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高地トレーニング法「Live High-Train Low」提唱から25年、明らかになった10項目の教訓

持久系エリートアスリートのメダル獲得の手段として用いられている、「高い地域に滞在して、トレーニングは低地で行う」という手法に関して、これまで明らかにされてきたポイントをまとめたレビュー論文が「International journal of sports physiology and performance」に掲載された。要旨を紹介する。

高地トレーニング法「Live High-Train Low」提唱から25年、明らかになった10項目の教訓

「高地トレーニング」が「高地滞在-低地トレーニング」へ

1960年代後半以来、高地環境で生活しながらトレーニングを行う古典的な形式の高地トレーニング方法「Live High-Train Low(LHTL)」は、現在でもメダルを狙う多くのエリートアスリートが実践している。1990年代に入ると、LHTLモデルの有用性が報告され、高地トレーニングのパラダイムシフトをもたらした。LHTLにより、低酸素のためにトレーニング強度が低下してしまうというデメリットを避けながら、低酸素状態への順応が可能となる。

LHTLというモデルが提案されて25年が経過し、現在、この手法は持久系エリートアスリートの間で最も支持される高地トレーニング方法となっている。このタイミングで発表された本論文の著者によると、「このレビューは、血液学的反応およびパフォーマンスを最大化するためのLHTLの有用性について、網羅的な評価を目的とするものではなく、これまで得られた多くの知見の中から、重要な10項目を『Lesson』としてまとめ、世界クラスのアスリートによるLHTLキャンプの成功例を提示すること」とされている。

Lesson1:最適な標高や期間は比較的狭い範囲に限られる可能性がある

低酸素による生理学的適応を刺激しパフォーマンスを向上させるには、十分な「低酸素環境」(高い標高、期間)が必要であるということが古くから知られていた。標高1,800m未満では生理学的適応に十分な低酸素刺激が得られない可能性がある。一方で、標高3,000mを超えると回復プロセスが損なわれる可能性が高くなる。持続時間に関しては、1日12~14時間未満、2週間未満(合計200時間未満)では不十分であり、3~4週間(300時間以上)が必要と考えられる。

Lesson2:反応は個人差が大きく、その差を生じさせるメカニズムは依然として不明

すべてのアスリートがLHTLから平等に恩恵を受けるわけではない。有効性にはばらつきがあり、また中にはより低い低酸素環境で有益な反応を示すアスリートもいる。サポートチームは常に、個々のアスリートの生理学的反応、行っている競技特有の要件、および心理的反応に基づいて、LHTLの適応や手法を検討する必要がある。

Lesson3:鉄代謝のスクリーニングは必須

鉄欠乏状態では高高度に対する赤血球生成反応が損なわれるため、LHTLキャンプの前に、すべてのアスリートの鉄代謝状態をスクリーニングすることが絶対に必要。血清フェリチンが女性20μg/L未満、男性30μg/L未満では、高地によるヘモグロビンの増加をほとんど期待できない。キャンプの2~3週間前までに鉄状態を正常化する必要があり、理想的にはキャンプ中は継続的にモニタリングする必要がある。

Lesson4:トレーニング負荷をモニタリングし調整する

LHTLによる介入の前、介入中、介入後に、トレーニング負荷(量と強度)をモニタリングし、その結果に応じて調整する必要がある。

Lesson5:オーバートレーニング回避のため、睡眠の質、疲労、水分補給に留意する

LHTLキャンプでは一般的に、上気道および消化管の感染症の頻度が増加する。また、キャンプ期間中に家族(配偶者または両親など)、および通常のトレーニング環境から離れることが、アスリートにとって問題となる可能性があるという点が、しばしば見落とされている。生理学的問題だけでなく、心理社会的問題(気分状態など)に注意を払うことが、効果的なLHTLの実施につながる。

Lesson6:パフォーマンス評価のタイミング

LHTLキャンプのタイミングは、アスリートの競技スケジュールに合わせて組まれることが多いが、どのタイミングで行うことが最適かという点について、実践者全員がそれぞれ意見を持っている。LHTLキャンプ後のパフォーマンスの変化について、エビデンスレベルは低いが、キャンプ直後(第1週)に最初の改善がみられるのに続き、短期間のパフォーマンスの低下(第2週)の後、長期間(第3~5週)のパフォーマンス向上が報告されることがよくある。アスリートが競技前のどのタイミングでLHTLキャンプを行うべきかについては個人差が大きい。キャンプ直後に競技に参加する場合、下山前にリフレッシュできるように、高地での最後の数日から1週間のトレーニングは軽量とする必要がある。

Lesson7:LHTL戦略は、自然高度と人工(模擬)高度の双方で実装可能

いくつかの高値トレーニングサイト(例えば日本の湯の丸高原など)は、低地へのアクセスが容易でありLHTLに適しているが、そうでないトレーニングサイトも多い。人工的な高値環境を作り出すことは、高地トレーニング会場への移動に伴う経済的、時間的、物流上の課題を軽減する。さらに、適切な山岳地帯が限られている国のアスリートにとって、実行可能なLHTLオプションとなる。重要なことは、低酸素環境に1日あたり最低12~14時間曝露される必要があるという点だ。

Lesson8:適応メカニズムは多くの場合、パフォーマンスの変化より再現性が高い

LHTL介入後の数週間のパフォーマンスの変化は波状の性質を持っている。ただし、介入後のパフォーマンスの向上が必ずしも同様の傾向をたどるという保証はない。LHTL後の生理学的指標よりもパフォーマンスのばらつきが大きいことは、キャンプ中の蓄積された疲労や高地にさらされた後のトレーニング管理の影響である可能性もある。

Lesson9:LHTLは現在、より幅広いアスリートの間で行われている

持久系アスリート(水泳選手、ランナー、サイクリストなど)が高地トレーニングの最も一般的なユーザーであるが、現在ではより幅広いアスリート(団体競技やラケット競技など)の間でも人気が高まっている。議論の余地はあるが、団体競技アスリートは通常、持久系エリートアスリートと比べてキャンプに入る前の相対的なヘモグロビン値が低いという事実は、LHTL後の赤血球生成反応が実質的に大きなものであることを説明している可能性がある。ただし、団体競技の場合、LHTLが試合の結果にどの程度影響を及ぼしているかを評価することは実質的にほぼ不可能。

Lesson10:暑熱環境への曝露が効果を高める可能性

LHTLモデルとは異なる生物学的反応を用いる「Live Low-Train High」や、暑熱馴化プロトコルなどを補完的な戦略を追加することが、パフォーマンスをより向上させる可能性がある。暑熱馴化との併用の理論的根拠は、熱曝露による血漿量の増加が高地順応の初期段階での利尿作用と、おそらく細胞外液から細胞内液への移動による血漿量の減少を打ち消す可能性があるというもの。

論文ではこれに続き、オリンピックや世界選手権に向けてLHTLを実践しメダルを獲得したアスリートのリストが掲げられている。文末は、「アスリート、コーチ、スポーツ科学者のパートナーシップとしてのLHTLアプローチの進化は、運動パフォーマンスを向上させるためのスポーツ科学実装の優れたモデルである」と結ばれている。

文献情報

原題のタイトルは、「“Living High-Training Low” for Olympic Medal Performance: What Have We Learned 25 Years After Implementation?」。〔Int J Sports Physiol Perform. 2023 Apr 28;1-10〕
原文はこちら(Human Kinetics)

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