マラソン完走直後はアキレス腱が薄くなっている ロンドンマラソンでの調査結果
マラソンを走り切った後には、アキレス腱が有意に薄くなっているとする研究結果が報告された。ロンドンマラソン参加者を対象とした研究の結果であり、著者らはメカニズムとして体液量の減少による影響の可能性を考察として述べ、水分量が枯渇した状態の腱への負荷は腱障害のリスクを高めるのではないかとしている。
マラソンによってアキレス腱の厚さは影響を受けるのか?
アキレス腱炎はアスリートに多い腱障害であり、とくにランナーに多い。病因として、アキレス腱への過度の反復する負荷が想定されている。
スポーツを行った後にアキレス腱の厚さが減少するとした複数の研究結果がこれまでに報告されている。腱の厚さの減少は体液量が失われたことを示していると考えられ、そのような状態では腱障害のリスクを高める可能性がある。
マラソンに関しては、ゴールから40時間後にアキレス腱の厚さを評価した報告がある。その報告では、アキレス腱の前後径に有意な変化は生じていなかったと結論されていた。ただし40時間経過した場合、その間に体液量はかなりの程度補正されていると考えられる。それに対して今回紹介する論文の著者らは、マラソンをゴールした直後にアキレス腱の厚さを評価した。
ロンドン大会を3時間45分前後で完走した21人で検討
この研究は、ロンドンマラソンに参加した経験の豊富な25人のランナーを対象に行われた。全員が過去5年間、週平均20km以上(範囲20~45km)継続的に走行している、地元ロンドンのクラブ所属ランナー。喫煙者、およびアキレス腱の状態に影響を及ぼす可能性のある薬剤(フルオロキノロン、スタチン)が処方されている人は除外された。
ロンドンマラソン参加前にベースライン調査として、マラソン参加登録センターにおいて、検査技師がアキレス腱の厚さをエコーで測定。マラソン完走後、5~15分以内に再度同様に測定して変化を検討した。
25人のうち4人は大会参加後の画像検査を受けなかったため、解析は21人で行われた。その対象者の主な特徴は、年齢が中央値40歳(四分位範囲13)、直近のトレーニングでの走行距離が同58km(20)であり、マラソンの記録は同3時間45分(33)。マラソン走行前のアキレス腱の前後径は、同5.3mm(1.0)だった。
ゴール後には、21人、41件の測定データを得られた。1人は片側のアキレス腱に断裂の既往を示唆する所見が認められたため、評価の対象外とした。
平均で13%、アキレス腱の前後径が減少
41件のデータのうち、ベースライン時(マラソン走行前)時点で10件に低エコー領域の異常所見が認められ、21人中5人がアキレス腱に痛みを有していた。
ゴール後のアキレス腱の前後径は、中央値5mm(四分位範囲1)であり、ベースラインから有意に減少していた(p=0.02)。変化量の平均は0.7mm、-13%だった。なお、マラソン完走前後で、新たな異常所見(低エコー領域)の割合(34%)や、アキレス腱の痛みを有するランナーの割合(12%)に、変化はなかった。
怪我のリスクや回復との関連の有無の検討が求められる
研究結果は以上だが、著者らは以下のような考察を加えている。
まず、マラソン走行の前後でアキレス腱の厚さが薄くなったことは、腱から水分が喪失したことを表している可能性があるとしている。ただ、既報研究によると、5kmまたは30分の走行ではアキレス腱の厚さに有意な変化は生じなかったというデータがあるという。著者らは、それらの研究と今回の研究の相違点として、走行距離や時間が大きく異なることを上げている。比較的短い距離や短時間の走行では、たとえアキレス腱の水分が若干失われたとしても、すぐに水分は再分布され、厚さの変化はみられなくなってしまうと考えられるとのことだ。
そして、アキレス腱の水分が失われた状態では、腱周囲の個体成分からの圧迫に対する保護の働きが低下して、腱障害が起きやすくなるのではないかと述べている。これらの考察のうえで、「本研究結果は腱障害のメカニズムに関する新たな示唆を与えるものと言え、マラソン走行後の怪我の予防と回復戦略に影響を与える可能性がある」と、論文の結論をまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Achilles tendon thickness reduces immediately after a marathon」。〔J Orthop Surg Res. 2022 Dec 23;17(1):562〕
原文はこちら(Springer Nature)