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エリートスポーツとステロイド使用のナラティブレビュー

グルココルチコイド(glucocorticoid。ステロイドとほぼ同義。以下略GC)はさまざまな疾患の治療において、しばしば著効を示す。しかしスポーツの領域においては、運動パフォーマンスを向上させる可能性があるという懸念があり、長年議論されてきている。世界アンチドーピング機構(world anti-doping code;WADA)は、ステロイド使用について研究・検討を継続しており、また疾患治療との両立のため適正使用のガイドライン策定を進めるスポーツ連盟も存在する。アスリートのGC使用については、スポーツにおける公正さの尊重という視点のみでなく、アスリートの健康を守るためにも管理が必要だ。

エリートスポーツとステロイド使用のナラティブレビュー

スポーツコミュニティには、疾患治療のためにGCの使用は、臨床的に必要があるのであればアスリートであっても完全に許容されると主張する人もいれば、GCの使用が必要な状態は健常者スポーツ競技会の参加条件とは相いれないと考える人もいる。このような状況の中、本論文は現在のスポーツとGC使用に関わる論点を整理したナラティブレビューとして英国スポーツ運動医学会の「BMJ open sport and exercise medicine」に掲載された。以下はその抜粋。

一般集団およびアスリートにおけるGCの使用状況

GCは一般生活者で最も広く使用されている医薬品の1つであり、注射、経口、経皮、点眼、点耳、点鼻、吸入など、さまざまな剤形・投与経路が存在する。臨床においては主に、抗炎症・免疫抑制剤として使用されている。

アスリート集団においても、筋骨格系傷害・疾患または喘息の有病率が増加しており、GCの使用は驚くに当たらない。しかし、アスリート人口におけるGCの使用の実態を把握するのに十分な調査データは存在しない。1990年代から2000年代初頭のオリンピック競技大会に先立ち、国際オリンピック委員会(international olympic committee;IOC)が分析した結果によると、エリートアスリートの少なくとも5~12%が何かしらの投与経路によるGC治療を受けており、主に吸入で用いられていた。

アンチドーピング規制

GCの使用は1985年に初めてIOCによって禁止された。全身投与、つまり経口、注腸、筋肉、または静脈経路で投与された場合、競技会への参加が禁止される。全身投与でない場合は(関節内および他の関節周囲注射を含む)は局所投与とみなされ、競技会への参加は禁止されない。尿検体中のGCレベルが30ng/mLを超えると、WADAによって違反が疑われる分析報告(Adverse Analytical Findings:AAF)がなされる。

GCの全身投与はパフォーマンスを向上させるのか?

歴史的にみて、アスリートの一部にスポーツ競技でのメリット、具体的にはパフォーマンスの向上を狙い、GCが利用されたことは疑いない。ところで、GCはスポーツパフォーマンスを本当に向上するのだろうか。

実は、GCの短期間全身投与によるパフォーマンス向上効果のエビデンスは存在しない。無作為化二重盲検クロスオーバー研究があり、高用量の経口GCによって1週間という短期間でパフォーマンスを改善できることを示唆した報告があるが、その投与量はドーピング検査で容易に検出される量だ。

有害事象とパフォーマンスへの悪影響

GCによる有害事象は、ヒトの生体諸機能のほぼすべてに影響を及ぼし、副腎不全、免疫不全、骨粗鬆症、筋肉消耗、骨・筋障害、電解質・栄養代謝の不均衡、緑内障および白内障等々が起こり得る。アスリートへのGC投与を考える時、重要なことは、これらの症状は、アスリートのオーバートレーニング症候群として生じている場合に、アスリート本人および医療関係者がそれを認識できなくなることがあることだ。

治療使用特例(TUE)

疾患治療のためにGCが必要な場合、治療使用特例(therapeutic use exemptions;TUE)を申請し認められれば、薬物の使用が許可される。しかし許可を得るには、申請事項に関連する医学領域の専門家・医師で構成されるTUE委員会の審査を通過しなければならない。

ところで、TUEの乱用が蔓延しているとメディアで報道されることがあるが、実情はエリートアスリートによるTUE申請は稀である。過去4回のオリンピックでのTUE数は、約1.2%で安定している。なお、TUEに絡む過去の不正行為の多くがサイクリングで報告されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Glucocorticoids in elite sport: current status, controversies and innovative management strategies--a narrative review 」。〔Br J Sports Med. 2020 Jan;54(1):8-12〕

原文はこちら(BMJ Publishing)

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