「バレリーナはアイスを食べられるのか?」女性バレエダンサーの摂食障害と身体イメージの報告
“Can A Ballerina Eat Ice Cream?”(バレリーナはアイスクリームを食べられるのか?)というタイトルの論文を紹介する。女性バレエダンサーが、日常の食事をどのように考え、ボディーイメージをどうとらえているかを、自記式アンケートで定量的に、かつグループインタビューで定性的に検討した、混合研究法によるブラジルからの報告。
バレリーナの食事と摂食障害についての混合研究法によるアプローチ
摂食障害は複数の因子が関連し発症する障害で、健康障害と死亡リスクの上昇に関連している。スポーツアスリートは摂食障害の有病率が一般人口より高く、女性や審美系スポーツ選手でより高い。
アスリートの摂食障害は健康とパフォーマンスに重大な影響を及ぼすと考えられる。具体的には、トレーニング開始後早期の疲労、回復の遅延、体温調節障害、有酸素パフォーマンスの低下、骨量現象、易感染性、貧血、消化器障害、脱水症、うつ病、不安症などとの関連が指摘されている。
クラシックバレエは断続的な身体的負荷の要求が高く、かつ芸術的表現やリフトなどのテクニックのために、バレリーナにはスリムであることが要求される。そのため摂食障害のリスクが高いとされ、これまでにも定性的な研究がされてきている。ただ、本論文の著者によると、定量的手法と定性的手法を組み合わせた混合研究法によるこのトピックの検討はまだされていなかったという。
プロを含む14人のバレリーナ対象に検討
著者らは、ブラジルのサンパウロ州カンピーナスにある4件のバレエ教室に連絡を取り、研究参加協力を依頼。そのうち2校が同意し、その全生徒、14人の女性バレエダンサーが研究に参加した。平均年齢は22±4歳(範囲18~30)で、BMIは20.6±2.1(17.8~22.0)、競技歴14±7年で現在週4回以上レッスンを行っており、14人中8人はプロとして活躍していた。プロ以外の6人も、地域レベルの競技会に出場していた。
定性的な研究は、3人、5人、6人の3グループに分かれ、グループインタビューとして実施された。話しあわれるトピックは、摂食障害の専門家やスポーツ科学の専門家によって事前に設定され、経験が豊富なモデレーターによってすべての質問について話し合われるように進められた。
定量的な研究は以下の自記式アンケートによって行われた。摂食態度調査票(Eating Attitude Test;EAT-26)は26項目の質問からなる調査で、合計スコアは0~78点の範囲であり、21点以上は摂食障害のリスクありと判定される。過食については、33項目からなる過食症調査票(Bulimic Investigatory Test Edinburgh;BITE)や16項目からなる心因性過食(気晴らし食い)の調査票(Binge Eating Scale;BES)で評価。また、自分の体型と理想とするボディーイメージを1(きわめてやせ)~9(きわめて肥満)から選択してもらった。
競技と周囲からのプレッシャーで食行動に影響
定量的研究の結果
摂食態度調査票(EAT-26)からは、14人のうち12人(85.7%)は摂食行動の乱れや摂食障害が認められなかったが、他の2人(14.3%)は摂食行動の乱れと摂食障害のスコアかともに閾値を超えていた。心因性過食(BES)については、1人のプロのダンサーが、中等度の気晴らし食いのリスクを示した。
過食症調査票(BITE)からは、研究参加者のちょうど半数にあたる7人が症状を示し、そのうち6人がプロのダンサーだった。また、2人(14.3%)は臨床的に有意なレベルのスコアを示した。
ボディーイメージの自己認識と理想とするイメージ
ボディーイメージについては、自己認識と理想とするイメージの比較、および、健康体型との比較が行われた。
まず、自己認識と理想イメージが一致しているのは6人(42.9%)だった。自己認識よりやせている体型を理想としたのが7人(50.0%)で、他の1人(7.1%)は反対に、理想よりも自己認識のほうがやせていると回答した。
回答者が理想と考える体型が健康体型と一致しているのは57.1%で、他の42.9%が理想と考える体型は、実際には健康体型よりもやせた体型だった。
定性的研究の結果
摂食行動に関する考え方として、ダンサーは完璧か全く制限を無視するかという「all or nothing」の傾向が認められた。例えば、「食事制限を始めたら最後まで集中力を維持するが、それが終わったら食べたいものは何でも食べる」といった回答があった。
アイスクリームを食べられるのか?
家族や友人、同僚との関係性についても調査がなされた。あるバレリーナは、「ダンサーではない人と一緒にいて、例えば私がアイスクリームを食べたとすると、『えっ、バレリーナってアイスクリームを食べていいの?』と聞かれる」と答えた。これら、周囲の対応が気にならないとするダンサーもいたが、一方では「不快感が引き起こされた」と述べたダンサーもいた。
著者背らは、「よりスリムな体を達成するための制限食やその他の減量戦略の絶え間ない実践は、バレリーナの摂食障害の症状やボディーイメージの不満との関連があった」とまとめている。なお、研究を通して浮かび上がった重要なこととして、「本研究に使用したアンケートは、摂食パターンの乱れの存在を過小評価しているように考えられた」とも述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「“Can A Ballerina Eat Ice Cream?”: A Mixed-Method Study on Eating Attitudes and Body Image in Female Ballet Dancers」。〔Front Nutr. 2022 Jan 6;8:665654〕
原文はこちら(Frontiers Media)