食事性炎症指数(DII)の日本人男性への適用は可能だが、女性では要検討
がんや循環器疾患などの生活習慣病を中心とするさまざまな疾患に、軽微な炎症反応が長期間持続している状態「慢性炎症」が関与している。この慢性炎症をもたらす原因として多くの因子の存在が示されているが、そのうちの1つに食習慣が該当する。
食事が炎症反応に及ぼす影響を総合的に評価する指標として約2,000件の研究データを基に開発された「dietary inflammatory index(DII)」(食事性炎症指数)は、欧米諸国ではその妥当性が検証済みで、疾患との関連の研究が開始されている。しかし、日本人を対象にDIIの妥当性を検討した報告はこれまでなかった。
こうした中、国立がん研究センターの予防研究グループは、多目的コホート研究「JPHC(japan public health center)研究」で行われた食事記録調査のデータを用いてDIIの妥当性を検討した。その結果が「Nutrition」に報告されるとともに、同センターのWebサイトにニュースリリースが掲載された。
JPHC研究の記録から算出したDIIスコアと、hsCRP、IL-6の関連を検討
JPHC研究は、1989年度から岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部(旧石川)、葛飾区(旧東京都葛飾)の各保健所管内の当時40~59歳だった住民約6万人を対象とするコホート研究(コホートⅠ)と、1992年度から茨城県水戸(旧笠間)、新潟県長岡(旧柏崎)、高知県中央東(旧土佐山田)、長崎県上五島(旧有川)、沖縄県宮古、大阪府吹田の各保健所管内の当時40~69歳だった住人約8万人を対象とするコホート研究(コホートⅡ)からなる、多目的コホート研究。対象者に対して、5年ごとのアンケート調査および健診、詳細な食事記録調査等を行い、また研究開始後30年間の計画で死因・死亡場所等の把握、がんや循環器疾患(脳卒中、心筋梗塞)等の罹患状況の把握を継続している。
今回の報告は、このJPHC研究の参加者のうち、5年後調査で行われた食物摂取頻度調査(food frequency questionnaire;FFQ)に1年間隔で2回協力し、さらに28日間の食事記録調査(dietary record;DR)および採血検査に協力した565名(コホートⅠから215名、コホートⅡから350名)を対象とした。コホートⅠ、コホートⅡごとにDIIスコアを算出し、血中炎症マーカーである高感度C反応性蛋白(hs-CRP)およびインターロイキン-6(IL-6)との関連を検討した。
なお、DIIスコアは負の値であるほど炎症を抑える食事であると評価され、正の値であるほど炎症を促進する食事であると評価される。
男性はコホートⅠ・コホートⅡでIL-6と有意に相関、hsCRPとは非有意
FFQとDRから計算したDIIスコア同士の相関係数(1に近いほど簡易なFFQでの摂取量推計が確からしいことを示す)は、コホートⅠでは男性0.35、女性0.39、コホートⅡでは男性0.48、女性0.47だった。DIIスコアで五分位に分け、2つの調査方法間での一致度を確認したところ、男女ともに高い一致度が認められた(κ係数0.82~0.86)。
DIIスコアと炎症バイオマーカーの関連を、年齢、BMI、身体活動量、喫煙習慣で調整のうえ検討すると、男性ではコホートⅠ、コホートⅡのいずれにおいても、DRとFFQの両者から算出したDIIスコアがそれぞれ高いほどIL-6値が高く、炎症反応が強いという、統計学的に有意な正の関連がみられた。ただし、hs-CRPとの間には有意な関連がみられなかった。
女性はコホートⅠ・コホートⅡのすべて非有意
一方、女性ではすべての検討で、有意な関連がみられなかった。
この理由について研究グループでは、DIIスコアの平均値が男性に比べて低いことから統計的有意差が生じにくかった可能性や、炎症状態に影響を与える月経周期やホルモン補充療法の有無を調整できなかったことが影響している可能性、また一般に日本人の慢性全身性炎症のレベルが欧米人より低いことを反映している可能性を考察している。
男性では日本人でもDIIスコアが基礎資料となり得る
今回の研究結果から、日本人男性においてもDRおよびFFQから計算したDIIスコアが、疫学研究を行うために必要な、ある程度の正確さがあることがわかった。なお、男性においてhs-CRPではなくIL-6で関連がみられた理由については、「IL-6がhs-CRPの上流マーカーであり、循環器系疾患ではCRPよりもIL-6で関連がみられるという報告があることから、IL-6がhs-CRPに比べて敏感な炎症マーカーであったことが影響していると考えられる」という。
日本人女性ではDIIスコアと炎症マーカーの関連は観察されなかった。今後、日本人女性を対象とした研究でDIIスコアを用いるには、さらなる検討が必要であると言えそうだ。
結論として、著者らは「この結果は今後、多目的コホート研究でDIIスコアと炎症がリスクとなる病気との関連を分析する際の重要な基礎資料となる」と述べている。
プレスリリース
食事調査票から得られた食事由来の炎症修飾能の正確さについて(国立がん研究センター)
文献情報
原題のタイトルは、「Validating the dietary inflammatory index using inflammatory biomarkers in a Japanese population: A cross-sectional study of the JPHC-FFQ validation study」。〔Nutrition. 2020 Jan;69:110569〕