筋骨格痛を起こしやすい思春期アスリートの特徴は? 痛みとパフォーマンスとの関連も明らかに
思春期のアスリートの「痛み」の症状のリスク因子が報告された。男児では身体的な成長の遅延、女児では健康状態の不良などがリスク因子であり、かつ、男児・女児ともに、身体的接触を伴わない競技を行っていることが痛みの発症に関連しているという。また痛みを有する男児はスポーツパフォーマンスが低いことも明らかになった。スウェーデンの体育学校の生徒対象の研究報告。
思春期アスリートの痛みの頻度や関連因子、パフォーマンスへの影響は?
痛みという症状は不快なものであり、QOLを低下させる。また、メンタルヘルスにも影響を与え、自覚的な健康状態の低下にもつながる。アスリートはトレーニングや競技に伴う受傷により痛みを自覚しやすく、ジュニアアスリートでの痛みの有訴者率は最大60%とする報告がみられる。痛みという症状がアスリートの健康を障害したりパフォーマンスを低下させる可能性がありケアが必要とされる。国際オリンピック委員会では、アスリートの怪我に加えて、疼痛の評価が必要であるとするステートメントを公表している。
ただし、思春期のアスリートの疼痛の有訴者率は明らかでなく、さらに疼痛のリスク因子や疼痛によるパフォーマンスへの影響も十分調査されていない。本論文の著者らはこれらのデータを得るため、以下の検討を行った。
体育学校の13~14歳の生徒を2年間追跡し、痛みの発生リスクを検討
スウェーデンの体育学校の2013~2015年の7年生(13~14歳)233人に研究参加協力を依頼し、214人が同意。ベースライン時に怪我をしていた生徒や痛みに関する調査に回答しなかった生徒、パフォーマンステストを受けなかった生徒を除外。また、後述の追跡期間中の脱落者などを除外し、最終的に131人を解析対象とした。なお、調査対象の体育学校はスポーツアスリート養成のための公立教育機関であり、入学にはスポーツ実技試験がある。
研究参加のベースライン時に痛みの有無などの調査を行い、対象者が9年生(15~16歳)になるまで追跡。追跡期間中の新たな痛みの発生頻度と、痛みの発生に関連のあるベースライン時の因子を縦断的に検討した。また、痛みの有無とパフォーマンスとの関連を横断的に解析した。
評価項目について
筋骨格痛の評価には、numeric rating scale(NRS)という指標を用い、痛みの原因がスポーツ活動に伴うものか否かにかかわらず、痛みの部位と頻度を把握した。健康状態は、EuroQol 5 dimensions 3-level(EQ-5D-3L)という指標を用い、可動性、不快感、不安/うつ状態などを把握した。
スポーツパフォーマンスについては、20mスプリント、T-敏捷性テスト、カウンタームーブメントジャンプ、および握力を評価した。
身体的成長の遅延や非コンタクトスポーツへの参加が痛みに関連
解析対象となった132人は、年齢がベースライン時に13.98±0.26歳、追跡調査時に16.00±0.26歳であり、男児が60%だった。なお、追跡期間中に脱落した生徒のベースライン時の痛みの有訴者率は、追跡を完了した生徒と有意差がなかった。
頻繁な痛みを訴える生徒の割合は、ベースライン時に54%、追跡調査時は47%であり、追跡調査時には男児よりも女児のその割合が高かった(p=0.005)。痛みの部位としては、ベースライン時には膝(27%)と下肢/足先(legs/feet.17%)が多く、追跡調査では腰(21%)と膝(18%)が多かった。
追跡調査時の痛みに関連のあるベースライン時の因子
追跡調査時に痛みを有することと関連のあるベースライン時の因子を、性別にロジスティック回帰分析で検討した結果、以下の関連因子が抽出された。
男児
男児では追跡調査時に痛みを有することの関連因子として、ベースライン時点において、身体的な成長が最も速い時期(peak height velocity;PHV)以前であることが抽出された(OR3.884〈95%CI;1.146~13.171〉,p=0.029)。また、行っているスポーツが身体的接触を伴うコンタクトスポーツでないこととの関連も、境界域の有意性がみられた(OR3.429〈1.001~11.748〉,p=0.050)。
一方、後述するように女児で関連のみられた、ベースライン時の痛みの部位数や頻度は、男児の場合、追跡調査時に痛みを有することと有意な関連がなかった。
女児
女児では追跡調査時に痛みを有することの関連因子として、ベースライン時点において2カ所以上に痛みを有すること(OR3.600〈1.033~12.524,p=0.044)、頻繁な痛みがあること(OR3.300〈1.029~10.588,p=0.045)、健康状態が良くないこと(EQ-5D-3Lが1未満の場合にOR3.571〈1.026~12.434,p=0.0045)が抽出された。また、男児同様に、行っているスポーツが身体的接触を伴うコンタクトスポーツでないことも有意な関連因子だった(OR8.282〈2.011~34.116,p=0.003)。
一方、前述のように男児で関連のみられた、ベースライン時にPHVの前か後かという差については、女児の大半がベースライン時点で既にPHV後であったため、解析不能だった。
痛みのある男児の思春期アスリートはパフォーマンスが低い
追跡調査時に痛みを有することと、スポーツパフォーマンスとの関連の横断的な解析の結果、頻繁な痛みのある男児は20mスプリント(p=0.011)とカウンタームーブメントジャンプ(p=0.041)の成績が有意に低かった。T-敏捷性テストと握力は、痛みの有無による有意差がなかった。
女児に関しては、評価した4つのパフォーマンス指標すべてが、痛みの有無による有意差がなかった。
これらの結果のまとめとして著者は、「思春期アスリートの両親、コーチ、教師、および学校のヘルスケア担当者は、子どもたちの痛みとそのリスク因子に注意し、痛みが持続する場合は適切に対処すべき」と結論している。
文献情報
原題のタイトルは、「Musculoskeletal pain and its association with health status, maturity, and sports performance in adolescent sport school students: a 2-year follow-up」。〔BMC Sports Sci Med Rehabil. 2022 Mar 21;14(1):43〕
原文はこちら(Springer Nature)