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厚労省が「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」策定 推奨事項は個人差を考慮

厚生労働省はこのほど、「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」を策定した。これは、「健康づくりのための身体活動基準2013」の改訂版にあたる。当協会の鈴木志保子 理事長も改訂作業に参画し、主に「身体活動とエネルギー・栄養素について」の章をまとめた。

厚労省が「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」策定 推奨事項は個人差を考慮

「基準」から「ガイド」へ変更

わが国における身体活動・運動分野のガイドラインは、平成元年(1989年)に「健康づくりのための運動所要量」が策定されたのが始まりで、次いで平成5年(1993年)に「健康づくりのための運動指針」、平成18年(2006年)に「健康づくりのための運動基準2006」および「健康づくりのための運動指針2006(エクササイズガイド2006)」が策定された。さらに平成25年(2013年)には、「21世紀における第二次国民健康づくり運動(健康日本21〈第二次〉)」の開始に伴い、「健康づくりのための身体活動基準2013」および「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」が策定されている。

「健康づくりのための身体活動基準2013」の策定から10年が経過した。この間に、身体活動・運動に関する新たな科学的知見が蓄積される一方、「健康日本21(第二次)」の最終評価において、身体活動・運動分野の指標である「日常生活における歩数」、「運動習慣者の割合」のいずれについても、横ばいまたは減少傾向であった。これらを背景として、「健康づくりのための身体活動基準2013」の見直しが行われ、新たに「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」が策定された。

一般国民向け「アクティブガイド」の改訂は現在検討中

本ガイドの対象は、「健康日本21(第三次)」における身体活動・運動分野の取組を推進するため、健康づくりにかかわる専門家(健康運動指導士、保健師、管理栄養士、医師等)、政策立案者(健康増進部門、まちづくり部門等)、職場管理者、その他健康・医療・介護分野における身体活動を支援する関係者。成人、子ども、高齢者という指導・啓発や介入の対象者別に、身体活動と運動の推奨事項、および身体活動・運動に関連のある参考情報についてまとめられている。また、ツールとしての使いやすさも考慮されている。

なお、改訂に伴い、名称が「基準」から「ガイド」に変更されたのは、「基準」という表現は全国民が等しく取り組むべき事項であるという誤解を与える可能性などを考慮したことによるもの。また、一般国民の身体活動・運動の普及啓発を目的とした「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」の改訂については、現在検討中とのことだ。

言葉の定義

新たに策定された「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、身体活動や運動などの用語を以下のように定義している。

図 身体活動(生活活動・運動・座位行動)の概念図

身体活動(生活活動・運動・座位行動)の概念図

(出典:厚生労働省)

身体活動

安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する、骨格筋の収縮を伴う全ての活動

生活活動

身体活動の一部で、日常生活における家事・労働・通勤・通学などに伴う活動

運動

身体活動の一部で、スポーツやフィットネスなどの、健康・体力の維持・増進を目的として、計画的・定期的に実施する活動

座位行動

座位や臥位の状態で行われる、エネルギー消費が1.5メッツ以下の全ての覚醒中の行動(例えば、デスクワークをすることや、座ったり寝ころんだ状態でテレビやスマートフォンを見ること)

推奨事項

本ガイドでは、ライフステージ(成人、子ども、高齢者)ごとに身体活動・運動に関する推奨事項をまとめるとともに、身体活動・運動を取り組むに当たっての参考情報をテーマごとにまとめている。また、新たに座位行動という概念をとり入れ、立位困難な人に対しても、じっとしている時間が長くなりすぎないように少しでも身体を動かすことを推奨している。

なお、以下の推奨事項について、「推奨事項は科学的根拠となる多くの学術論文や日本人の現状値等を考慮して設定したものであるが、実際に取り組むに当たっては、個人差(健康状態、体力レベルや身体機能等)を踏まえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組むことが必要である」と付記されている。

図 身体活動・運動の推奨事項一覧

身体活動・運動の推奨事項一覧

※1:生活習慣、生活様式、環境要因等の影響により、身体の状況等の個人差が大きいことから、「高齢者」「成人」「子ども」について特定の年齢で区切ることは適当でなく、個人の状況に応じて取組を行うことが重要であると考えられる。
※2:負荷をかけて筋力を向上させるための運動。筋トレマシンやダンベルなどを使用するウエイトトレーニングだけでなく、自重で行う腕立て伏せやスクワットなどの運動も含まれる。
※3:テレビやDVDを観ることや、テレビゲーム、スマートフォンの利用など、スクリーンの前で過ごす時間のこと。
(出典:厚生労働省)

対象者別の推奨

成人

  • 個人差を踏まえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組む。今よりも少しでも多く身体を動かす。
  • 強度が3メッツ以上の身体活動を週23メッツ・時以上行うことを推奨する。具体的には、歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日60分以上行うことを推奨する(1日約8,000歩以上に相当)。
  • 強度が3メッツ以上の運動を週4メッツ・時以上行うことを推奨する。具体的には、息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上行うことを推奨する。
  • 筋力トレーニングを週2~3日行うことを推奨する(週4メッツ・時の運動に含めてもよい)。
  • 座位行動(座りっぱなし)の時間が長くなりすぎないように注意する(立位困難な人も、じっとしている時間が長くなりすぎないよう、少しでも身体を動かす)。

