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高齢者の自宅での運動や食事への介入でサルコペニアをどこまで防げるのか スコーピングレビュー

人口の高齢化を背景として、健康寿命延伸が多くの国で公衆衛生上の課題となる中、高齢者が大半の時間を過ごしていると考えられる自宅での運動と食事・栄養に介入することで、筋量や筋力、筋機能にどのような変化を期待できるのかという疑問について、スコーピングレビューとして総括した論文が米国の研究者により報告された。このトピックは、急速に少子高齢化が進む我が国にも重要な点と言える。要旨を紹介する。

高齢者の自宅での運動や食事への介入でサルコペニアをどこまで防げるのか スコーピングレビュー

自宅での運動や食事でサルコペニアをどこまで防げる?

世界の高齢者人口は、2050年までに現在の10億人から21億人に倍増すると予想されている。筋量や筋力は一般的に40歳ぐらいまでは増加する可能性があり、60歳ぐらいまでは横ばいで推移し、その後は年に数パーセントの速度で減少するとされている。骨格筋量の減少は脂肪量の増加を伴いやすく、身体機能に悪影響が及ぶ。

筋量、筋力、筋機能の低下が加速度的となり全身性の疾患や障害のリスクが高くなった状態はサルコペニアと呼ばれ、高齢者の筋骨格系疾患・障害として最も多く認められるものの一つ。サルコペニアは転倒・骨折リスクの増大、その結果としてのQOL低下、要介護リスク上昇、死亡リスク上昇へとつながる。

サルコペニアの予防や改善には、二つの重要な介入方法がある。一つは運動であり、もう一つは栄養だ。運動後の筋タンパク質の異化を防ぎ、合成(muscle protein synthesis;MPS)を増大させるために、タンパク質を含むバランスが良く十分な食事摂取が推奨される。ただし、施設居住者ではなく自宅に居住している高齢者に対する運動介入や栄養介入の手法、有効性などはまだ知見が少ない。

13件の研究報告に基づくレビュー

このスコーピングレビューは、スコーピングレビューのためのガイドラインであるPRISMA拡張版(PRISMA-ScR)に則り、 PubMed、Scopus、MEDLINE、CINAHL、EMBASE、コクランライブラリーに2000年以降に収載された論文を対象として、2022年8月6日に検索が実施された。主な包括基準は、65歳以上の高齢者を対象に自宅での身体活動と栄養介入の筋肉に関連する指標への影響を検討し、学術ジャーナルに掲載された英語で執筆されている論文。

一次検索で1,125報がヒットし、重複削除後の784報を全文精査して13報が適格と判断された。それらの研究は1件が前向き研究で、その他は無作為化比較試験だった。また、1件を除いてすべて過去5年以内に発表されており、このトピックが近年になり注目されていることが示唆されるかたちとなった。

大半の研究が高所得国または上位中所得国で実施されたもので、日本からの報告が5件を占めていた。研究参加者数は23~319人の範囲で、13件中9件は高齢女性のみを対象とし、全体として女性が64%、男性が36%だった。研究期間は4週間から6カ月の範囲だった。

運動介入

介入に用いられた運動プログラムは研究間の差が大きかった。運動の種類は大半が筋力トレーニング、または筋力トレーニングを含む複数のコンポーネントからなるプログラムであり、1件は有酸素運動のみだった。

筋力トレーニングは筋肉量と筋力に対してより効果的であり、一方、複数のコンポーネントのプログラムは筋肉機能に対してより効果的な傾向が認められた。多くの研究で(13件中9件)、研究参加者に対して加速度計やトレーニングバンド、ウォーキング用スティックが支給していた。また、運動のやり方などの資料を渡した研究も多かった。

トレーニングバンドと資料を支給した研究では、筋量と筋力の増加が示されていた。トレーニングバンド以外では筋量が増加または不変という結果だった。

栄養介入

栄養介入には、栄養指導/カウンセリング、サプリメント摂取などが行われていた。6件の研究はサプリメントまたは食品のみを支給、3件は栄養教育のみを提供、その他はサプリや食品の支給と何らかの手法による情報提供/指導が行われていた。栄養指導で一般的な情報が提供され、カウンセリング形式の場合には個別の推奨事項が提供されていた。

サプリを用いた介入の場合、その種類、摂取量、タイミング、摂取頻度に関しては、研究ごとにばらつきがみられたが、成分についてはタンパク質、アミノ酸が多く、その他に多栄養素サプリが用いられていた。多栄養素サプリ、または食品とサプリの組み合わせを支給していた研究では、タンパク質やアミノ酸サプリのみを支給していた研究に比べて、有用性が高い傾向にあった。

筋肉に対する評価指標

筋量

筋量の評価には、生体インピーダンス法(BIA)、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)、またCTなどが用いられ、指標としては、除脂肪量、骨格筋量(SMM)指数、四肢骨格筋量(ASM)指数などが設定されていた。介入によりSMMまたはASMが向上したとする研究が2報存在した一方、他の研究は骨格筋量の有意な増加を報告していなかった。著者によるとその理由は、不十分なタンパク質摂取、運動介入のタイプ、および測定デバイスの精度上の問題が考えられるという。

筋力

3件の研究で介入により筋力が向上したと報告していた。それら3件の研究はすべて、参加者に運動や栄養介入を支援する目的で機器を支給した研究であったことから、機器が家庭内にあることが筋力強化に役立つ可能性が示された。

筋機能

筋機能の評価はさまざまな手法が取られていた。例えば、歩行速度、簡易身体機能バッテリー(short physical performance battery;SPPB)、タイムアップアンドゴー(TUG)テスト、階段昇降、2分間のステップなどだった。

2件の研究では対照と比較して、介入によって評価したすべての筋機能が改善したことを報告していた。それらの研究の類似点は、筋力に焦点を当てた運動介入と栄養教育を行っていたことだった。その他の多くの研究は、評価した指標の一部には改善が認められるという結果だった。3件の研究は、評価した指標のすべてに有意な改善が認められなかった。それらの研究に共通する因子は特定されず、介入効果が認められなかった理由の考察は困難とのことだ。

著者らは明らかになったポイントを以下のように総括している。

抽出された13件の介入研究のうち1件を除いてすべてが過去5年以内に発表されたものであり、この領域の新規性が際立っている。報告された結果は研究によりまちまちであったが、サルコペニアの予防戦略としての可能性を強調するものと言える。筋力トレーニングは筋力と筋量をより効果的に強化し、複数のコンポーネントを組み合わせたプログラムは筋機能に対してより効果的のようだ。

レジスタンスバンドなどを自宅で使用できる環境を整えて、資料や食事日記とともに提供すると、筋肉への効果が高まる。また、より長く個別化されたプログラムは、短い一般的な運動介入よりも効果的だった。栄養介入については、プロテインやアミノ酸のサプリメントを単独で摂取するよりも、栄養教育と食品/サプリの組み合わせとして提供することで、筋肉への効果が見られた。

このレビューは、高齢者のサルコペニア予防・改善のための自宅での介入という近年、注目されるようになったトピックにおける現在の知識のギャップを示し、介入手段を構築していくための出発点となるのではないか。

文献情報

原題のタイトルは、「Effectiveness of Home-Based Exercise and Nutrition Programs for Senior Adults on Muscle Outcomes: A Scoping Review」。〔Clin Interv Aging. 2023 Jul 11:18:1067-1091〕
原文はこちら(Dove Press)

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