スポーツ栄養WEB 栄養で元気になる!

SNDJ志保子塾2024 ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー
一般社団法人日本スポーツ栄養協会 SNDJ公式情報サイト
ニュース・トピックス

多くの脊椎動物はヒトより多様な旨味・甘味を味わっている? 味覚の起源を探る共同研究

2024年01月17日

従来は3種類しかないと考えられていた、旨味と甘味を感知する受容体を構成する遺伝子が、脊椎動物全体で11種類も存在することが報告された。近畿大学、明治大学、東京慈恵会医科大学、国立遺伝学研究所、東京大学の研究グループによる研究であり、「Nature Ecology & Evolution」に論文が掲載されるとともに、各大学・研究所のサイトにプレスリリースが掲載された。

多くの脊椎動物はヒトより多様な旨味・甘味を味わっている? 味覚の起源を探る共同研究

新たに発見された遺伝子で構成されている受容体は、多様なアミノ酸を感知できることもわかり、多くの脊椎動物が、ヒトよりも多くの旨味・甘味受容体※1を用いて多様な味を認識していることも明らかにされた。脊椎動物は、進化の過程で多様な味覚の受容体を持つことで、地球上のさまざまな生息環境に適応してきた可能性が示された。

※1 旨味・甘味受容体:哺乳類では3種類のT1R受容体タンパク質から構成され、T1R1+T1R3の複合体が旨味受容体、T1R2+T1R3の複合体が甘味受容体として機能する。ヒトでは、昆布ダシなどさまざまな食品に含まれるグルタミン酸によって旨味受容体T1R1+T1R3が活性化され、糖や人工甘味料などの甘味物質によって甘味受容体T1R2+T1R3が活性化される。

研究の背景:旨味と甘味の受容体を構成する遺伝子の種類はいくつか?

哺乳類には、旨味、甘味、苦味、塩味、酸味という5種類の基本的な味覚があり、舌にある特定の味覚受容体を介して感知している。ヒトが旨味と甘味を感知する受容体は3種類の遺伝子から構成されていて、旨味受容体はTAS1R遺伝子※2のうち、TAS1R1とTAS1R3、甘味受容体はTAS1R2とTAS1R3という遺伝子から作られている。また、同じ脊椎動物の中で、進化の比較的早い段階で分岐したゼブラフィッシュなどの真骨魚類※3でも、同様に3種類の遺伝子から構成されている。

このため、脊椎動物の祖先は3種類の遺伝子を持ち、進化の過程で変化することなくそのまま現在まで受け継がれていると考えられてきた。しかし、近年の研究で、シーラカンスやゾウギンザメなどの魚類の味覚受容体には、受容体を構成する既存の3種類の遺伝子に分類されないものが見つかっており、従来の説が覆る可能性が示唆されている。ただ、味覚受容体の遺伝子について包括的な特性解析や系統的な分類をした先行研究はなく、詳細は明らかになっていない。

※2 TAS1R遺伝子:旨味・甘味受容体を構成する遺伝子。哺乳類ではTAS1R1~TAS1R3遺伝子が発現し、それぞれT1R1~T1R3受容体タンパク質がつくられる。
※1 真骨魚類:多数の魚類を含む巨大な分類群。メダカ、フグ、マグロ、サケ、コイ、ウナギなど一般によく知られる魚類に加え、研究上のモデル生物として利用されるゼブラフィッシュも含まれる。

研究の内容:多くの脊椎動物はヒトより多様な旨味・甘味を味わっている可能性

研究グループは、研究に用いられるモデル生物に限らず、さまざまな脊椎動物のゲノム情報を解析した。その結果、従来の3種類の遺伝子に属さない未知のTAS1R遺伝子を次々と発見し、脊椎動物全体で11種類のTAS1R遺伝子グループが存在することを明らかにした。

