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オーバートレーニングでアスリートの認知機能が低下するおそれ システマティックレビュー

持久系アスリートのオーバートレーニングの認知機能に対する影響を検討した研究の、システマティックレビューの結果が報告された。抽出された研究のすべてが認知パフォーマンス低下との関連があると結論づけていたという。著者らは、高強度トレーニングを行っているアスリートに対して認知機能テストによるモニタリングを行うことを提案している。

オーバートレーニングでアスリートの認知機能が低下するおそれ システマティックレビュー

オーバートレーニングをメンタル状態のスクリーニングで判定できるか?

スポーツパフォーマンスを高めるにはトレーニングが必要であり、基本的にはトレーニング量が多いほどパフォーマンスが向上しやすい。ただし、トレーニングによって生じるストレスが十分回復されない段階で次のトレーニングを行うことを繰り返した場合、ネガティブな生理学的反応が生じてパフォーマンスはかえって低下する。いわゆる「オーバートレーニング」と呼ばれる状態がこれにあたる。

オーバートレーニングは身体的・精神的パフォーマンスの低下を招くことはよく知られているが、個々のアスリートがオーバートレーニングになっているか否かを判断する明確な基準はない。コーチなどのサポートスタッフが、パフォーマンスの伸び悩み、または低下などからオーバートレーニングを疑うことが多いが、アスリート本人は競技会出場候補から外されてしまうことを懸念して、疲れや心身のストレスを周囲に訴えることが少なく、体調変化などが生じる前段階での早期発見が難しい。このような背景から、オーバートレーニングを客観的に評価可能なツールの確立が望まれている。

一方、トレーニングや競技会などで疲労困憊に至ると、一時的に思考が短絡的になったり判断力が低下することが知られている。このことから、オーバートレーニングの状態でも、認知機能が低下している可能性が考えられる。今回紹介する論文は、そのような視点で行われたこれまでの研究報告を対象とするシステマティックレビューにより、このトピックに関する現時点のエビデンスをまとめたもの。

2000年以降に発表された論文を対象に検索

PRISMAガイドラインに準拠し、MEDLINE、SPORTDiscusなどの文献データベースに、2000年1月以降、2022年5月までに収載され、アスリートを対象にオーバートレーニングの認知機能に対する影響を検討し、英語で執筆された論文を検索した。アスリート以外での研究、精神疾患治療関連の研究、レビュー論文などは除外した。

一次検索で221報がヒットし、これにハンドサーチにより6報を追加。重複削除により127報となり、タイトルと要約に基づきスクリーニングを行い、34報を全文精査の対象とした。最終的に7報をレビューの対象として抽出した。

すべての研究が認知機能へのマイナスの影響を報告

7件の研究の対象集団は比較的均一で、行っている競技は、トライアスロン、水泳、ランニング、自転車のいずれかの持久系スポーツだった。年齢は28±4.8歳(範囲24±3~36±1.5)で、オーバートレーニングと医学的に診断されたアスリートを対象とした研究は1件のみであり、5件の研究は未診断でオーバーリーチの段階のアスリートを対象としていた。トレーニングの過負荷を行った期間は2~9週の範囲だった。

認知機能の評価には、3件でストループカラーワードテストが使用され、4件では認知反応時間テストが用いられ、そのほかに行動選択タスク、Nバック課題などが採用されていた。論文では、これらの認知機能テストの種類別に、解析と考察を加えている。

ストループカラーワードテスト

ストループカラーワードテストは、4種類の色の名称(単語)が4種類の色で表示され、その表示色をできるだけ正確かつ迅速に答えるというもの(例えば緑色で赤という文字が表示されたら緑と回答する)。

3件の研究から、オーバートレーニングまたはオーバーリーチ状態のアスリートはこのテストの反応時間が増加することが示された。また、トレーニングの過負荷がより大きいほど、エラーの発生率が上昇することも示されていた。その傾向は、テストを中速~高速で施行した場合に顕著となり、低速で施行した場合は対照群とエラー発生率に有意差がなかった。

反応時間テスト

反応時間テストは、無作為な間隔で発生する視覚または聴覚の刺激に反応し、ボタンを押してできるだけ速く応答するという内容。4件の研究すべてでオーバートレーニングまたはオーバーリーチ状態のアスリートで、反応時間の延長が確認されていた。

行動選択タスク

直ちに得られる少ない報酬と、後で得られるより大きな報酬のどちらを好むかを判定するテスト。過負荷を行ったアスリートは、目先の報酬への魅力が増大することなどが報告されていた。

その他

複数の課題を連続的に与えて、被検者はN回(1~3回)前に与えられた指示に合致するような反応を求められるNバック課題では、オーバートレーニング状態では成績が低下する傾向がみられたという。精神運動速度テストで検討した研究からも、高負荷のトレーニングにより、タスクへの反応時間が遅くなることが報告されていた。

ストループカラーワードテストなどによるモニタリングを

著者らは本システマティックレビューからのキーポイントを、以下の3点にまとめている。

  • オーバーリーチまたはオーバートレーニング状態にあるアスリートでは、認知機能が低下していた。
  • オーバートレーニングにより、反応時間が増大すると考えられる。
  • 今後の研究では、日常的なアスリートのモニタリングプログラムの一部として、認知機能のテストを使用し、十分に回復できていない過負荷の初期兆候を特定可能かどうか検討する必要がある。

論文の結論は、「ストループカラーワードテストなどの認知機能テストを、アスリートのトレーニングへの適応をモニタリングする際の評価項目の一部として組み込むことが検討される」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Impact of Overtraining on Cognitive Function in Endurance Athletes: A Systematic Review」。〔Sports Med Open. 2023 Aug 8;9(1):69〕
原文はこちら(Springer Nature)

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