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ロンドンマラソン出場者の完走タイムが睡眠の質と有意に関連 2016年大会の遡及的研究

ロンドンマラソン参加者の完走記録を、睡眠時間や入眠潜時、就床前の電子機器の利用状況など、睡眠関連パラメーターとの相関を検討した研究結果が報告された。年齢や性別の影響を調整後にも、それらのパラメーターの一部が完走タイムと有意に相関していたという。

ロンドンマラソン出場者の完走タイムが睡眠の質と有意に関連 2016年大会の遡及的研究

アスリートの睡眠の重要性を示すエビデンス

マラソンの人気は過去数十年で世界的に高まっている。一例を挙げると、1974年のベルリンマラソンの参加者は244人に過ぎなかったが、2018年には4万641人に上ったという。

アスリートにとって、時間と質の十分な睡眠がパフォーマンス発揮に重要であることが知られており、マラソンランナーでも同様と考えられるが、その重要性を具体的に示した報告はそれほど多くない。そこで今回紹介する論文の著者らは、2016年のロンドンマラソン大会の参加者データを用いて、遡及的な解析を行った。

ロンドンマラソン大会参加者の睡眠習慣と走行記録との関連を分析

同大会参加者全体(3万9,523人)の2.41%が研究参加に同意。完走者3万9,091人に占める割合は2.43%で951人だった。年齢層により、若年群(18~39歳)、中年群(40~64歳)、高齢群(65歳)に分類すると、高齢群はサンプル数が少なく、また睡眠習慣や走行記録などが非高齢層と大きく異なると予測されたことから、解析対象から除外。

最終的に、レースを完走した943人(若年群66.5%、中年群33.5%)を解析対象とした。これはレース参加者の2.39%、レース完走者の2.41%に相当する。

睡眠に関連する調査項目

睡眠に関連するパラメーターとして、アスリート睡眠スクリーニング質問票(Athlete Sleep Screening Questionnaire;ASSQ)を用いた評価を行った。ASSQは、6種類の主要な指標(睡眠の質、総睡眠時間、睡眠障害の症状など)を評価するもので、16項目からなるアンケート。

このASSQのほかに、カフェインやアルコールの摂取習慣、就床前の電子機器の使用習慣、睡眠習慣追跡デバイス(睡眠トラッカー)使用の有無などを把握した。また、パフォーマンスとの関連の解析のための変数の一つとして、同年齢ランナーの標準的な記録より優れているか劣っているか(good for age〈GFA〉以上か以下か)を評価した。

解析対象者の主な特徴

解析対象者は、男性が64.5%、完走記録は251±53.3分、GFAより良好なランナーは21.4%。ASSQの下位尺度である睡眠困難のスコア(sleep difficulty score;SDS)から、睡眠困難なしが35.6%、軽度の睡眠困難が40.8%、中等度が18.1%、重度が5.41%と判定された。

睡眠時間は6~7時間が最も多く40.2%を占め、次いで7~8時間が33.0%、5~6時間が17.9%。入眠潜時(就床から睡眠までに要する時間)は半数以上(53.9%)が15分以内で、16~30分が32.2%。睡眠薬の使用は「なし」が94.3%、就床前1時間以内の電子機器の利用は「毎日」が58.0%、週に4~6回が19.9%。

複数の睡眠関連指標が完走記録と有意に相関

睡眠困難の頻度が高いランナーは記録が悪い

解析では、まず全体を属性や評価指標によって二分して比較するという検討が行われている。性別で比較した場合、女性は男性より睡眠薬の利用率が高いという有意差があった。年齢層での比較では、中年者は睡眠困難スコア(SDS)が高くて睡眠時間が長いほかに、入眠潜時が長くて睡眠に対する満足度が低く、睡眠に関する問題を多く抱えているという有意差があった。

また、パフォーマンス(GFA以上か以下か)で二分して比較すると、GFAより遅い(記録の良くない)ランナーは週あたりの睡眠困難の日数が有意に多かった。これらのほか、睡眠トロッカーを使用している人は睡眠満足度が低いこと、カフェインを常習的に摂取している人は睡眠時間が短いこと、就床1時間前以内に電子機器を利用する人は入眠潜時が長いことなどの点で、有意差が認められた。

なお、アルコール摂取習慣で二分した比較からは、睡眠関連パラメーターの有意な違いは観察されなかった。

就床前に電子デバイスを使っていて入眠潜時が長いランナーは、記録が不良

次に、把握したそれぞれのパラメーターと完走記録との相関が検討された。

粗モデルでは、入眠潜時の長さと、就床1時間前以内の電子機器の利用頻度の高さが、完走タイムが長いことと関連していた。反対に、カフェインおよびアルコールの摂取頻度の高さは、完走タイムが短いことと関連していた。

ただし、年齢と性別を調整したモデルでは、カフェインおよびアルコールの摂取頻度と完走タイムとの関連は非有意となった。それに対して、入眠潜時の長さ(β=6.86、p=0.004)、および、就床1時間前以内の電子機器の利用頻度の高さ(β=5.20、p=0.03)は、引き続き有意性が保たれていた。

睡眠習慣に過剰な関心を抱くオルソソムニアは、睡眠に悪影響?

以上のまとめとして結論は、「中年成人のマラソンランナーは、若年成人ランナーと比較して睡眠に関する健康状態が悪いことが示された。しかし、若年ランナーは入眠潜時が長く、これは部分的に、就床1時間前以内の電子機器の使用頻度が高いことで説明されるのではないか。就床前の電子機器の使用と入眠潜時の延長が、マラソン完走時間の長期化(記録低下)の予測因子である可能性が想定される」と述べられている。

なお、睡眠習慣の自己管理に用いられる睡眠トラッカーを使用しているランナーで睡眠満足度が低いという結果に関連して、「睡眠トラッカー使用者の中には、自身の睡眠についての関心が過剰になるオルソソムニア(orthosomnia)を来しているランナーが存在しているのではないか」との考察が述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Sleep Health, Individual Characteristics, Lifestyle Factors, and Marathon Completion Time in Marathon Runners: A Retrospective Investigation of the 2016 London Marathon」。〔Brain Sci. 2023 Sep 20;13(9):1346〕
原文はこちら(MDPI)

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