大量飲酒のリスクを高めてしまうかもしれない運動やスポーツは? ブラジルで約72万人を調査
運動やスポーツが健康にとってプラスに働くことは言うまでもない。ただ、運動やスポーツの習慣が飲酒と結びついている場合、健康上のメリットが相殺されたり、かえってマイナスに働いてしまうことも起きかねない。どのような運動やスポーツで、そのような危惧が考えられるのだろうか。ブラジルで行われた研究結果を紹介する。
運動やスポーツと大量飲酒の関連を探る
世界的に15歳以上の人口の18.2%に、大量飲酒の習慣があるとされている。大量飲酒に関連のある因子として、性別(男性)、社会経済的地位、BMI高値または低値などとともに、身体活動量の多さも該当するという研究報告がある。ある研究では、チームスポーツの選手やスポーツクラブに所属しているアスリートで、大量飲酒者が多いと報告されている。ただし、どのような運動またはスポーツが大量飲酒との関連が強いのかは明らかにされておらず、今回紹介する論文の著者によると、「このトピックに関する先行研究は存在しない」とのことだ。
運動・スポーツを12種類にカテゴリー分けして、大量飲酒者率を比較
この研究は、ブラジル保健省が行っている、慢性疾患のリスクと抑制因子に関する電話調査によるサーベイランス(Surveillance of Risk and Protection Factors for Chronic Diseases by Telephone Survey;VIGITEL)のデータを用いた横断調査として実施された。VIGITELは2006年に開始され、ブラジル各州の一般住民を対象として年1回、継続的に行われている。本研究では2006~19年の18歳以上の参加者73万309人から、解析に必要なデータがそろっている71万8,147人を解析対象とした。
解析対象者の主な特徴は、男性が45.9%、女性が54.1%、年齢は18~34歳41.2%、35~54歳36.7%、55~64歳11.6%、65歳以上10.5%、BMIは25未満が49.7%、25以上が50.3%、婚姻状況は41.0%が既婚、38.9%が未婚、未婚のパートナーと同居8.9%、離別5.3%、死別5.2%、テレビ視聴時間は3時間未満が74.6%、3時間以上が25.4%。
16%が大量飲酒者、52%が身体活動習慣なし
過去30日以内に、男性は1機会に5杯以上、女性は4杯以上のアルコールを摂取していた場合を「大量飲酒」と定義すると、これに該当しないのは84.1%であり、他の15.9%が大量飲酒者と判定された。より詳しくは、過去30日間の大量飲酒の回数が3日以内が8.8%、4~6日が4.2%であり、7日以上も2.9%存在していた。
一方、過去3カ月以内に行った運動やスポーツを問う質問から、52.1%はそれらの習慣がないことがわかった。行われている身体活動の種類は、以下の12種類にカテゴリー分けして大量飲酒者率を検討した。
身体活動の12種類のカテゴリー分類
- マインドフルネス:ストレッチ、ピラティス、ヨガ
- 屋内ウォーキング/ランニング:トレッドミル上でのウォーキングとランニング
- レジスタンストレーニング
- ジムでのエアロビクス
- 水中エアロビクス
- 屋外ウォーキング/ランニング:通勤以外のジョギング/ランニング
- 水泳
- 自転車
- 武道:柔術、空手、柔道、ボクシング、ムエタイ、カポエイラ
- ダンス:バレエ、社交ダンス、ベリーダンス
- チームスポーツ:サッカー/フットサル、バスケットボール、バレーボール/フットバレー
- テニス
各カテゴリーの内訳は、屋外ウォーキング/ランニングが20.0%と最も多く、以下、チームスポーツ 8.1%、レジスタンストレーニング 8.0%、自転車 2.2%、マインドフルネス 2.1%、ダンス 1.8%、屋内ウォーキング/ランニング 1.7%、ジムでのエアロビクス 1.1%、水中エアロビクス 1.0%、水泳 0.9%、武道 0.8%、テニス 0.1%。
これらのカテゴリー別に大量飲酒者の占める割合をみると、比率が高いカテゴリーから順に、チームスポーツ 31.9%、テニス 30.7%、武道 25.3%、レジスタンストレーニング 24.0%、水泳 22.0%、自転車 21.3%、ダンス 17.8%、屋内ウォーキング/ランニング 17.7%、ジムでのエアロビクス 16.1%、屋外ウォーキング/ランニング 15.7%、マインドフルネス 12.0%、水中エアロビクス 6.9%であり、また身体活動習慣のない群では15.0%だった。
チームスポーツとレジスタンストレーニングに大量飲酒者が有意に多い
次に、身体活動習慣のない群を基準として、交絡因子(年齢、性別、体重、身長、教育歴、婚姻状況、居住地域、データ収集年)を調整して、大量飲酒者の割合を比較。すると、競技人口が多い運動・スポーツのカテゴリーの中では、レジスタンストレーニング(該当者率〈prevalence ratios;PR〉1.12〈95%CI;1.04~1.21〉)と、チームスポーツ(PR1.11〈95%CI;1.07~1.17〉で、PRの有意な上昇が認められた。なお、競技人口が少ないカテゴリーでは、テニス(PR1.22〈1.01~1.58〉)やダンス(PR1.15〈1.04~1.27〉)も、有意なPR上昇が認められた。
一方、水中エアロビクスは交絡因子未調整でPRの有意な低下が認められ(PR0.41〈0.35~0.49〉)、交絡因子調整後には非有意となったが低下傾向にあった(PR0.87〈0.75~1.00〉)。
チームスポーツ参加者では、トレーニング頻度が低い人に大量飲酒者が多い
続いて、レジスタンストレーニングとチームスポーツ実践者において、1週間あたりのトレーニング頻度が1~2日、または3日以上で層別化して、大量飲酒該当者率を検討。
すると、レジスタンストレーニングの頻度が週に1~2回の群の大量飲酒該当者率は、身体活動習慣がない群と有意差がなく(PR1.01〈0.84~1.19〉)、トレーニングの頻度が週3回以上の群でのみ、大量飲酒該当者率の有意な上昇(PR1.10〈1.04~1.16〉)が認められた(交互作用p=0.009)。
それに対してチームスポーツの場合、トレーニング頻度が週に3回以上の群(PR1.05〈1.01~1.10〉)のみでなく、トレーニング頻度が週に1~2回の群でも大量飲酒該当者率が有意に高く(PR1.16〈1.11~1.21)、むしろ後者で当者率が高いという有意な交互作用が認められた(交互作用p<0.001)。
この点について著者らは、チームスポーツに参加していてそのトレーニング頻度が低い人は、社会的な理由で参加している人が多く含まれているのではないかとの考察を加えている。つまり、人付き合いを兼ねてチームスポーツを行っている人に、大量飲酒者が多い可能性がありそうだ。
なお、著者らは、一部のスポーツへの参加が大量飲酒と関連していることを示した本研究の結果が、「スポーツの実践を非難する意図で用いられるべきではない」と付言している。
文献情報
原題のタイトルは、「Is Binge Drinking Associated With Specific Types of Exercise and Free Time Sports? A Pooled Analysis With 718,147 Adults」。〔J Phys Act Health. 2023 Jul 27;1-7〕
原文はこちら(Human Kinetics)