ノンアルコール飲料の活用で飲酒量が継続的に減少 筑波大学が世界初の実証
ノンアルコール飲料の提供によって飲酒量が有意に減少し、その効果は提供終了後8週間後も持続していることが、初めて明らかにされ。筑波大学の研究グループによる研究の結果であり、「BMC Medicine」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。この飲酒量減少効果には、ノンアルコール飲料によるアルコール飲料の「置き換わり」がかかわっている可能性が示唆されるという。
研究の概要:ノンアル飲料で飲酒量は減るのか?
過剰なアルコール摂取は世界的な課題の一つで、国連の持続可能な達成目標(sustainable development goals;SDGs)にも含まれている。過剰なアルコール摂取を減らすための対策として、アルコールテイスト飲料、いわゆるノンアルコール飲料の利用が挙げられるが、ノンアルコール飲料の提供が及ぼす飲酒量への影響についての研究データはこれまでなかった。
今回の研究では、アルコール依存症の患者などを除いた20歳以上の成人123人を、介入群と対照群に二分し、介入群にはノンアルコール飲料を12週間提供した。その結果、介入群では対照群と比較して、飲酒量の低減が有意に大きく、その効果が提供8週間後も持続していることがわかった。介入12週目時点における介入群の飲酒量は、介入前と比較して1日あたり純アルコール換算で平均11.5g減少していた。また、介入群のノンアルコール飲料摂取量の増加と飲酒量の減少とに相関がみられ、ノンアルコール飲料がアルコール飲料に置き換わって摂取された可能性が考えられた。
この結果から、過剰なアルコール摂取を減らすための対策としてノンアルコール飲料が有用であり、ノンアルコール飲料が減酒のきっかけになる可能性が明らかになった。アルコール摂取を減らすための有効性が科学的に検証された方法が明らかになることで、過剰なアルコール摂取をしている個人への介入、政策立案などを通した社会貢献につながると期待される。
研究の背景:SDGsにも取り上げられているアルコール摂取対策
過剰なアルコール摂取は世界的な公衆衛生上の問題。世界保健機関(WHO)をはじめとするいくつかの報告では、過度の飲酒はアルコール依存症などの健康問題を引き起こすだけでなく、家庭内暴力や飲酒運転による交通事故など、他の深刻な問題にもつながることが指摘されており、また、国連が掲げるSDGsの17カテゴリーのうちの14カテゴリーに関連している。
日本では、男性で40g/日以上、女性で20g/日以上の純アルコール摂取量(以下、飲酒量)を、生活習慣病のリスクを高める飲酒量と定義している。2019年には、2010年と比較して、この量を飲酒する人の割合は、男性では増減がなく、女性では有意に増加したと報告されている。厚生労働省による「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」※1の重要な目標の一つは、生活習慣病のリスクを高める量の飲酒者を減らすことであり、その達成のためには、さらなる対策が必要。
これまで世界で議論されてきた対策の一つに、アルコールテイスト飲料、いわゆるノンアルコール飲料※2の利用がある。これらはアルコール飲料の代替品として使われることが多いとされるが、ノンアルコール飲料が飲酒量にどのような影響を与えるのかに関する研究データは、これまでなかった。
研究内容と成果:ノンアル提供群では提供終了後にも飲酒量が有意に減少
本研究では、アルコール依存症の患者、妊娠中や授乳中の人、過去に肝臓の病気と言われた人を除いた20歳以上で、週に4回以上飲酒し、その日の飲酒量が男性で純アルコール40g以上、女性で同20g以上、ノンアルコール飲料の使用が月1回以下の参加者を募集し、123名(女性69名、男性54名)の参加者を得た。参加者の年齢分布は22~72歳までで、平均年齢は47.5歳だった。
参加者は、ノンアルコール飲料を提供する介入群と対照群の2群に無作為に分けられた。介入群には12週間にわたって4週間に1回(計3回)、ノンアルコール飲料を無料で提供した。両群とも、アルコール飲料の入手および飲酒に関しては、とくに制限をすることはなく、自由に日々を過ごすよう指示。介入から20週間の間、毎日、アルコール飲料とノンアルコール飲料の摂取量を記録してもらった(図1)。
図1 本研究の概要
介入開始前からの飲酒量は、介入開始4週目の時点で、介入群が対照群よりも低値を示し、第12週時点での1日量でみると、対照群では飲酒量は平均2.7g減少した一方、介入群では平均11.5g減少するとともに(図2A)、ノンアルコール飲料は1日平均314.3mL摂取されていた(図2B)。
図2 ノンアルコール飲料摂取量と飲酒量(純アルコール摂取量)の変化量
12週目のノンアルコール飲料摂取量と飲酒量の介入前からの変化量の関係についてスピアマン順位相関係数※3を算出したところ、介入群にのみ有意な負の相関関係が認められたことから(ρ=-0.500、p<0.001)、介入群ではアルコール飲料がノンアルコール飲料に置き換えられて摂取された可能性が考えられた(図3)。
図3 介入12週目におけるノンアルコール飲料と飲酒量の介入前からの変化量の関係
今後の展開
ノンアルコール飲料が減酒のきっかけになる可能性があること、すなわち、アルコール摂取を減らすための有効性が科学的に検証された方法が明らかになることで、過剰なアルコール摂取をされている個人への介入や、政策立案などを通して地域社会への介入が可能になると期待される。
研究グループでは、「今後は、ノンアルコール飲料のアルコール摂取量低減に対する利用効果を高める方略について検討するとともに、ノンアルコール飲料摂取がどんな集団により効果的なのか、どれくらい効果が持続するのかを追加検証していく予定。また、今回対象に含まれなかった20歳未満の人やアルコール依存症の人への影響についても考慮する必要がある」としている。
プレスリリース
ノンアルコール飲料の提供で飲酒量が減少することを世界で初めて実証(筑波大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Effect of provision of non-alcoholic beverages on alcohol consumption: a randomized controlled study」。〔BMC Med. 2023 Oct 2;21(1):379〕
原文はこちら(Springer Nature)