情報の発信源
食事や栄養に関するオンライン情報の特性をみてみると、編者または著者の存在を明示しているコンテンツは半数以下(46.4%)だった(図5)。一方、半数以上(57.7%)のコンテンツにおいて1種類以上の広告が掲載されていた(図6)。また、引用文献があるコンテンツは40.0%にとどまった(図7)。
図5 少なくとも編者、著者のどちらかが明示されているか
図6 広告を含むか
図7 参考文献が少なくとも一つあるか
さらに、コンテンツのテーマや発信源は、編者または著者の存在を明示していることや広告が付随していること、参考文献の有無という各特性と統計学的に有意に関連していた。とくに、体重管理をテーマとしたコンテンツは、編者や著者の存在の明示(57.9%)、広告の付随(74.6%)が多い一方で、参考文献の引用(35.0%)は少ないという結果だった。また、医療機関からのコンテンツは、引用文献が少ない傾向にあった(29.0%)。
今後の展望
本研究は、日本語で書かれたオンラインの食事・栄養関連情報におけるオーサーシップ、利益相反(広告)、科学的信頼性に関して懸念を抱かせるものであるといえる。今後の課題としては、できるだけ多くのテーマでオンラインコンテンツの精度や質を調べるとともに、今回の知見が他の主要なマスメディアやソーシャルメディアを通じて得られる食事・栄養関連情報や、他言語の情報にも同様にあてはまるかどうかを検証する必要がある。いずれにしても本研究は、食事と栄養に関するオンライン情報をどのように扱っていくべきかを科学的に議論・検討するための基礎資料となることが期待される。
プレスリリース
食事と栄養に関するオンライン情報の特徴―GoogleトレンドとGoogle検索をもとにした系統的抽出―(東京大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Web-Based Content on Diet and Nutrition Written in Japanese: Infodemiology Study Based on Google Trends and Google Search」。〔JMIR Form Res. 2023 Nov 16:7:e47101〕
原文はこちら(JMIR Publications)