短期間のケトジェニック食(低炭水化物・高脂肪食)で骨代謝マーカーに負の影響
運動は一般的に骨に対しプラスの効果をもたらすにもかかわらず、高強度スポーツにおいては骨障害の発生も珍しくない。これには不適切な栄養摂取が一部関与している可能性が考えられる。具体的には、エネルギー可用性が低いこと、ビタミンDやカルシウム摂取が不十分なことなどである。
さらに、炭水化物の可用性も骨の健康に関与する可能性がある。いくつかの研究から、グリコーゲンの可用性が正常または高い状態に比較し、可用性が低い状態での持久運動によって筋肉からのインターロイキン-6(IL-6)の放出が刺激されることが示されている。IL-6は破骨細胞を活性化させ骨吸収を亢進させる。
しかし運動時に炭水化物可用性が低いことによる骨代謝マーカーへの影響は明確にされていない。著者らはこの点を明らかにするため、以下の検討を行った。
ワールドクラスの競歩選手で検討
研究の対象は、競歩選手30名(男性25名、女性5名)。2016年夏季オリンピックおよび2017年世界選手権の準備期間中に募集されたワールドクラスのアスリートだ。年齢は27.7±3.4歳、BMI20.6±1.7。これら30名を対象とする検討で計32セットのデータを収集した。
参加者の好みに基づき、高炭水化物食(HCHO)を摂取する条件(n=17)と、同エネルギー量の低炭水化物高脂肪食(LCHF)を摂取する条件(n=19)で、3.5週間にわたり食事介入と強化練習を課した。LCHF条件では3.5週間の介入後にHCHOによる急性回復を行った。
HCHOは、エネルギー量220kJ/kg(52.6kcal/kg)、炭水化物8.6g/kg、蛋白質1.2g/kg、LCHFは、エネルギー量は同じく220kJ/kg、炭水化物0.5g/kg、蛋白質1.2g/kg、脂質75~80%エネルギー量。これらの食事はスポーツ栄養士、プロの調理人、運動生理学専門家のチームによりアスリートごとに個別化され提供された。
介入前のベースライン時、3.5週間の介入終了の翌日、および介入終了から3日後(LCHF条件では急性回復後にあたる)に、次のテストを行った。
一晩の絶食後の朝6~8時に採血および朝食(炭水化物2g/kgまたは等エネルギー量のLCHF)を摂取。その2時間後に2度目の採血を行い、約50kmのレースペース(75%VO2max)で男性は25km、女性は19kmを走行。走行直後の3度目の採血に続いて30分後にリカバリーシェイク(炭水化物1.5g/kg+蛋白質0.3g/kg、または炭水化物と等エネルギー量のLCHF+蛋白質0.3g/kg)を摂取。走行終了から3時間経過した時点で4度目となる最後の採血を実施。
低炭水化物・高脂肪食(LCHF)条件では、骨吸収が亢進し骨形成が低下
骨代謝マーカーは、骨吸収マーカーとしてI型コラーゲン架橋C-テロペプチド(CTX)、骨形成マーカーとしてI型プロコラーゲン-N-プロペプチド(PINP)、およびオステオカルシン(OC)を測定した。介入前後または2つの条件間で有意差がみられた点を中心にまとめる。
まず、介入終了後の空腹時値をみると、LCHFでは骨吸収マーカーのCTXがベースラインから有意に上昇し(p=0.007)、骨形成マーカーのP1NPとOCはともに有意に減少していた(p<0.001)。一方、HCHOではベースライン時から有意な変化はなく、P1NPとOCに関しては両条件で有意な群間差が生じていた(ともにp<0.001)。
次に運動負荷後の値をみると、LCHFではCTXがベースライン値より有意に高く(p=0.001)、またHCHOと比べても有意な上昇が認められた(p<0.001)。一方、P1NPとOCはLCHFで有意な低下が認められた(P1NPは対ベースライン、対HCHOがともにp<0.001、OCはともにp<0.0001)。
運動負荷による変動曲線下面積(AUC)をみると、介入直後において、CTXのAUCはHCHOよりLCHFが有意に高値たった(p=0.01)。ただし、介入終了からHCHOによる急性回復を経た3日後の検討では、AUCが減少しHCHOとの有意差は消失した。
しかしP1NPとOCのAUCについては、介入直後のLCHFがHCHOより低値なだけでなく(P1NPはp<0.01、OCはp<0.001)、HCHOによる急性回復を経た3日後も変化がなく、有意に低いままだった(ともにp<0.01)。
著者らはこれら一連の結果のまとめとして、「エリート持久力アスリートの3.5週間ケトジェニックLCHF食は、安静時および長時間の高強度運動セッション中に骨形成/吸収マーカーに悪影響を与えることを初めて示した。また、炭水化物の可用性の急性回復を行っても、その効果は部分的な範囲にとどまる。アスリートだけでなく運動を行う一般対象においても、後の人生の骨の状態が悪いことに起因する負傷リスクが懸念されることから、ケトジェニック食による骨代謝の影響についてさらなる検討が必要」と結論を述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「A Short-Term Ketogenic Diet Impairs Markers of Bone Health in Response to Exercise」。〔Front Endocrinol (Lausanne). 2020 Jan 21;10:880〕