これを生物の進化の系統樹と比較したところ、ヒトを含む硬骨脊椎動物※4の祖先は9種類のTAS1R遺伝子を持ち、それらが長い進化の過程で徐々に失われ、哺乳類と真骨魚類で3種類ずつ残ったことがわかった。さらに、ポリプテルスやゾウギンザメといった原始的な生物の特徴をもつ魚類で受容体の機能を解析したところ、魚類にとっては必須アミノ酸であり、哺乳類では感知できない幅広いアミノ酸を受容できることが明らかになった。

これらの結果から、多くの脊椎動物がこれまで考えられてきたよりも多様な旨味・甘味のセンサーを有しており、脊椎動物が地球上のさまざまな環境に適応できた要因の一つは、こうした多様な味覚受容体を持つことで、それぞれの生息域に適応した食性を獲得できたからではないかと考えられる。

※4 硬骨脊椎動物:脊椎動物の分類群の一つで、陸上の脊椎動物(四肢動物)と硬骨魚類を含める。サメなどの軟骨魚類は含まれない。

図1 脊椎動物におけるTAS1R遺伝子の進化について、従来の説と本研究の説との比較

脊椎動物におけるTAS1R遺伝子の進化について、従来の説と本研究の説との比較

(出典:東京慈恵会医科大学)

本件の詳細:分岐鎖アミノ酸(BCAA)など必須アミノ酸の味がわかる生物も

研究グループは、シーラカンス、ハイギョ、アホロートル(ウーパールーパー)、ポリプテルス、ゾウギンザメなどの幅広い脊椎動物のゲノム情報からTAS1R遺伝子をすべて収集し、詳細な進化解析を行った。その結果、従来知られていた3種類の遺伝子に属さない5種類の新規TAS1R遺伝子群を発見し、これらをTAS1R4、TAS1R5、TAS1R6、TAS1R7、TAS1R8と名付けた。

また、TAS1R2とTAS1R3はいずれも哺乳類と魚類で共通の遺伝子と考えられてきたが、今回の解析から、それぞれTAS1R2AとTAS1R2B、およびTAS1R3A、TAS1R3B、TAS1R3Cという5種類の別々の遺伝子であることが判明した。これによって、脊椎動物全体でTAS1R遺伝子グループを11種類とする新たな分類体系が構築された。

図2 味覚受容体TAS1R遺伝子の系統樹と新たな分類体系

味覚受容体TAS1R遺伝子の系統樹と新たな分類体系

すべてのTAS1R遺伝子群は11グループに分けられる。
(出典:東京慈恵会医科大学)

この分類体系と生物の系統樹を比較すると、ほぼすべての脊椎動物を含む有顎類※5の祖先でTAS1R遺伝子が獲得され、少なくとも5種類に増えたことがわかった。また硬骨脊椎動物の祖先では、9種類のTAS1R遺伝子を持っていたことが明らかになった。

その後、生物進化の過程でTAS1R遺伝子は徐々に失われ、最終的に哺乳類で3種類、メダカやゼブラフィッシュといった真骨魚類でも3種類が残されたことになる。一方、シーラカンス、ハイギョ、ポリプテルスなどではTAS1R遺伝子があまり失われることなく現在まで保持されており、今回解析した中ではアホロートル(ウーパールーパー)が最も多様なTAS1R遺伝子を保有していた。

図3 脊椎動物の系統関係とTAS1R遺伝子の進化

脊椎動物の系統関係とTAS1R遺伝子の進化

塗りつぶされた丸印は遺伝子を持ち、白丸は遺伝子が失われたことを表している。矢印は、その系統上で各遺伝子を喪失したことを示している。
(出典:東京慈恵会医科大学)

塗りつぶされた丸印は遺伝子を持ち、白丸は遺伝子が失われたことを表している。矢印は、その系統上で各遺伝子を喪失したことを示している。

さらに、研究グループは、培養細胞を用いてポリプテルスとゾウギンザメが持つT1R受容体の機能を調べた。その結果、ポリプテルスでは、今回新しく発見したT1R8とT1R4が二量体※6として働くこと、また哺乳類やメダカ・ゼブラフィッシュなどのT1Rが受容しなかったバリン、ロイシン、イソロイシンといった分岐鎖アミノ酸を受容することが明らかになり、それらのアミノ酸の味を感知できる可能性が示された。

