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スポーツイベント会場で売っている加糖飲料のサイズに上限を設けると、観客の消費行動に有意な影響

スポーツイベント会場の中で販売する加糖飲料のサイズに上限を設けることで、観客の加糖飲料の摂取量が有意に減るという研究結果を紹介する。米国で行われた、バスケットボールの大会を対象とした調査の報告。

習慣的に摂取している加糖飲料を低・ノンカロリー飲料に替えるとBMI上昇か オランダで成人8万人、4年間の縦断研究

加糖飲料のサイズに上限を設定すべきか否か

加糖飲料の過剰な摂取が、肥満やメタボリックシンドローム、2型糖尿病、心血管疾患、全死亡などのリスクを高めているとする研究報告が少なくない。加糖飲料は糖質以外の栄養素が乏しいこと、食事とともに摂取されることが多く、摂取エネルギー量過多となりやすいこと、比較的安価なため社会経済的な弱者においてより摂取量が多く、疾病負担の不均衡を招いていることなども指摘されている。とくに米国において、このような問題がかねてから指摘されている。

この状況に対して、ニューヨーク市の保健委員会は2012年に、加糖飲料の販売量を最大16オンス(約473mL)とする上限を設けることを提案した。そのような政策は初めてのことであり、法廷での論争に発展。最終的に、ニューヨーク州最高裁判所によって2014年、そのような規制を設けることは市保健委員会の権限の範囲を超えていると判断され、ニューヨーク市で公的規制として実施されることはなかった。また、同様の提案はカリフォルニアやハワイなどでもなされたが、いずれも公的な規制に至っていない。

一方、仮に加糖飲料のサイズに上限を設けたとしたら、消費者の消費行動にどのような変化が生じるかをシミュレーションする研究が行われた。それらの研究からは、上限設定の有効性を示す結果が示された。

このような論争が行われていた2013年、法廷闘争の最終判断が下される前の段階で、全米バスケットボール協会(NBA)のブルックリンネッツと全米女子米バスケットボール協会(WNBA)のニューヨークリバティーの本拠地である、ニューヨーク州ブルックリンの屋内アリーナ「バークレイズセンター」は、会場内の売店などで販売する加糖飲料のサイズを16オンスとする自主的な取り組みを開始した。今回紹介する論文の研究は、バークレイズセンターでのその取り組みの最中の観客の加糖飲料購入量・摂取量を、同期間の自主規制を行っていなかった他のアリーナの観客と比較した結果の報告。

観客の試合に対する満足度を下げることなく、加糖飲料の摂取量が減る

この研究は、バークレイズセンターで行われたバスケットボールの試合11試合と、比較対照群としてマンハッタンの「マディソンスクエアーガーデン」で行われたバスケットボール9試合の観客を対象に行われた。調査員として、かつてNBAやWNBAで活躍していた元バスケ選手に協力を依頼した。

調査対象とした観客は18歳以上であり、英語での受け答えとアンケートへの回答が可能であることを適格条件とした。なお、計17試合の調査日のうち3日は、双方のアリーナで試合が開催されていた。観客からは、会場内で購入した飲料の種類とサイズ、および、それらをどの程度摂取したかを質問。また、一般的なレストランなどで販売されている飲料のサイズに対する印象(少なすぎる、多すぎるなど)や、サイズを規制することをどのように考えるかなどを質問した。

上限規制に対して、賛成と反対がほぼ拮抗

合計759人が回答した。会場の内訳は、マディソンスクエアーガーデンが295人、バークレイズセンターが464人。年齢は32.9±11.3歳、男性62.6%、回答率は45.9%であり、会場間の有意差はなかった。

バークレイズセンターの回答者のほうが白人が少なくアジア人が多いという有意差があった。また、マディソンスクエアーガーデンの観客のほうが婚姻歴のある割合が高く、教育歴が長かった。ただし、会場内で加糖飲料を購入した観客に限って解析した場合は、それらに有意差はなかった。また、収入、レストランなどで販売されている飲料のサイズに対する印象、上限規制に対する考え方については、全体解析でも有意差がなかった。

上限規制に対する考え方は以下の通り。「賛成」の割合は、自主規制をしていなかったマディソンスクエアーガーデンが22.4%、自主規制していたバークレイズセンターでは33.6%、「反対」は同順に24.4%、29.7%であり、バークレイズセンターのほうが賛成とする人と反対とする人がともに多かった(全体としては前述の通り有意差なし)。なお、「どちらとも言えない」は同順に13.2%、12.5%であり、「規制について知らない」は40.0%、24.1%だった。

上限設定で観客の加糖飲料の購入サイズと摂取量が有意に減少

性別、年齢、BMI、人種/民族、婚姻状況、教育歴、収入を調整後、バークレイズセンターの観客(加糖飲料購入の有無にかかわらず調査に回答した全観客)はマディソンスクエアーガーデンで加糖飲料を購入した観客(同)に比べて、購入したサイズが有意に小さかった(-2.24オンス〈95%CI;-3.95〜-0.53〉、p=0.010)。また、実際に飲んだ量もバークレイズセンターの観客のほうが有意に少なかった(-2.34オンス〈-4.01〜-0.68〉、p=0.006)

加糖飲料を購入した観客のみでの比較でも、バークレイズセンターの観客のほうが有意に購入サイズが小さく(-11.03オンス〈-4.86〜-17.21〉、p<0.001)、摂取量も有意に少なかった(-12.10オンス〈-5.78〜-18.42〉、p<0.001)。

試合の満足度に有意差なし

バスケの試合に対する満足度や、摂取カロリーに対する満足度は、会場間で有意差がなかった。また、バークレイズセンターの観客の中で、サイズの上限が決まっているために加糖飲料を注文しなかったと回答した観客はいなかった。

以上の結果をもとに著者らは、「加糖飲料の販売時点で用量の上限を設定した結果として観客の満足度が低下するというエビデンスは得られなかった。その一方でこの戦略は、消費者の選択性を確保しながら、スポーツアリーナでの加糖飲料の摂取を抑制する方法として有望であることを示している」とまとめている。

文献情報

原題のタイトルは、「Sugar-sweetened beverage purchases and intake at event arenas with and without a portion size cap」。〔Prev Med Rep. 2021 Dec 9;25:101661〕
原文はこちら(Elsevier)

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