栄養学の学生は「サステナビリティー」をどのように学んでいるのか? スコーピングレビュー
栄養学を学んでいる学生が、「サステナビリティ(持続可能性)」をどのように学び、どのように学習成果が評価されているかを検討した結果のナラティブレビューが報告された。オーストラリアの研究者らによるもので、文献検索から特定された12報の研究に一貫性はなく、国連の目標として掲げられている「SDGs」への言及もわずかだったと述べられている。
栄養士には、SDGsの17項目すべてに、積極的に関与するチャンスがある
「サステナビリティ」や「SDGs」といった言葉は、流行語大賞にノミネートされるなど、すでに国内での認知度の高い言葉となった。改めて述べるまでもないが、サステナビリティは持続可能性と訳され、SDGsは2015年の国連サミットで全会一致により採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals;SDGs)」のことで、2030年までの達成を目指す国際目標として、17のゴール、169のターゲットが掲げられている。
これらの目標の中には、保健や衛生といった栄養と直接的な関連があるものが含まれているだけでなく、持続可能な消費と生産、貧困、海洋資源、教育など、栄養と何らかのつながりのあるテーマが多く含まれている。今回紹介する論文の著者らは、「おそらく、栄養士は17項目の目標のすべてに積極的に関与することが可能」と述べている。また、複数の国の栄養関連学術組織が、SDGsの達成に向けて行動していくことを表明している。
ただし、今日のフードシステムは極めて複雑であり、フードシステム全体でSDGs達成に向けて舵を切るには、極めて多くの利害関係者が垣根を越えて協力しなければならない。このような大きな変革のうねりの中で、栄養士は主体的な推進者となることが期待されている。
では、その期待がかけられている栄養士は、養成される課程においてサステナビリティについて、どのように、どのくらい学んでいて、学習成果の評価はどのように行われているのだろうか? この疑問の答を探ることが、今回紹介する論文の研究目的。研究の手法は、システマティックレビューを実施する状況に至っていない比較的新しいテーマについて、情報の整理や課題の抽出を目的とする手法である、スコーピングレビューによった。システマティックレビューとメタ解析の優先報告で示されているスコーピングレビューのガイドライン(PRISMA-ScR)に則して実施されている。
文献データベースおよび灰色文献を渉猟し12報を抽出
Cochrane、EMBASE、MEDLINE、Scopus、Web of Scienceなどの8件の文献データベースを用いて、それぞれのスタートから2022年3月末までに収載された論文を対象として検索。このほかに、灰色文献(商業ルートで入手困難な文献)も渉猟するためGoogle Scholarを利用し、最初の80ページに表示された情報を糸口とするハンドサーチも実施した。論文や記事の言語や発表された時期に制限は設けなかった。
データベース検索では1,640報がヒットし、重複削除、スクリーニング後、22報を全文精査して9報を適格と判断した。灰色文献から3件の情報を追加し、計12件をレビューの対象とした。
それらの報告は北米からのものが多く、米国とカナダが各4件であり、他にオーストラリアから2件、ニュージーランドとスペインから各1件。研究手法は6件が事例研究報告、4件が介入研究、その他は探索的研究や記述的研究。
栄養学においてサステナビリティは新しいテーマではないが、変化への対応が遅い
サステナビリティに関する講義のコマ数や実施タイミング(学年)は報告ごとに異なっており、一貫性は認められなかった。何らかの学習コースの一部としてサステナビリティが含まれていたり、複数のコースにまたがって取り込まれているケースが多かった。12件中2件は、単一年ではなく、栄養学の修得過程の複数年にわたって継続的な教育が行われていることを示していた。
一方、12件中9件は、国連のSDGsに関する目標が策定された以降に発表されていたが、それらのうちSDGs目標に言及しているのは2件のみであり、詳しい解説がなされたと判断されるものは1件のみだった。また、国際連合教育科学文化機関(United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization;UNESCO)が策定したSDGsに関する教育のガイドラインへの言及のある報告は存在しなかった。
学習の成果の確認方法については、カークパトリックモデル(Kirkpatrick Model)という代表的な教育効果の評価手法での把握を試みたが、短期的な学生の反応を評価したものが多いという状況にとどまっていた。
栄養学を学んだ学生が持続可能な世界で活躍するために
サステナビリティという言葉で表される、いまを生きる人類共通のテーマは、近年になって急速に注目されるようになったと感じている人が多いのではないだろうか。しかし本論文の著者によると、栄養学においてこれは決して新しい概念ではなく、1986年の時点で問題提起され、2007年には米国栄養士会が生態系のサステナビリティに関する意見書を報告しているという。それにもかかわらず今回の研究では、栄養学の領域でのサステナビリティの教育の変化は遅々としていると指摘。また、その場しのぎ的にプログラムを追加しているのではないかとの懸念を表している。
結論は、「栄養学のカリキュラムにサステナビリティを広くとり入れることが重要であり、それによって、栄養学を修得した卒業生が、より持続可能な世界で専門的な活動に従事することが可能になる」と結ばれている。
文献情報
原題のタイトルは、「How do dietetics students learn about sustainability? A scoping review」。〔Nutr Diet. 2023 Jan 29〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)