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歯が少ない高齢者のタンパク質摂取の減少は、入れ歯など補綴装置で抑制できる可能性

歯を失うことでタンパク質の摂取不足から筋肉量低下につながり、フレイルやサルコペニアのリスクが上昇する可能性があるが、入れ歯などで補綴(ほてつ)している人ではタンパク質摂取量の低下幅が少ないことが明らかになった。東北大学の研究グループによる研究であり、「Journal of Oral Rehabilitation」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。

歯が少ない高齢者のタンパク質摂取の減少は、入れ歯などによる補綴装置で抑制できる可能性

研究の概要

高齢者におけるタンパク質の低摂取は筋肉量の低下につながり、フレイルやサルコペニアのリスクを高める。歯が少なくない人では、タンパク質の摂取量が減ることがわかっているが、入れ歯などの補綴装置の使用の有無でタンパク質の摂取量に差があるかはわかっていなかった。

この研究は、74歳以上の高齢者約2千人を対象とした横断調査として行われ、歯が20本以上ある人と比べて0~9本の人で補綴装置を使っていない人では、1日の摂取エネルギーあたりのタンパク質の摂取量が2.3%低いことが示された。しかし、そのような高齢者でも補綴装置を使っている人では、タンパク質の摂取量低下が0.5%と、8割ほど小さくなることも明らかになった。

本研究結果から、多くの歯を失った人でも、入れ歯などの補綴装置を使用していることにより、タンパク質の摂取状態を維持または改善できる可能性が示唆された。

研究の背景:入れ歯でタンパク質摂取量低下を防げるか?

高齢者では筋肉量の低下により、フレイルやサルコペニアのリスクが高まる。筋肉量の維持のためには、適度な運動に加えて、ふだんの食事からの十分な量のタンパク質の摂取が重要。これまでの研究から、歯を多く失っている人では、タンパク質の摂取量が減少することが報告されている。ただし、入れ歯などの補綴装置を使っていることが、タンパク質の摂取量にどのように影響するのかは明らかになっていなかった。

そこで本研究では、歯を失っている高齢者において、補綴装置を使っているとタンパク質の摂取量が異なるかどうかを検討した。

対象と方法:高齢者の残存歯数と補綴状況別にタンパク質摂取量を比較

2019年に実施された日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study;JAGES)調査に参加した高齢者のうち、宮城県岩沼市に居住している74歳以上の高齢者を対象として、2019年時点での歯の本数(20本以上、10~19本、0~9本の3群に分類)、および、入れ歯・ブリッジ・インプラントを含む補綴装置の使用と、簡易型自記式食事歴法質問票(brief self-administered diet history questionnaire;BDHQ)により推定した総摂取エネルギー量あたりのタンパク質(総タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質)の占める割合(%E)との関連を評価した。

分析では、歯数と補綴装置との交互作用を考慮した重回帰分析を用いて、補綴装置を使っている場合と使っていない場合での、歯数20本以上と比較した歯数10~19本、0~9本の場合のタンパク質摂取量の差を推定した。また、10~19本、0~9本、それぞれの場合において、歯数が少ないことによるタンパク質摂取量の減少が、補綴装置によってどの程度の割合で改善されたのかも算出した。

なお、分析に際しては、性別、年齢、教育歴、等価所得、婚姻状況、世帯人数、併存疾患(がん、脳卒中、糖尿病)、日常生活動作(ADL)、東日本大震災による住居の影響、喫煙歴、飲酒習慣の影響を調整した。

結果:入れ歯がタンパク質摂取量低下を防いでいる可能性

対象者2,095人における、総タンパク質摂取量の平均は17.4±5.1%Eだった。歯数と補綴装置使用とを組み合わせた群ごとの総タンパク質摂取量の平均値は、歯数20本以上は17.7%E、歯数10~19本で補綴ありは17.2%E、歯数10~19本で補綴なしは17.4%E、歯数0~9本で補綴ありは17.0%E、歯数0~9本で補綴なしは15.4%E(表1)。

表1 歯数および入れ歯(補綴装置)使用の有無ごとの総摂取カロリーに占めるタンパク質摂取の割合(n=2,095)

歯数および入れ歯(補綴装置)使用の有無別にみたタンパク質摂取量の%エネルギー

(出典:東北大学)

重回帰分析の結果、補綴装置を使っていない場合、20本以上の人と比べて歯数10~19本の人ではタンパク質の摂取量に有意な差は見られなかった(図1)。しかし、歯数0~9本の人では、タンパク質の摂取量が2.31%有意に低いことが示された(P<0.001)。

図1 歯数現象によるタンパク質摂取の変化と入れ歯使用の有無との関連(n=2,095)

歯数現象によるタンパク質摂取の変化と入れ歯使用の有無との関連(n=2,095)

(出典:東北大学)

ところが、歯数が0~9本の人で補綴装置を使っている人のタンパク質摂取量の低下は0.47%にとどまり、補綴装置を使っている人では歯数減少によるタンパク質摂取量の低下が79.4%小さくなっていた(p<0.001)。

動物性タンパク質の摂取量に限っても同様の結果が得られた。一方、植物性タンパク質の摂取量については、歯数および補綴装置の有無による有意な差は観察されなかった。

結論と本研究の意義:適切な補綴で老年疾患リスクを抑制し得るか

本研究から、多くの歯を失った高齢者において、入れ歯・ブリッジ・インプラントなどの補綴装置を使用していることによって、歯の喪失によるタンパク質の摂取量の低下を防ぐことができる可能性が示唆された。

歯の喪失は高齢者において有病率の高い健康問題の一つであり、さまざまな疾患・障害の発生につながる可能性がある。歯の喪失は不可逆的な状態ではあるものの、入れ歯やブリッジ・インプラントなどを用いた適切な歯科補綴治療を受けることによって、栄養状態の改善、および低栄養状態に起因するさまざまな健康問題を未然に防げる可能性がある。

プレスリリース

歯が少ない人でも、入れ歯を使っていれば、タンパク質の摂取低下は小さい~入れ歯の使用でタンパク質摂取量が8割改善~(東北大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Dental prosthesis use is associated with higher protein intake among older adults with tooth loss」。〔J Oral Rehabil. 2023 Nov;50(11):1229-1238〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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