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アスリート5人に1人以上がニコチン陽性反応、男性・パワー系・団体競技で高い傾向 イタリアの調査

今回はアスリートの喫煙率を表すと考えられる、ドーピング検査でのニコチン陽性率に関するデータを紹介する。対象全体のニコチン陽性率は22.7%であり、経年的な変化としては低下傾向にあることや、性別や行っている競技による差も明らかにされている。イタリアからの報告。

アスリート5人に1人以上がニコチン陽性反応、男性・パワー系・団体競技で高い傾向 イタリアの調査

ニコチンがパフォーマンスを高めるという思い込み

ニコチンはカフェインに次いで世界で最も消費されている向精神性物質とされる。喫煙または無煙タバコとして世界人口の2割以上が摂取しており、スポーツにおいてはプロ野球選手などが噛みタバコをよく利用することも知られている。

アスリートがニコチンを摂取する理由の一つとして、覚醒レベルを高めて競技へ集中し反応時間を短縮してパフォーマンス向上を狙うことや、空腹感を抑制し体重管理に役立てるといったことが挙げられる。しかし、前者についてはそのような効果を支持する明確なエビデンスはなく、なによりニコチンは依存性が高く、健康を害するリスクが非常に大きい。

これを背景としてこの論文の著者らは、アスリートのニコチン使用の実態を把握するため、ドーピング検査のデータを用いて詳細な解析を行った。

ドーピング検査の尿検体6万件以上を分析

研究には2012~20年にイタリアで行われた国内大会・国際大会におけるドーピング検査での尿検体、6万802件の分析結果が用いられた。ニコチンの陽性判定基準は、世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency;WADA)のモニタリングプログラムと同じく50ng/mL超とした。

著者によると、この50ng/mL超という値は喫煙習慣の有無を判定するには控えめな値であり、喫煙率を過少評価する可能性があるという。ただし、受動喫煙またはごく微量のニコチンを含む食品(ジャガイモやカリフラワーなど)の影響による偽陽性の可能性を排除できる値だとしている。

男性、団体競技アスリートで陽性率が高く、経年的には全体的に低下傾向

解析対象全体のニコチン陽性率は22.7%であり、アスリートの5人に1人強が喫煙または喫煙以外の方法でニコチンを習慣的に摂取していることがわかった。調査対象に含まれていた競技は90種類であり、そのうち83種類(92.2%)は少なくとも1検体でニコチンが検出された。

性別でみると、男性(24.1%)のほうが女性(18.5%)より高かった。また、団体競技のアスリート(31.4%)は個人競技アスリート(14.1%)より高かった。

経年的にみると、2012~14年は25~33%の範囲であり、15~20%の範囲であった2015~20年よりも高かった。単年で最も高い値は2013年の32.5%、最も低い値は2018年の15.2%だった。

持久系競技では陽性率が低く、パワー系で高い

次に、競技別にみると、持久系の競技に参加しているアスリートのニコチン陽性率は低い傾向にあり、反対にパワー系の競技に参加しているアスリートでは高い傾向が認められた。競技別の傾向は以下のとおり。団体競技、個人競技ごとに一部をピックアップし、競技名のアルファベット順に記す。

団体競技

アメリカンフットボールは解析対象期間であった2012~20年のうちの3年でサンプル採取されており、ニコチン陽性率は41.7~41.8%の範囲。野球は2012~20年のうちの7年でサンプル採取されており、ニコチン陽性率は47.1~85.5%の範囲。85.5%という値は2014年のもので、これは競技別にみた単年の記録として最も高い陽性率。

以下の競技は2012~20年のすべての年でサンプル採取されており、バスケットボールのニコチン陽性率は16.6~47.0%の範囲、ラグビーは陽性率17.4~46.8%の範囲、サッカーは陽性率18.4~40.4%、バレーボールは23.8~53.6%。

個人競技

解析対象期間であった2012~20年のすべての年でサンプル採取されている競技の中で、陸上競技のニコチン陽性率は3.7~15.8%の範囲、ボクシングは陽性率6.7~32.3%の範囲、自転車は陽性率2.3~9.3%、体操は4.9~28.1%。

これらのほかに、柔道は2012~20年のうちの6年でサンプル採取されており、ニコチン陽性率は7.7~18.4%の範囲、重量挙げは7年でサンプル採取されており陽性率は19.8~60.0%の範囲、レスリングは7年でサンプル採取されており10.8~45.2%の範囲。

憂慮をもって対処が必要な結果

著者らは本研究の限界点として、ニコチンの摂取経路が紙巻タバコ等の喫煙によるものか、無煙タバコか、あるいは電子タバコなどの代替製品化を特定できないこと、および、イタリア国内で開催された競技会参加アスリートを対象としているため一般化が制限されることを挙げている。

なお、前者の点に関連して、近年では若年者を中心に電子タバコの利用が拡大しており、ニコチンによる健康被害は以前よりも軽減されている可能性はあるが、依然としてリスクであると考えられ、通常タバコを喫煙する習慣へのゲートウェイとなり得るという問題点を指摘している。後者については、他の集団で行われた既報研究でもほぼ同様の結果が報告されているため、ある程度の信頼性はあると述べている。

結論には、「アスリートのニコチン陽性率が22.7%という結果は憂慮すべきことであり、看過せずに懸念をもって考慮されるべきことである」とされている。

文献情報

原題のタイトルは、「Should We be Concerned with Nicotine in Sport? Analysis from 60,802 Doping Control Tests in Italy」。〔Sports Med. 2023 Jun;53(6):1273-1279〕
原文はこちら(Springer Nature)

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