子ども

  • 身体を動かす時間が少ない子どもには、何らかの身体活動を少しでも行うことを推奨する。
    (参考)WHO「身体活動及び座位行動に関するガイドライン(2020年)」では、次のようなことが推奨されている。
    • - 子どもは、中強度以上(3メッツ以上)の身体活動(主に有酸素性身体活動)を1日60分以上行う。
    • - 高強度の有酸素性身体活動や筋肉・骨を強化する身体活動を週3日以上行う。
    • - 座りっぱなしの時間、特にスクリーンタイム(テレビ視聴やゲーム、スマートフォンの利用など)を減らす。
  • 激しすぎる運動やオーバーユース(使いすぎ)に注意する。

高齢者

  • 個人差を踏まえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組む。今よりも少しでも多く身体を動かす。
  • 強度が3メッツ以上の身体活動を週15メッツ・時以上行うことを推奨する。具体的には、歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日40分以上行うことを推奨する(1日約6,000歩以上に相当)。
    • - 上記の強度、推奨値に満たなくとも、少しでも身体活動を行うことを推奨する。
    • - 体力のある高齢者では成人と同量(週23メッツ・時以上)の身体活動を行うことで、さらなる健康増進効果が期待できる。
  • 筋力・バランス・柔軟性など多要素な運動を週3日以上行うことを推奨する。
  • 筋力トレーニングを週2~3日行うことを推奨する(多要素な運動に含めてもよい)。
  • 特に身体機能が低下している高齢者については、安全に配慮し、転倒等に注意する。
  • 座位行動(座りっぱなし)の時間が長くなりすぎないように注意する(立位困難な人も、じっとしている時間が長くなりすぎないよう、少しでも身体を動かす)。

身体活動・運動に関する参考情報

本ガイドでは上記の推奨事項に加えて、「身体活動・運動に関する参考情報」という大項目が設けられている。その中で、「筋力トレーニングについて」、「働く人が職場で活動的に過ごすためのポイント」、「慢性疾患を有する人の身体活動のポイント」、「身体活動・運動を安全に行うためのポイント」、「身体活動による疾患等の発症予防・改善のメカニズム」、「全身持久力について」、「身体活動支援環境について」、「身体活動とエネルギー・栄養素について」という解説がなされている。

これらのうち、「身体活動とエネルギー・栄養素について」は当協会の鈴木志保子 理事長が中心となってまとめた。この項目についてやや詳しく紹介する。

身体活動とエネルギー・栄養素について

「身体活動とエネルギー・栄養素について」の章では、まず以下の三つのポイントが示されている。

  • 健康の保持・増進のためには、身体活動量に応じて、エネルギー収支バランスを適切に保ち、必要な栄養素を過不足なく摂取することが基本となる。
  • 総タンパク質摂取量が多いほど筋肉量が直線的に増えるものではないため、身体活動量に応じて、タンパク質を摂取することが重要である。
  • 体脂肪1kgを減らすために必要なエネルギー量は約7,000kcalであり、肥満の方の場合は、身体活動による消費と食事で摂取するエネルギー量を調整することで、計画的に減量を図ることが必要である。

このポイントに引き続き詳細な解説が加えられている。例えば、日常生活における身体活動を「低い」、「普通」、「高い」という三つにざっくりと分類し、年齢別におよそのタンパク質の摂取推奨量を示すなど、実用的な内容で構成されている。

また、スポーツ栄養に関連のある記載をピックアップすると、以下のような情報が紹介されている。

身体活動と栄養について

「国際オリンピック委員会(IOC)は、トップアスリートのように激しい運動をしている者は、相対的エネルギー不足により健康とパフォーマンスに悪影響を及ぼすことを指摘しています。身体活動量が多くなり、エネルギー不足になった場合、アスリートに限らず同様な症状が起こる可能性があるため、身体活動量とエネルギー・栄養素の必要量を確認することが大切です。」

身体活動とタンパク質の摂取

「タンパク質摂取量と筋肉量増加の間の用量反応関係に関する系統的レビューによると、日々の総タンパク質摂取量と筋量増加との間には、正の用量反応関係が示されました。毎日の総タンパク質摂取量が体重1kg当たり0.1g/日増加すると、2~3ヶ月で筋量0.39kgの増加が期待できます。一方、1日の体重当たりの総タンパク質摂取量が体重1kg当たり1.3g/日を超えると、筋量増加の効率が悪くなり、総タンパク質摂取量と筋量の変化の間は直線的とまでは言えず、総タンパク質摂取量が多ければ多いほど筋肉量が増える訳ではありません。また、必要な量以上に摂取することは腎機能を始めとする健康障害のリスクが高くなる可能性があるため、身体活動量に応じて、タンパク質を摂取することが重要です。」

今後のさらなるエビデンスの蓄積が望まれる

本ガイドは、令和5年時点の科学的知見に基づき作成したもの。ガイドの「おわりに」には、以下のような限界点が述べられている。

「ガイド策定時点で科学的知見が不十分であったことから、妊産婦や障害のある人などを対象とした推奨事項は示されていない。また、座位行動を中断することの健康への影響については、『さらなる科学的知見の蓄積が必要』であり、筋力トレーニングについても推奨内容は『週2~3日』という頻度を推奨するにとどまっており、今後の知見の蓄積が必要とされる。」

関連情報

厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」が公開されました。

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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