食事性炎症指数が高い食生活は、睡眠中に目覚めやすくて再入眠に時間がかかりやすい
炎症を誘発するような食事をとっている人は、就床時刻と起床時刻が遅くて、中途覚醒時間(睡眠中に目覚めてしまい再び眠れるまでの時間)が長いという研究結果が、米国から報告された。これらの関係を人種・民族別でみると、アフリカ系アメリカ人でより相関が強いという。
食事性炎症指数(DII)と睡眠障害の関連を検討
最適な睡眠時間が何時間なのかについて強固なエビデンスはないが、7時間以上とされることが多く、米国睡眠財団(National Sleep Foundation)も7時間睡眠を推奨している。ただし、米国人の35%はそれを満たしていないという。しかし、よく知られているように、睡眠時間の短さなら日本人が世界一短いとされている。
睡眠時間が短いことや睡眠の質の低下は、肥満や心血管代謝性疾患、精神疾患などさまざまな疾患のリスク上昇と関連している。睡眠の時間や質の問題は、日中の覚醒レベルの低下や疲労感の増大につながり、スポーツパフォーマンスへの影響も大きい。また睡眠障害に対して薬物による介入を行った場合は、転倒や骨折、認知症リスクの増大などの副作用が懸念される。
一方、食事が睡眠に影響を与えることも知られている。例えば、高脂肪食が睡眠障害のリスクと関連があることや、高炭水化物食は眠気を誘うものの睡眠効率(就床時間に占める睡眠時間の割合)を低下させるといった研究結果が報告されている。
また、睡眠は全身の炎症状態と関連があり、食事による炎症の誘発または抑制が、睡眠に影響を及ぼす可能性も示されている。これらを背景として、今回紹介する論文の著者らは、食事性炎症指数(dietary inflammatory index;DII)と睡眠障害リスクとの関連を検討した。
なお、食事性炎症指数(DII)は、食事が炎症反応に及ぼす影響を総合的に評価する指標として約2,000件の研究データを基に開発された指標で、欧米諸国ではその妥当性が検証済み。ただし、日本人では、男性には適用可能だが、女性の評価には精度が十分でない可能性を指摘する研究報告もあり、本論文の結果解釈にも注意を要する。
食事性炎症指数(DII)と睡眠習慣・睡眠障害に有意な相関
この研究は、体重と体組成の変化に対する摂取エネルギー量と消費エネルギー量の関連を検討している前向きコホート研究「Energy Balance Study(EBS)」のデータを解析する手法で行われた。
EBS参加者は21~35歳の健康な成人で、BMIが20~35の範囲であり、53.8%が普通体重、31.5%が過体重(国際基準による)、14.8%が肥満。食事摂取状況は、予告なしの抜き打ちで実施された3回(平日2回と週末1回)の24時間思い出し法により評価され、食事性炎症指数(DII)が算出された。
睡眠習慣は、腕に装着するタイプの3軸加速度計と皮膚温センサーなどが一体になったデバイスによって把握した。そのほか、ストレスレベル(perceived stress scale;PSS)や摂食習慣(eating attitudes questionnaire;EAQ)、睡眠の質の標準的評価指標である「ピッツバーグ睡眠の質スコア(Pittsburgh sleep quality index;PSQI)」なども把握した。
なお、食事の炎症抑制・惹起性については、DIIのスコアが-3.0点未満の場合を「抗炎症性が強い」、-3.0~-1.0点未満を「抗炎症が中等度」、-1.0~1.0点未満を「抗炎症性が弱い」、1.0点以上を「炎症惹起性」と定義した。
抗炎症性の食事を摂っている人は、ストレスレベルが低く座位行動が少ない
解析対象は427人であり、年齢は27.6±3.8歳、男性49%、BMI25.4±3.8で、46%が既婚、85%が子供なし、13%がアフリカ系アメリカ人だった。
食事性炎症指数(DII)の区分は、抗炎症性が強いと判定された群が23.2%、抗炎症が中等度群が24.8%、抗炎症性が弱い群が24.4%、炎症惹起性群が27.2%。炎症惹起性群には女性が多く(p=0.02)、ヨーロッパ系アメリカ人が少なかった(p<0.01)。一方、抗炎症性の食事を摂っている群では、ストレスレベル(PSSスコア)が低く(p=0.05)、座位行動時間が短かく(p=0.02)、食事に関する抑制的態度のスコア(EAQのサブスコア)が高かった(p<0.01)。
DIIが高いほど夜更かしで中途覚醒時間が長い
睡眠習慣や睡眠障害との関連では、就床時刻と起床時刻、および中途覚醒時間との間に有意な正の相関がみられた。つまり、食事性炎症指数(DII)が高い(炎症惹起性の)食事であるほど、就床時刻と起床時刻が遅くて中途覚醒時間が多かった。関連は以下のとおり。就床時刻はβ=2.8403(p<0.01)、起床時刻はβ=2.8459(p<0.01)、中途覚醒時間はβ=0.7966(p=0.02)。
それに対して、睡眠時間、入眠潜時(就床から入眠までに要する時間)、睡眠効率(就床時間に占める睡眠時間の割合)、社会的時差ボケとは有意な関連がなかった。また、ピッツバーグスコア(PSQI)が高いほど(睡眠の質の低下しているほど)、DIIが高い傾向にあったものの、有意水準には至らなかった(p=0.08)。
これらの関係を人種/民族でサブグループ化して解析すると、ヨーロッパ系アメリカ人では関連が非有意になり、アフリカ系アメリカ人ではより有意性が強くなった。
著者らは、「炎症を引き起こしやすい食事は睡眠の質を低下させる可能性が示唆された。今後の研究では、食事の炎症惹起性が睡眠の質の低下を介して、さらに健康アウトカムにも影響を与えているのかを検討する必要がある」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Associations between the Dietary Inflammatory Index and Sleep Metrics in the Energy Balance Study (EBS)」。〔Nutrients. 2023 Jan 13;15(2):419〕
原文はこちら(MDPI)