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過体重や肥満の子どもの腸内細菌叢が、運動と栄養への介入でポジティブに変化する可能性

過体重や肥満の子どもに対して、スポーツの奨励や栄養指導を12週間行ったところ、腸内細菌叢の組成に変化にわずかではあるが有意な変化が認められたとする論文が発表された。ポルトガルの研究者らの報告。

過体重や肥満の子どもの腸内細菌叢が、運動と栄養への介入でポジティブに変化する可能性

小児期は腸内細菌叢の可塑性が高く、生活習慣改善の影響が大きい可能性

肥満は成人だけでなく、子どもの間でも増加しており、欧州では子どもの3人に1人近くが過体重または肥満に該当する。肥満はエネルギー出納の不均衡の結果として起きるものだが、エネルギー出納不均衡の原因は多因子であり、腸内細菌叢についても、肥満の原因と結果のいずれかは十分明らかになっていないものの、関与が確認されている。例えば成人の肥満者では、ファーミキューテス門とバクテロイデス門の比(F/B比)が高いという報告があり、小児肥満でも同様の報告がみられる。

一方、小児は成人に比べて腸内生態系の可塑性が高いと考えられている。成人後の肥満の是正はしばしば困難だが、小児期には生活習慣の変更も比較的容易に達成できる可能性がある。今回紹介する論文の著者らは、子どもたちを対象に身体活動の奨励と栄養指導を行うことによって、腸内細菌叢にポジティブな変化を生じさせ得るのではないかとの仮説を立て、以下の検討を行った。

小学生を対象に、スポーツのみ、スポーツ+栄養指導の2群に分けて介入

この研究は、ポルトガル中部にある小学校の生徒対象の非無作為化試験として実施された。研究参加条件は、BMIが85パーセンタイル以上の過体重または肥満に該当する7~10歳の小学生。17人が参加し、延べ14週間にわたる後述の研究に参加したが、1人は腸内細菌叢の変化の分析のための糞便サンプルが1回しか提出されず、他の1人はスポーツセッションへの参加率が低かったため除外され、解析対象は15人(男児47%)だった。BMIカテゴリーは、33%が過体重、残り67%は肥満だった。

全体を2群に分け、1群はスポーツ介入のみ、他の1群はスポーツと栄養介入を行った。スポーツ介入としては、週に2回、1回60分のフットボールクラスに参加してもらうこととし、栄養介入としては、週2回の教育セッションに参加してもらうこととした。栄養教育セッションの内容は、健康的な食事を摂る方法、野菜や果物の大切さ、魚の摂取推奨など。これらの介入を12週間行った。

介入期間中には三軸加速度計にて身体活動量を把握し、またベースライン時と介入終了時の2回、24時間リコール法にて食事摂取量を評価した。

ベースライン時と介入終了時のBMIや体組成の変化

スポーツ介入群(FG群)での変化

フットボールのみの介入を行った群(FG群)のベースライン時の特徴は、年齢8.8±0.8歳、BMI22.6±2.9、体脂肪率34.8±4.8%で、中~高強度身体活動(moderate-to-vigorous physical activity;MVPA)は46.7±15.1分/日だった。介入終了時点では、BMIは22.0±2.7、体脂肪率は31.6±5.7%へといずれも有意に低下し、MVPAは58.6±10.1分/日と有意に増加していた。

スポーツ+栄養介入群(NFG群)での変化

フットボールと栄養指導による介入を行った群(NFG群)のベースライン時の特徴は、年齢が9.4±0.2歳とFG群よりやや高かったが群間差は非有意だった。BMIは23.3±3.3、体脂肪率は32.3±2.8%だった。MVPAは59.9±28.5分/日であり、FG群の介入後の値をベースライン(介入前)時点で既に上回っていた。

介入終了時点では、BMIが22.3±3.4と有意に低下していた。ただし体脂肪率は32.3±2.4%、MVPAは57.9±30.7分/日であり、有意な変化は認められなかった。

腸内細菌叢は「属」レベルで一部に有意な変化

腸内細菌叢の介入前後の変化を「門」レベルでみると、FG群、NFG群ともに、有意な変化のみられた門は認められず、F/B比も有意な変化は確認されなかった。

ただし、「属」レベルでは、一部に有意な変化が確認された。例えばFG群ではローズブリア属が、介入前の5.9±4.7%から介入後には3.0±3.8%に減少し、NFG群ではビフィズス菌が同順に26.9±19.5%、9.0±6.4であり、有意に減少していた。

「種」レベルでは両群ともに介入による有意な変化は観察されなかった。また、α多様性も有意な変化はみられなかった。

全体解析では、身体活動量と腸内細菌の相関などが明かに

次に、FG群とNFG群を区別せず、全体を1群として解析すると、以下の関連がみつかった。

まず、BMIのZスコアはF/B比との有意に正相関が認められた(ρ=0.428、p=0.018)。また、中~高強度身体活動(MVPA)は、ファーミキューテス門(ρ=-0.410、p=0.024)、ローズブリア属(ρ=-0.540、p=0.002)などとの負の相関があり、プレボテラ・コプリとは正の相関が認められた(ρ=0.465、p=0.010)。

タンパク質摂取量と腸内細菌との相関も認められる

栄養素摂取量について、FG群とNFG群を比較すると、NFG群では栄養指導を行ったにもかかわらず、介入による有意な変化は認められなかった。ただし著者によると、NFG群ではベースライン時点で既に、野菜や果物の摂取量が多く、有意に近い差(p=0.077)が存在していたとのことだ。

上記と同様に、FG群とNFG群を区別せず、全体を1群として栄養素摂取量と腸内細菌叢の関連を解析すると、タンパク質摂取量が多いほど、プレボテラ属(ρ=0.513、p=0.004)やプレボテラ・コプリ(ρ=0.474、p=0.008)が多いという有意な正相関が認められた。

以上の結果を基に著者らは、「(身体活動と栄養という)学際的な介入により、過体重および肥満の子どもたちの腸内細菌叢の組成に、限定的ではあるが有意なプラスの変化を誘発できることが示唆された」と結論づけている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of Physical Activity and Nutrition Education on the Gut Microbiota in Overweight and Obese Children」。〔Children (Basel). 2023 Jul 19;10(7):1242〕
原文はこちら(MDPI)

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