180km以上のウルトラマラソンのランナーは日本が最多 2000~2020年の大会データの分析
2000~2020年に世界各地で開催された、レース距離が180kmを超えるウルトラマラソンのデータを統合して、イベント開催数や参加者の記録の推移などを分析した結果が報告された。イベント数は過去10年で欧州を中心に増加したこと、平均パフォーマンスは低下しているが、これは参加者の増加によるものと考えられることなどが報告されている。また、各イベントの上位20位以内のランナーを国籍別にみた場合、日本が最多だという。
この研究は、ウルトラマラソンに関するデータを取りまとめたドイツウルトラマラソン協会(Deutsche Ultramarathon-Vereinigung)のサイト(https://statistik.d-u-v.org/)の情報を用いて行われた。イベントの開催情報に関しては2000~2020年のデータを分析し、参加者の記録については2010~2020年のデータを分析対象とした。イベント件数は1,202件であり、参加者データは各イベントの上位20位以内の1万3,300人のアスリート(男性1万1,646人、女性1,654人)の成績を分析した。
開催地域(大陸・国)別のイベント数、ランナーの国籍・性別
開催地の大陸は欧州が最多
開催地を大陸別にみると、最多は欧州で37%、次いでアジア30%、北米25%の3大陸が大半を占めていた。欧州では英国か最多でギリシャ、フランスの順、アジアでは日本が最多で韓国、インドの順、北米は大半が米国だった。
ランナーの国籍は日本が最多
ランナーの国籍は、日本がトップで2,126人、次いで米国が1,669人、英国が1,251人、フランス1,031人、韓国931人、ドイツ700人、イタリア653人、ブラジル549人などだった。
論文の考察として述べられているところによると、10kmマラソン、ハーフマラソン、マラソン、100kmウルトラマラソンの国籍別競技人口も日本が最多と報告されているという。一方、アフリカ大陸はマラソンにおいてトップランナーを多く輩出しているが、ウルトラマラソンのイベント数は少ないとのことだ。
イベント数は2010年以降、361km以上のレースは2016年以降に増加
そのイベント数の年次推移をみると、2000~2009年の10年間は比較的緩徐に増加し、2010年以降に急速に増加して、2019年には約200件とピークに達していた。2020年は100件未満に減少していた。これは新型コロナ感染症パンデミックの影響によるもの。レース距離を、180~240km、241~300km、301~360km、361km以上という四つのカテゴリーに分けると、最も多いカテゴリーは180~240kmだが、2016年以降には361km以上のイベントが増加していた。
女性ランナーの絶対数は少ないが増加はより顕著
選手の性別については、女性の占める割合としてみると、2010年は12%であったものが2020年は16%と4ポイント上昇していた。絶対数では、2011年を基準として2019年には男性は405%増、女性は467%増だった。
最多年齢層は41~45歳
年齢については5歳刻みでみると、男性・女性ともに41~45歳が最多で、46~50歳がそれに続き、以下、36~40歳、51~55歳、31~35歳、56~60歳だった。
パフォーマンスの変化
平均走行速度はレース距離と逆相関
競技中の平均速度は、レース距離が長いイベントほど遅いという逆相関がみられた(男性は平均速度=-0.003743×レース距離+6,739、女性-0.002749×レース距離+6,269)。レース距離を、前記の四つのカテゴリーに分けて性別に平均速度を比較すると、前三者はいずれも男性の平均速度のほうが有意に速かったが、361km以上のレースについては女性の平均速度のほうが有意に速かった。
経年的には平均走行速度が低下傾向
次に、平均速度を経年的に比較すると、男性は2014年が最速で女性は2012年が最速であって、男性・女性ともに徐々に低下する傾向があり、2017年以降はそれ以前よりも有意に遅くなっていた。
著者によると、180km以上のウルトラマラソンにおけるピークパフォーマンス年齢は平均45歳であり、100kmウルトラマラソンより5歳高く、マラソンとの比較では10歳高齢で、ハーフマラソンより20歳高齢だという。これは、レース距離の長いイベントの参加者の大半は、そのイベントに参加する以前に、より短距離のマラソン大会で実績を積んでから挑戦するためだという。
なお、今回の分析で観察されたランナーの平均速度の経年的な低下は、イベント参加者数の増加に伴い、ピークパフォーマンスの年齢から離れた年齢層の参加者の割合が増えている影響であって、ウルトラマラソンの進化が停滞していることを意味するものではないと解説されている。
より詳細な分析が今後の課題
著者らによると本研究は、レース距離が180km以上のウルトラマラソンの近年の傾向を分析した初の研究だという。また、このトピックに関する今後の研究では、選手の有酸素能力、筋肉量、脂肪量、トレーニング経験など、より多くのパラメーターを含めた分析が求められると述べている。加えて、本研究では上位20位以内のランナーを解析対象としたが、参加者全員を対象とした研究や、開催地の気候などの環境条件とレース成績の関係などの研究の必要性も指摘している。
文献情報
原題のタイトルは、「Ultramarathon Evaluation above 180 km in relation to Peak Age and Performance」。〔Biomed Res Int. 2022 Aug 26;2022:1036775〕
原文はこちら(Hindawi)