男性サッカー選手の栄養摂取量は不足か過剰か? 系統的レビューとUEFA推奨との比較
男性サッカー選手は、欧州サッカー連盟(UEFA)推奨の栄養素摂取量に従って食事を摂っているだろうか? サッカー選手の栄養素摂取量を調査した既報文献のシステマティックレビューから得られた結果と、UEFAの推奨とを比較した、ポーランドの研究者らの論文が報告された。早速、内容をみていこう。
近年、サッカーの試合中の生理的要求がさらに上昇している
サッカーは、全力での疾走とジョギング程度の速度でのランニング、急な方向転換などが90分にわたり連続するスポーツで、試合中の走行距離は9~12kmに及ぶとされる。さらに近年は、試合中に選手に求められるパフォーマンスがより高くなり、生理的要求が増加していることが報告されている。パフォーマンスの向上と試合やトレーニング後の回復のサポートのために、適切な栄養摂取が重要であることは既に広く認識されている。
欧州サッカー連盟(Union of European Football Associations;UEFA)の専門家グループは2020年に、エリートサッカー選手の栄養に関する声明を発表している。今回紹介する論文は、このUEFA専門家グループの声明での推奨が、実際に男性サッカー選手の食事にどの程度反映されているのかを検討したもの。
男性プロ・セミプロレベル以上で検討した2011年以降の英語論文を抽出
男性サッカー選手の栄養素摂取量は、これまでに発表された論文を対象とするシステマティックレビューによって把握した。システマティックレビューとメタアナリシスのガイドライン(PRISMA)に則して、PubMed、Web of Science、EBSCO and Scopusを用い、男性サッカー選手の栄養素摂取量を検討した論文を検索。
適格基準は、横断研究、縦断研究、無作為化比較試験などによる原著論文であること、英語で書かれていること、2011年以降に発表されていること、18歳以上の成人で男性のプロまたはセミプロレベルのサッカー選手を対象に行った研究であることなど。除外基準は、原著でない総説など、英語以外の論文、2011より前に発表されたもの、プロ・セミプロ以外の選手や18歳未満または女性選手を対象に行った研究報告など。検索キーワードは、栄養所要量、栄養補助食品、食事摂取量、食事評価、スポーツ栄養、食事日記などを用いた。
2,257報がヒットし、重複の削除後、2人の研究者が独立してタイトルとアブストラクトに基づきスクリーニングを実施して、33報を全文精査の対象とした。採否の意見の不一致は、3人目の研究者との協議により解決した。
抽出された論文の特徴
最終的に17件の研究報告が適格と判断された。
英国からの報告が4件、オーストラリアが3件、スペイン、オランダ、韓国が各2件、その他は、マルタ、ポーランド、日本、ブラジルが各1件だった。大半は観察研究であり、シーズン前に行った研究が8件、シーズン中が10件で、1件はシーズン前とシーズン中の両方で調査していた。
摂取量の把握のための調査期間は、7日間が一般的で、次に3日間であり、他に6日間や4日間の研究もあった。
エネルギーと炭水化物、微量栄養素が不足
摂取エネルギー量
摂取エネルギー量の全体の平均は2,813±446kcal/日(37.7±6.2kcal/kg/日)で、シーズン前の研究の平均は2,916±471kcal/日(40.5±7.6kcal/kg/日)、シーズン中の平均は2,758±422kcal/日(36.0±4.4kcal/kg/日)だった。
ポジション別に検討した研究では、シーズン前の検討でフィールドプレーヤーでは最小が2,534±550kcal/日(35.3±7.7kcal/kg/日)、最大が3,701kcal/日(47.2kcal/kg/日)であり、ゴールキーパーはシーズン前が2,914kcal/日(29.2±7.5kcal/kg/日)、シーズン中は2,606±586kcal/日(29.1±6.5kcal/kg/日)。
これに対してUEFA専門家グループの声明は、フィールドプレーヤーは平均3,500kcal/日、ゴールキーパーは2,900kcal/日という目安を示している。
栄養素別の摂取量
炭水化物
炭水化物摂取量の全体の平均は327±94g/日(4.2±1.2g/kg/日)で、シーズン前の研究の平均は340±92g/日(4.7±1.4kcal/kg/日)、シーズン中の平均は326±93g/日(2.8±1.4g/kg/日)だった。これに対してUEFA専門家グループの声明は、4~8g/kg/日という目安を示している。
タンパク質
タンパク摂取量の全体の平均は1.9±0.3g/kg/日で、シーズン前の研究の平均は1.3±0.4g/kg/日、シーズン中の平均は2.0±0.3g/kg/日だった。これに対してUEFA専門家グループの声明は、1.6~2.2g/kg/日という目安を示している。
脂質
脂質摂取量の全体の平均は、摂取エネルギーに対して31.1±3.0%で、シーズン前の研究の平均は30.5±4.0%、シーズン中の平均は31±2%だった。これに対してUEFA専門家グループの声明は、25~30%という目安を示している。
ビタミンとミネラル
UEFA専門家グループの声明の推奨と比較して、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、葉酸、ビタミンB1、B2、B12、A、C、E、Dなどの不足が認められた。
各クラブはスポーツ栄養士を雇用すべき
論文では上記のほかに、各栄養素の摂取量をポジション別に不足か過剰か検討した結果などが示されている。それらに基づく考察のうえで結論は、「中程度からハイレベルの男性サッカー選手は平均的に、UEFA専門家グループの推奨する栄養素摂取量を遵守していないことがわかった。とくに、総エネルギー量、炭水化物、ビタミン、ミネラルの摂取不足が明らかになった。反対に、タンパク質と脂質は十分に摂取されていた」とまとめている。
また、「アスリートの食事に関する推奨事項の遵守状況の確認のため、およびその教育のために、各クラブがスポーツ栄養士を雇用することが重要だ。サッカー選手に必要な栄養は、ポジション、シーズン、チームの戦略から割り当てられたタスクを考慮する必要があり、それらによって推奨事項をどのようにアレンジすべきかについて、さらなる研究が求められる」と付言している。
文献情報
原題のタイトルは、「How Do Male Football Players Meet Dietary Recommendations? A Systematic Literature Review」。〔Int J Environ Res Public Health. 2022 Aug 3;19(15):9561〕
原文はこちら(MDPI)