ニンジン摂取量が多いほど、がん罹患リスクが低い α-カロテンとの関連も強固
ニンジンの摂取量とがん罹患リスクとの間には負の相関があり、その相関は一貫していて強固なものであるとする論文が発表された。英国の研究者らによるシステマティックレビューとメタ解析の報告。ニンジンに含まれているカロテノイドであるα-カロテンの摂取量も、がんリスクとの間に有意な負の相関が認められたという。
ニンジン・α-カロテン摂取量および血漿α-カロテン濃度と発がんリスクの関連を探る研究
野菜や果物の摂取量が多さががんリスクの低さと関連のあることが示唆されている。とは言え、野菜や果物全体の摂取量とがんリスクとの関連はかなり弱い。ただし、多くの野菜類の中でニンジンは抗酸化作用のある成分が多く、それらの成分の一部はin vitroまたは動物実験で抗がん作用が示されており、他の野菜類よりも摂取量とがんリスクの低さとの関連が強い可能性がある。その一方、ニンジンに豊富に含まれているβ-カロテンは、がんリスクに関係がないことが報告されている。他方、ニンジンにはα-カロテンも豊富に含まれているが、β-カロテンとα-カロテンの違いを発がんリスクとの関連で検討した研究は多くない。
以上を背景として今回取り上げる論文の著者らは、ニンジンの摂取量やα-カロテンの摂取量、およびα-カロテンの血漿中濃度と発がんリスクとの関係性を、システマティックレビューとメタ解析により検討した。
198件の研究報告を解析対象として抽出
PubMed、Cochrane Library、Web of Science、Scopusなどの文献データベースを用いて、それらのデータベースのスタートから2022年6月9日までに収載された、ヒトを対象に行われた研究報告を検索した。なお、この作業は、システマティックレビューとメタ解析の優先報告項目(PRISMA)ガイドラインに即して行われた。
検索でヒットした3万4,581報を2名の研究者がタイトルと要約に基づくスクリーニングを行い636報に絞り込み、全文精査を実施。採否の意見の不一致は3人目の研究者との討議により解決した。最終的に、198件の研究報告を解析対象とした。
抽出された研究は、前向き研究が80件、後ろ向き研究が118件であり、合計で13万8,917人のがん症例を含む470万7,643人が研究対象とされていた。
80件の前向き研究のうち50件はニンジンまたはα-カロテンの摂取量と発がんリスクとの関連を検討し、30件は血漿α-カロテンレベルとの関連を検討していた。153件の後ろ向き研究のうち105件はニンジンまたはα-カロテンの摂取量と発がんリスクとの関連を検討し、13件は血漿α-カロテンレベルとの関連を検討していた。なお、ニンジンやα-カロテンの摂取量は、食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)で把握されていた。
前向き研究50件のニンジンまたはα-カロテンの摂取量と発がんリスク
ニンジンまたはα-カロテンの摂取量と発がんリスクとの関連を前向きに検討した研究50件のうち9件は、それらの摂取量が多いことと発がんリスクの低さとの有意な関連を報告し、その逆の関連を報告した研究はなかった。メタ解析から、相対リスク(RR)は0.90(95%CI;0.87~0.94)と、有意な関連が示された。
検討されたがんの部位別のサブグループ解析では、乳がん(研究数11件)と肺がん(同10件)は関連が有意、大腸がん(2件)、前立腺がん(6件)は関連が非有意だった。ただし交互作用は非有意だった。報告別のサブグループ解析では、欧州(12件)および米国(30件)からの報告は関連が有意、アジア(5件)およびその他の地域(3件)からの報告は非有意だった。しかし交互作用はやはり非有意だった。
ニンジンの摂取量との関連を検討した研究(15件)と、α-カロテンの摂取量との関連を検討した研究(35件)の二つに分けたサブグループ解析では、前者がRR0.90(95%CI;0.84~0.97)、後者がRR0.90(同0.86~0.96)であり、いずれも摂取量の多いことが発がんリスクの低さと有意に関連しており、交互作用は非有意だった。
前向き研究30件の血漿α-カロテン濃度と発がんリスク
血漿α-カロテンレベルと発がんリスクとの関連を前向きに検討した研究30件のうち5件は、α-カロテンレベルが高いことと発がんリスクの低さとの有意な関連を報告し、その逆の関連を報告した研究はなかった。メタ解析の結果はRR0.80(0.72~0.89)と、有意な関連が示された。
検討されたがんの部位別のサブグループ解析では、乳がん(11件)は関連が有意、大腸がん(2件)と肺がん(7件)、前立腺がん(4件)は関連が非有意だった。ただし交互作用は非有意だった。報告別のサブグループ解析では、米国(18件)からの報告は関連が有意、欧州(5件)およびアジア(7件)からの報告は非有意だった(その他の地域は報告なし)。しかし交互作用はやはり非有意だった。
用量反応関係
ニンジンまたはα-カロテンの摂取量と発がんリスクとの関連を前向きに検討した研究50件のデータに基づき、摂取量と発がんリスクとの用量反応関係を検討すると、摂取量が多いほど相対リスクが低下する傾向が認められた。具体的には、前述のように全体解析のRRは0.90であったものが、摂取量75パーセンタイルではRR0.94(0.91~0.97)、50パーセンタイルではRR0.97(0.95~0.98)、25パーセンタイルではRR0.98(0.97~0.99)だった。
同様に、血漿α-カロテンレベルと発がんリスクとの関連を前向きに検討した研究30件のデータに基づき、血漿レベルと発がんリスクとの用量反応関係を検討すると、血漿レベルが高いほど相対リスクが低下する傾向が認められた。具体的には、前述のように全体解析のRRは0.80であったものが、血漿レベル75パーセンタイルではRR0.87(0.79~0.97)、50パーセンタイルではRR0.93(0.88~0.99)、25パーセンタイルではRR0.97(0.95~1.00)だった。
後ろ向き研究でのメタ解析
以上、ここまでは前向き研究のメタ解析の結果だが、システマティックレビューで抽出された後ろ向き研究を対象に行われたメタ解析の結果も論文中には示されている。
ニンジンまたはα-カロテンの摂取量と発がんリスクとの関連を後ろ向きに検討した105件の研究のメタ解析ではRR0.67(0.63~0.72)、血漿α-カロテンレベルと発がんリスクとの関連を後ろ向きに検討した13件の研究のメタ解析ではRR0.61(0.45~0.83)であり、いずれも前向き研究に比較してより低い相対リスクが示されている。
ポリアセチレンやイソクマリンも発がんリスク抑制に関与?
これら一連の結果を基に、論文の結論は、「ニンジンの摂取はがんリスクの低さと強く関連している。ニンジン摂取を奨励するとともに、その因果関係をさらに研究する必要があるだろう」とまとめられている。また、ニンジン摂取と発がんリスクの低さとの関連のメカニズムについては、抗酸化物質であるポリアセチレンやイソクマリンの作用も関与しているのではないかとの考察が加えられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Carrot intake is consistently negatively associated with cancer incidence: A systematic review and meta-analysis of prospective observational studies」。〔Crit Rev Food Sci Nutr. 2023 Dec 17:1-13〕
原文はこちら(Informa UK)