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腸内細菌叢や便の状態はトレーニングサイクルや体力とともに変化する 日本代表選手対象研究

エリートアスリートの腸内細菌叢は、トレーニングサイクルやパフォーマンスとともに変化していることを示すデータが報告された。さまざまな競技の日本代表選手を対象に行われた横断研究および縦断研究の結果であり、便の性状と腸内細菌叢やパフォーマンスとの間にも有意な関連が認められたという。早稲田大学スポーツ科学学術院の赤澤暢彦氏らの研究結果であり、論文が「Frontiers in Sports and Active Living」に掲載された。

腸内細菌叢や便の状態はトレーニングサイクルや体力とともに変化する 日本代表選手対象研究

トレーニングで腸内細菌叢が変化する? パフォーマンスとの関連は?

腸内細菌叢は、宿主が消化できない食物繊維を分解したり、免疫機能、ビタミンや短鎖脂肪酸の産生、ホルモン分泌など、極めて多様な生物学的機能の調節に大きくかかわっていることが明らかになってきている。腸内細菌叢の組成に関与する因子として、加齢や食習慣、薬物とともに、運動が挙げられる。ただ、アスリートの腸内細菌叢の組成がトレーニングサイクルによってどのように変化するのかはほとんどわかっていない。

これを背景として赤澤氏らは、日本のエリートアスリートを対象とする研究を行い、あわせて糞便の性状やパフォーマンス指標との関連も検討した。

84人のオリンピック強化指定選手を対象に研究

この研究の対象は、84人のオリンピック強化指定選手。年齢は24±5歳で49人(58%)が男性。行っている競技は、陸上短距離、サッカー、競歩、新体操、ジャンプ競技、フェンシング、ショートトラックスピードスケート、セーリングなど。以下のように、横断研究、および、一部の参加者を対象とする縦断研究という、二つの手法で実施された。

横断研究

84人のうち22人(男性10人)はトレーニングサイクルの移行期に、62人(同25人)は準備期に糞便サンプルを採取して、ピリオダイゼーション(期分け)と腸内細菌叢との関連を検討した。また、便の性状をブリストルスケールで評価し、簡易型自記式食事歴法質問票(brief self-administered diet history questionnaire;BDHQ)により栄養素摂取量を評価した。

縦断研究

さらに、ショートトラックスピードスケート選手10人(男性4人)については、3カ月間隔で2回(一般的準備期と特異的準備期)、糞便サンプルを採取してその間の変化を検討。また、自転車エルゴメーターにより、有酸素運動パフォーマンス(VO2max)、および90秒間の最大無酸素パワーなどを評価した。

移行期と準備期とで、4種類の菌種(属)の占有率に有意差

結果について、まず、横断研究において、ポストシーズンの移行期と準備期の研究参加者の特徴を比較すると、性別(女性の割合)や摂取エネルギー量、主要栄養素摂取量、便の性状に、有意な群間差は認められなかった。

腸内細菌叢の組成は、性別で比較した場合は有意差がなかった。それに対して、移行期と準備期との比較では、PrevotellaBifidobacteriumParaBacteroidesAlistipesという4種類の菌種(属)に有意差があり、Prevotellaは準備期に占有率が高く、他の3種は移行期に高かった。

腸内細菌叢の変化と便性状、パフォーマンスの変化の関連が明らかに

次に縦断研究の結果に着目すると、一般的準備期と特異的準備期の比較で、摂取エネルギー量、主要栄養素摂取量、便の性状に、有意な差は認められなかった。ただし、体脂肪率は一般的準備期が13.3±4.5%、特異的準備期は11.4±5.0%で後者が有意に低値だった。

パフォーマンス関連指標にも以下のような有意差が生じていた。一般的準備期、特異的準備期の順に、乳酸閾値での心拍数は167±9、171±11bpm、最大無酸素パワーは579±119 vs 602±110Wと向上していた。一方、VO2maxは57.6±7.9 vs 57.8±6.8mL/kg/分、換気閾値(ventilatory threshold;VT)は44.2±7.0 vs 45.6±6.2mL/kg/分であり、有意な変化はなかった。

縦断研究における腸内細菌叢の変化

腸内細菌叢については、BacteroidesBlautiaBifidobacteriumという3種類の菌種(属)に有意差があり、前二者は一般的準備期に占有率が高く、Bifidobacteriumは特異的準備期に高かった。この3種のほかにも、AnaerostipesFusicatenibacterという2種類は、非有意ながら専門準備期に占有率が上昇する傾向が認められた。

腸内細菌叢や便性状、パフォーマンス指標の変化との関連

続いて、縦断研究における腸内細菌叢や便性状、パフォーマンス指標の変化との関連を検討。以下の相関が明らかになった。

腸内細菌叢の変化とパフォーマンス指標の変化との関連

VO2maxの変化に関しては、観察期間中(一般的準備期から特異的準備期にかけて)のBacteroidesの占有率の変化と有意な負の相関が認められた(r=-0.667、p<0.05)。つまり、Bacteroidesの占有率が上昇したアスリートほどVO2maxが低下し、Bacteroidesの占有率が低下したアスリートほどVO2maxが上昇していた。

最大無酸素パワーの変化に関しては、観察期間中のFusicatenibacterの占有率の変化と、有意水準未満ながら正相関する傾向が認められた(r=0.071、p=0.071)。つまり、Fusicatenibacterの占有率の上昇幅が大きいアスリートは最大無酸素パワーが上昇する傾向にあった。

腸内細菌叢の変化と便の性状の変化との関連

Fusicatenibacterの占有率の変化と、ブリストルスケールで評価した便の性状のスコアの変化との間に、有意な正の相関が認められた(r=0.671、p<0.05)。つまり、観察期間中のFusicatenibacter占有率がより大きく上昇していたアスリートは、便の性状が理想的な(硬すぎず柔らかすぎない)硬さに近づいていた。

腸内細菌叢の変化とパフォーマンス指標の変化との関連

ブリストルスケールで評価した便の性状のスコアの変化と、最大無酸素パワーの変化との間に、有意な正の相関が認められた(r=0.730、p<0.05)。つまり、観察期間中に便の性状が理想的な硬さに近づいたアスリートほど、最大無酸素パワーがより上昇していた。

なお、VO2maxの変化に関しては、便の性状の変化との関連は認められなかった。

便の性状がアスリートの状態の評価指標となり得る可能性

著者らは、本研究のサンプル数が十分でないこと、観察研究であるため因果関係の解釈が制限されることなどの限界点を挙げたうえで、「この研究結果は、シーズンやトレーニング量・内容によってアスリートの腸内細菌叢が変化し、そのことがコンディションやパフォーマンスの変化と関連していることを示唆している。また、それらの変化を捉えるマーカーとして、便の性状を活用できる可能性も示された」と結論づけている。

文献情報

原題のタイトルは、「Gut microbiota alternation with training periodization and physical fitness in Japanese elite athletes」。〔Front Sports Act Living. 2023 Jul 14;5:1219345〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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