興味深いことに、ポリプテルスの味覚受容体は、魚類にとっての必須アミノ酸ばかりを認識していることもわかった。また、同様にゾウギンザメのT1R6-2とT1R4も、分岐鎖アミノ酸をはじめとする魚類にとっての必須アミノ酸を主に受容していた。さらに、ポリプテルスでは、新たに発見したものも含めてTAS1R遺伝子が口唇などにある味蕾※7で発現していることも明らかになった。これらの特徴には、有顎類の祖先が持つ味覚受容体の特徴が反映されている可能性がある。

表1 ポリプテルスとゾウギンザメのT1Rが受容する味物質

ポリプテルスとゾウギンザメのT1Rが受容する味物質

今回の発見によって、TAS1R遺伝子の進化は単純だったという従来の常識が覆され、実際は脊椎動物のTAS1R遺伝子が極めて多様で複雑な進化を遂げてきたことが明らかになった。最初のTAS1R遺伝子は顎を持つ脊椎動物有顎類の祖先で生じていたことから、脊椎動物の進化史における「顎」の獲得、すなわち咀嚼行動の進化と連動して、味覚の多様化が起こったと考えらる。とくに機能解析から明らかになった、必須アミノ酸を主に受容する傾向からは、祖先種において必要な栄養源を選択し摂取するシステムとして、T1R受容体が使われていた可能性が示唆された。研究グループでは、今後はさらに解析対象を拡大し、味覚進化の謎を一つずつ解き明かしていく予定としている。
(出典:東京慈恵会医科大学)

今回の発見によって、TAS1R遺伝子の進化は単純だったという従来の常識が覆され、実際は脊椎動物のTAS1R遺伝子が極めて多様で複雑な進化を遂げてきたことが明らかになった。最初のTAS1R遺伝子は顎を持つ脊椎動物有顎類の祖先で生じていたことから、脊椎動物の進化史における「顎」の獲得、すなわち咀嚼行動の進化と連動して、味覚の多様化が起こったと考えらる。とくに機能解析から明らかになった、必須アミノ酸を主に受容する傾向からは、祖先種において必要な栄養源を選択し摂取するシステムとして、T1R受容体が使われていた可能性が示唆された。

研究グループでは、今後はさらに解析対象を拡大し、味覚進化の謎を一つずつ解き明かしていく予定としている。

※5 有顎類:硬骨脊椎動物にサメなどの軟骨魚類を含めた分類群の名称で、顎を持つことが特徴。顎口(がっこう)類とも呼ばれる。円口類(ヤツメウナギとヌタウナギ)を除く、ほとんどすべての脊椎動物が含まれる。
※6 二量体:タンパク質分子2つがまとまって1つになったものを示す。
※7 味蕾:おもに舌などに存在する蕾状の器官。味蕾は数十個の味細胞で構成され、この味細胞に存在する味覚受容体が味を感知する。

プレスリリース

脊椎動物が極めて多様な味覚を持つことを発見 旨味と甘味の味覚の起源に迫る(東京慈恵会医科大学)

文献情報

原題のタイトルは、「A vertebrate-wide catalogue of T1R receptors reveals diversity in taste perception」。〔Nat Ecol Evol. 2023 Dec 13〕
原文はこちら(Springer Nature)

この記事のURLとタイトルをコピーする
志保子塾2024後期「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」

関連記事

スポーツ栄養Web編集部
facebook
Twitter
LINE
ニュース・トピックス
SNDJクラブ会員登録
SNDJクラブ会員登録

スポーツ栄養の情報を得たい方、関心のある方はどなたでも無料でご登録いただけます。下記よりご登録ください!

SNDJメンバー登録
SNDJメンバー登録

公認スポーツ栄養士・管理栄養士・栄養士向けのスキルアップセミナーや交流会の開催、専門情報の共有、お仕事相談などを行います。下記よりご登録ください!

元気”いなり”プロジェクト
元気”いなり”プロジェクト
おすすめ記事
スポーツ栄養・栄養サポート関連書籍のデータベース
セミナー・イベント情報
このページのトップへ