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アスリートの睡眠の評価には「日差変動」の視点が不足している

近年、アスリートのパフォーマンスに睡眠時間や睡眠の質が影響を及ぼしていることを示唆するデータが蓄積されてきており、それによってさらに多くの研究が行われるようになっているが、大半の研究は睡眠時間や睡眠の質を評価しており、睡眠時間の日差変動が考慮されていないと指摘する論文が発表された。著者らは、睡眠時間の日差変動を生む因子、およびその結果に関する現時点の知見は「初期段階との表現が適切だ」と述べている。オーストラリアの研究者の報告。

アスリートの睡眠の評価には「日差変動」の視点が不足している

アスリートの睡眠の日差変動に関する現在のエビデンスは?

アスリートの睡眠という研究テーマは比較的新しい領域で、これまでの報告の約8割が2011年以降に発表されている。しかしながら既にシステマティックレビューやメタ解析の報告もあり、睡眠不足はアスリートのパフォーマンスに悪影響を及ぼすことが明らかになっていて、睡眠時間の延長がその逆の作用をもたらす可能性が示されている。また、一般集団では睡眠時間の減少や睡眠の質の低下がうつ病や不安症、反芻思考など、メンタルヘルスの悪化をもたらすことが報告されており、これがアスリート集団にも当てはまることが示唆されている。

ただ、アスリートを対象に睡眠時間の延長や睡眠の質改善という介入を行った場合のパフォーマンスへの効果は、一貫性が十分とはいえず、ネガティブな結果を報告した研究もみられる。これまでのこのトピックに関する多くの研究の限界点として、サンプルサイズが小さいこと、とくに女性が対象に含まれていないことが多いこと、評価手法が確立されていないことなどが挙げられる。また、それらの限界点の一つとして、睡眠時間の日差変動という視点が欠如していることも該当する。

一般に、睡眠時間の変動が大きいと、身体的健康、体重、メンタルヘルスなどの問題が増加するという指摘もある。これらを背景として今回紹介する論文の著者らは、システマティックレビューによる現時点の知見を概括した。

文献検索について

Web of Science、Embase、Medline、PsycINFO、CINHAL Plusなど6件の文献データベースに2022年4月6日までに公開された文献を対象として、アスリートを対象に、少なくとも3晩以上にわたって睡眠に関する指標(睡眠時間、睡眠効率、睡眠の質など)を自己評価またはウェアラブルデバイスによる客観的評価により把握した、英語で執筆され全文が公開されている研究報告を抽出した。研究室内で睡眠ポリグラフィー検査を用いた評価のみの研究は除外した。

1,209報がヒットし重複削除後に2人の研究者がタイトルと要約に基づきスクリーニングを実施し、全文入手可能な75報について全文を精査。抽出された文献の参考文献も採否を検討して、最終的に16報の研究報告を適格と判断した。

解析対象研究の特徴と解析結果

抽出された16件の研究報告は、2015年以降に査読システムのあるジャーナルに掲載されていた。英国での研究が5件と最も多く、次いでオーストラリアとポルトガルが各4件で、米国、アイスランド、オランダなどが各1件ずつだった。

アスリートの参加競技は、単一のスポーツのみ(水泳、ラグビー、サッカーなど)が13件であり、その他の3件は複数の競技アスリートを対象としていた。年齢は15~36歳で計937人。アスリートの性別は、男性のみ、女性のみ、および男女混合コホートがそれぞれ4件、男性と女性とで別々に解析したものが2件、性別の記載がないものが2件。

競技レベルは国際エリートレベル(Tier4)が6件、国内エリートレベル(Tier3)が4件、複数のレベルの混合が6件。研究期間は7日~15カ月の範囲であり、シーズン中に行った研究が7件、オフシーズンが5件、研究実施時期を特定していないものが4件。

睡眠の変動の評価には、個人内の標準偏差や変動係数、Zスコアが用いられていた。睡眠時間の評価には、アクチグラフなどのウェアラブルデバイスを用いた研究が4件、自己報告が5件、それらの双方を用いた研究が7件だった。なお、16件の研究報告の中で、睡眠の変動とは何かを明確に定義付けた記載のあった論文は4件のみだった。

睡眠の日差変動との関連が検討されていた因子

睡眠の日差変動は、人口統計学的因子(アスリートの特徴)、状況(競技やトレーニングセッションの時間など)、生物学的因子(睡眠中の心拍変動など)、心理的因子(幸福感、自覚された運動強度など)との関連が検討されていた。

睡眠の変動を明確に定義付けていた4件の研究報告のうち2件は、変動に関与する因子や結果は検討されておらず、日差変動の評価結果のみが示されており、それによると、アスリートの睡眠時間は9~22%の範囲で変化し、睡眠効率(就床時間に占める睡眠時間の割合)は2~11%の範囲で変化していた。

他の2件の研究は、競技カテゴリーとの関連を検討していた。ラグビー選手の中で、エリートジュニアは、エリートシニアやサブエリートシニアよりも、入眠時刻、就寝時刻、睡眠時間の変動が大きく、睡眠効率と主観的な睡眠の質の評価の変動がエリートシニアよりも大きいことが報告されていた。

日差変動という視点の欠落が現在までの研究の限界点

著者らは結論として、「アスリートの睡眠に関する研究のほとんどは、睡眠の指標の平均値との関連の解析を優先しており、個人内の日差変動という視点があまりみられない。そのような視点の欠如と関連因子の解析の単純化は、エビデンスに基づきアスリートの睡眠を改善しパフォーマンスを向上するという戦略に重大な影響を与えるのではないか」と主張している。

文献情報

原題のタイトルは、「Intraindividual variability in sleep among athletes: A systematic review of definitions, operationalizations, and key correlates」。〔Scand J Med Sci Sports. 2023 Jul 24〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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